表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/38

透明

もういなくなればいい。

この世から『瀧川羽矢』というわがままな子どもが消えてしまえばいい。

透明人間になるのだ。

そうすれば、兄は幸せになるかもしれない。

しかしそんな勇気が出せるわけない。

そしてまた、自分が嫌いになる。

羽矢は部屋の中で何度も思った。


いま、自分は中学生だ。

『思春期』の時。

思春期になると、男も女も体つきや心の中が変わっていく。

大人になっていくのだ。

でも自分は何も変わっていない気がする。

わがままで、自分勝手で……。

なんて子どもなんだろう。


「子どもなんて思われたくないよ。大人扱いして。お兄ちゃん」

こういえたら、この悶々とした気持ちは一気に消え去るだろう。

しかし、また翔太に「何いってるんだ。まだ子どもだろ。わがままで、自分勝手で、お兄ちゃん子で、一人じゃ何もできないっていつもいってるじゃないか」

なんて返されてしまったら、ショックでさらに落ち込んでしまう。


それだけじゃない。

あの夜、羽矢は翔太を「一人の男」として見た。

ふつうの、3歳年上の男の人。

一目惚れというものだろうか。

一気に目も心も奪われた。

羽矢はいままで人を好きになったことがない。

もちろん、翔太がいたからである。

「これって初恋なのかな」

羽矢は声に出していった。

しかし翔太は血の繋がった兄だ。初恋なんておかしい。



ひとつだけできそうなことを見つけた。

兄を持つクラスメイトたちに答えを教えてもらうということだ。

仲直りする方法を教えてくれるかもしれない。

羽矢は学校に行くことにした。

部屋から出たら翔太と顔を合わせることになる。

でももうこんな毎日を送るなんて耐えられない。

話しかけられても何も答えない。

透明人間になろう。

そう決めて、クローゼットの中の制服と鞄を取り出した。




翔太が朝ご飯の用意をしていると、羽矢が部屋から出てきた。

制服姿で学生鞄を肩にかけている。

1ヶ月ぶりの羽矢を見て、翔太は緊張した。

「ああ、羽矢。出てきたのか」

翔太が話しかけると、羽矢は何もいわず、目も合わせなかった。

そして玄関に行き、ドアを開けて出て行った。

完全に翔太を透明人間扱いしていた。

翔太の心の中に、ぽっかりと穴が開いた。

やはり羽矢は翔太のことを信用していないのだ。


いままで自分が妹のためにやってきたことが、全て透明な世界へと消えていった気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ