表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/38

あせり

なんてバカなことをしたんだろう……………………


羽矢はベッドの中で何度もくり返し考えていた。


なんであんなこといっちゃったんだろう……………………。


あんなに翔太に怒鳴ったのは生まれて初めてだ。

感情的になりすぎてしまった。


お兄ちゃんは、あたしのこと心配してくれてるのに……………………

あたし、本当にわがままだ……………………


羽矢はいままでやりたい放題生きてきた。

兄に迷惑をかけていることも知らずに。

翔太はあまりにも優しすぎる。

だから、甘えてしまう。


昨日見た、兄の姿を思い出した。

もうすでに翔太は大人になっていた。

けれど羽矢はまだ子どものままだ。


翔太が一人暮らしをすることになったとき、羽矢はかなりあせった。

誰かに取られてしまう気がした。

そして、まだ子どもだと思われていると知ったときも、あせった。

早く大人にならないと、翔太はどんどん先へ行ってしまう。


子どもの頃、翔太はよく後ろを振り返ってこういった。

「羽矢は歩くの遅いなあ」

そうやって笑って待っていてくれた。

でもいまは違う。

自分から翔太に近づいていかなくてはいけない。

もう翔太は羽矢のことを待っていてくれない。


大人になりたい。

大人になりたい。

子どもだなんて思われたくない。


頭の中で、言葉がぐるぐると飛び回っている。


ふと棚の上に座っているクマのぬいぐるみが見えた。

小さい時父が買ってくれた5万円のぬいぐるみだ。

自分を優しく見つめている。

その目が、兄にそっくりだった。

羽矢は布団から出て、ぬいぐるみを手に取った。


お兄ちゃん…………………………。


その時、玄関の方から音がした。

翔太が帰ってきたのだ。

大急ぎでベッドに戻った。

どんな顔で話せばいいのかわからなくて、どきどきした。

部屋のドアが開く音がした。

「羽矢、ちゃんと学校行ったのか」

返す言葉が見つからない。

けれど、また布団を剥がされたくない。

「………行かなかった」

「なんでだ」

羽矢は口をつぐんだ。

朝、自分がしてしまったことを謝ろうと思った。

でも、その言葉がいえない。

見つからない。

「聞いてるのか」

翔太が近づいてくる。

羽矢はどうしていいのかわからない。


その時、無意識に羽矢は勢いよく起き上がった。

そして朝のように大声を出した。

「入ってこないで!」

翔太は驚いた顔をした。

しかしすぐにいつもの顔に戻った。

「ちょっと落ち着けよ。おまえ、何があったんだ」

「何もないよ!」

違う。

自分はあせっている。

大人になれないから。

翔太についていけなくなるかもしれないから。

いや、もうついていけていない。

子どもの自分が腹立たしい。

わがままで、自分勝手で、兄に迷惑をかけて……


あたしは………………

あたしは……早く大人になれないのが悔しくて寂しくて、そしてまた子どもみたいにお兄ちゃんに八つ当たりしてる。


「じゃあどうしてそんなに怒ってるんだ」

「怒ってない」

「羽矢、頼むから兄ちゃんに」

「迷惑かけるなって?子どもの羽矢に迷惑かけられて嫌なんだね。そうよね、あたしなんかがいたら毎日毎日お世話で大変よね」

翔太の言葉を遮って、大声でいう。

「わかった。じゃああたしここから出て行く」

思わず口から飛び出た。

「待てって。出て行ったらどこに行くんだよ」

「一人で見つける」

「どうやって見つけるんだ。まだおまえ中学生なんだぞ」

「また子ども扱いするっ」

「違うよ、羽矢。ちょっと落ち着け」

「もう話しかけないで!」

自分が何をいっているのかわからない。


羽矢はそばに置いていたぬいぐるみを翔太に向かって投げた。

ぬいぐるみは翔太の胸に当たった。

そして頭から落ちた。

優しい目で羽矢を見つめながら落ちた。

翔太はそっとぬいぐるみを拾って、そばの机の上に置いた。

「ごめんな」

目を合わせず小さくいうと、静かに部屋から出て行った。


信じられなかった。

頭の中が真っ白になった。

体が動かない。

声も出せない。

涙も出てこない。


どうしよう…………………。

お兄ちゃんにひどいことをしてしまった。

謝るどころか、もっとひどいことをしてしまった。


その場にへなへなと座り込んだ。

もう何も考えられなかった。
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ