妹
翔太と羽矢の距離がだんだん遠くなっていった。
翔太が話しかけても、羽矢は完全に無視した。
羽矢は大人になれない自分を悔やんで、翔太はその羽矢の気持ちがわからず、ふたりの心は不安定に揺らいだ。
やがて翔太は羽矢に話しかけなくなった。羽矢は毎日部屋の中に引きこもっている。
なぜか空気が冷たく感じる。
ふたりのいる部屋が、寒くなっていく。
このままじゃだめだ。
翔太も羽矢も、そう思っていた。
けれど、どうしたらいいのかわからない。
羽矢が大人になれるまで、ずっとこうしているしかないのか。
しかし部屋の中で一人で引きこもっていたら、大人になんてなれない。
翔太は菅原に電話をかけた。
菅原は初めてできた友だちだ。高校生になっても仲良くしている。
さらに菅原には妹がいる。何かいいことを教えてくれるかもしれない。
「妹が、部屋から出てこなくなったんだ」
「出てこない?」
「うん。突然おかしくなった。ずっと部屋にこもってて……。とにかく、いきなりわがままになった。……いままでも充分わがままだったんだけど」
すると菅原はすぐに答えた。
「それ、反抗期じゃねえか?」
「反抗期?」
「そう。オレん家の秋奈もいまめっちゃ反抗期でさあ。毎日大ゲンカだよ」
そういえば翔太には反抗期というものがなかった。
というか、思春期もいったいいつ始まり、いつ終わったのかもよくわからない。
急に声変わりし、背が伸び、体ががっしりとした。
羽矢のことで毎日頭がいっぱいだったから、気がつかなかった。
「反抗期か。そうかもしれないな」
「だからそんなに心配しなくても大丈夫だって。お互いがんばろうぜ」
菅原の明るい声を聞いて、翔太は少し癒された。
その後もいろいろ訊いてみたが、結局いい答えは聞けなかった。
翔太はがっかりした。
数学みたいに、きちんと答えが出てくればいいのに。
電話を切り、目を閉じてため息をついた。
そして、目を開けると、すぐそばに立浦が笑って立っていた。
翔太はどきりとした。
「誰に電話してたんだ?」
近寄りながら、訊いてきた。
「なんでそんなこと聞くんだ」
翔太は目を合わせずにいった。
すると立浦も翔太から視線を外して「ちょっと気になっただけ」といった。
「この間、女の子が繊細だって話しただろ」
立浦の『おしゃべり』は突然始まる。
「次は、女の子が急に態度を変えてきた時の理由を教えてやる」
「態度を変える?」
「たとえば、突然つれなくなったとか」
翔太の胸がまたどきりとした。
「女の子が急に反抗してきたり無視したりするのは、隠し事をばれないようにするためだ」
「隠し事って?」
「いろいろだよ。好きな男の子ができたとか」
翔太は気がついた。
羽矢は、翔太にいえないことがあるのだ。
それを隠すために、あんな態度をとった。
いえないこととは何だろうか。
あんなに抵抗するんだから、羽矢の隠し事は大きいものだろう。
自分も……ものすごく大きな隠し事を持っている。
翔太が黙っていると、立浦の携帯が鳴った。
付き合っている女の子からだろう。
「じゃあ、オレはこれで」
にこにこしながら立浦は去っていった。
この男には驚かされる…………………………。
なぜか翔太が悩んでいる時にタイミングよくやってきて、ヒントを出すのだ。
立浦はオレたちのことを知っているのか…………………………。
そして、翔太は少し傷ついた。
羽矢が隠し事をしていること………そして、それを翔太にばれないように、抵抗したこと。
羽矢は翔太を信用していない。
信用していたら、素直に自分の気持ちを話してくれるはずだ。
惨めな想いになった。
たとえ信用されていなくても、羽矢は自分が護る。
羽矢を幸せにしたい。
自分はどうなってもいい。
羽矢を誰かに取られるのは、とても悔しいことだ。
こんなふうに出会わなかったら……といつも思う。
しかし彼女を幸せにするためには、その気持ちを無理矢理抑えなくてはいけない。
羽矢を幸せにする。
羽矢が幸せなら、自分も幸せになるのだから。




