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兄と男

学校帰りに羽矢はコンビニに立ち寄った。

翔太が働いているコンビニだ。


家に帰っても誰もいない。

ちょっとでも人と一緒にいたい。

もしかしたらお兄ちゃんに会えるかも。

そう思いながら、自動ドアの前に立った。


しかし兄は現れず、ただぶらぶらと歩くだけだった。

人の数もまちまちで、結局時間の無駄になった。


仕方なく羽矢はコンビニから出てマンションに向かった。

玄関は真っ暗なままだ。

帰ってきたら必ず玄関を明るくする。

翔太とふたりで決めたルールだ。


やっぱりまだお兄ちゃんは帰ってきてない。


羽矢は寂しくなって、下を向いた。

宝くじで1千万とか当たらないかなあ…………。

そうすればお兄ちゃんは働かなくていい。

ドアを開けながら、羽矢は思った。


部屋を明るくして無駄に広い部屋に立った。

今夜はいつ帰って来るかな。

時計を見上げて、また寂しくなる。


翔太はだんだん大人になっていく。

働くことやお金の大切さ、人との関係………。

けれど羽矢はずっと子どもだ。

働けばお金がもらえるのはわかる。

でもどれだけがんばればたくさんお金がもらえるのかということは知らない。

きっと中学生にだってコンビニのアルバイトくらい簡単にできると思う。

その考えがまだまだ子どもなのだ。

翔太に子ども扱いされても仕方ない。


羽矢は翔太の部屋に入った。

そしてベッドの中に潜り込んだ。

いつもここで翔太は眠っている。

幼い頃はふたりでひとつのベッドに寝たりしていた。

優しく抱きしめてくれた兄の腕。

天国に昇ったような幸せな気持ち。

羽矢は昔を思い出し、うとうとし始めた。



夜の9時になった。

翔太は大急ぎでマンションに向かった。

いつもよりかなり帰る時間が遅くなってしまった。

羽矢がまた何も食べずに一人きりで待っている。

切ない気持ちで翔太は走った。

勢いよくドアを開け、部屋に飛び込んだ。

「羽矢!ごめん!」

しかし羽矢はリビングにはいなかった。

羽矢の部屋に入ると、そこにも彼女はいなかった。

おかしいな、と思いながら自分の部屋のドアを開けると、そこに羽矢はいた。

ベッドの上で気持ちよさそうに眠っている。

完全に子どもの顔だ。


どうして自分の部屋にいるのかわからなかったが、起こさないでそのまま寝かせておいた。

翔太は着ていた制服を脱ぎ始めた。

コートを脱ぎ、ネクタイを取り、ワイシャツのボタンを外していく。

すると、うーん、という羽矢の声が聞こえた。

そしてむっくりと起き上がった。

「あ、羽矢。起きたのか」

翔太がいうと、羽矢はゆっくりと翔太のほうに目を向けた。

そして、大きな目をさらに大きくした。

口を半開きにして、何もいえない顔をしている。

「どうしたんだ」

翔太が話しかけると、羽矢はうわああああっと大声を出した。

顔を隠すようにして、羽矢が一目散に部屋から出て行った。

翔太はわけがわからなかった。



自分の部屋に入り、その場にしゃがんだ。

胸がどきどきしている。

どうしたのか自分でもわからない。


翔太の着替えを見たことは何度もある。

自分の着替えを見られたこともある。

でもそれは小さい頃の話だ。

大人になってからは一度もない。

羽矢は初めて男の人の体を見た。

大人の、男の人の体を見た。

びっくりして大声で叫んでしまった。


一緒に住んでいるのだから、こういうことは必ずある。

それに男の人は上半身が出ていても別に恥ずかしいことはない。

それなのにこんなに動揺するのは、やはり「好き」だからなのか。


さらに羽矢が驚いたことは、翔太がもう大人になっていたことだ。

羽矢は「お兄ちゃんが大人になったら、あたしも大人になるんだ」と思っていた。

しかし違っていた。

翔太は別の世界に行ってしまった。

羽矢が知らないうちに。


寂しさと悔しさが羽矢の心にナイフのように突き刺さった。
















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