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友だち

羽矢はきちんと学校に通うようになった。

翔太は安心した。

しかしなぜか帰る時間が遅い。

以前はどんなに遅くても6時半には帰ってきた。

いまは8時半を過ぎても帰ってこない。

玄関を明るくするのは翔太のほうが多くなった。


学校の帰りに、何をしているんだろうか。


心配で毎日気が気でない。


「あんまり気にすんなって」

菅原は明るくいってくれるが、翔太の心の中は曇ったままだ。

「オレん家の秋奈も夜遅くまで帰ってこないぜ」

「でも心配だよ。どこで何やってるか、ちゃんと知っておかないと」

「本当におまえ、妹想いなんだなあ」

感心したように菅原がいう。


当たり前だ。

羽矢を護るのが、翔太の役目なのだから。


「ありがとう。いつも相談にのってくれて」

本当に菅原はいいやつだ。

「何いってんだよ!友だちじゃねえか!」


友だち……………………………………………。


そうか、友だちか……………………………………。


『友だち』という言葉に、翔太は胸が熱くなった。



電話を切り廊下を歩いていると、立浦の視線が飛んできた。

気づかれないように下を向いて歩く。

だが彼は笑いながら近づいてきた。

翔太は無視をして、そのまま歩き続けた。

それでも立浦は離れない。

「ちょっと。無視するなんてひどくねえか」

「うるさいな」

翔太は立浦にいった。ついてくるな、という目で見た。

すると、立浦はふふふっと小さく笑ってから

「オレさ、おまえと友だちになりてえなあって思ってるんだ」

「え?」

翔太は驚いた。

何をいっているんだこいつは。

「何いってるんだ」

思っていたことが口から出てきた。

「何って……。瀧川と友だちになりたいっていったんだけど」

もう一度立浦がいうと、翔太は即答した。

「悪いけど、断る」

当たり前だ。誰がこんなやつと友だちになるのか。

翔太の言葉を聞いて、立浦は頭を搔きながら、ふうん、といった。

「でもオレ瀧川がいつもひとりぼっちでいるの、かわいそうだなって思うんだよ。寂しくねえの?」

「別に寂しくない」

そして、「オレは友だちと話したりするのが苦手なんだ」と続けていった。

しかし立浦はまたふふふっと笑い、顔を覗き込むようにいった。

「何か悩んでるんだろう?オレでよかったら聞いてやるぞ」

「悩みなんてない」

「そうかあ?この前、『女の子は嘘見抜くの得意』って話したら、すげえあせってたじゃないか」

翔太はぎくりとした。

動揺がばれないようにしたが、立浦は気づいていたのだ。

「オレは女の子のことならなんでもござれだから。頼ってくれよ」

本当に、この立浦は何者なのか。

「……なんで……」

すると立浦はきょとんとして、またふっと笑った。

「おまえと仲良くなりたいんだよ」


翔太は考えた。

いま、自分は羽矢のことで悩んでいる。

羽矢の心が、気持ちがなんなのかわからないのだ。

立浦はそれを知っているかもしれない。

女の子の気持ちを教えてくれるかもしれない。


だったら………………………………


しかしすぐにその気持ちは却下した。

こんな男と関係を持ってはいけない。


黙っている翔太を見て、立浦は頷き、満足そうな顔をした。

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