大芽をなんかぎゃふんと言わせる 幼児ver.(巡る軌跡)
今日は、瑞穂とシンの家で遊ぶ日だ。
「おやつがあるよー。手を洗ってらっしゃーい」
たくさん遊んでつなぎ様から帰ってきた大芽は、おばさんの声に顔を光り輝かせた。
瑞穂たちと先を争って洗面所に走り、ごしごし手を洗う。子供専用の低い椅子をひきずってテーブルに着いた。
今日のおやつは鮭とゆかりご飯のおむすびらしい。ぱりぱりの海苔と、つやつやしたふっくらご飯を見て大芽はゴクリと唾を飲んだ。よく動いたから、お腹はぺこぺこだ。
この家のおやつには、大芽の所と違ってあまり菓子類は出ない。それでもご飯の時間以外に食べる焼き芋やトウモロコシ、果物類は、腹ぺこ幼児を大いに喜ばせている。
大芽はにっこり微笑むと「いただきまーす」と元気よく手を合わせた。
「ちょっと待ってタイちゃん」
いざ皿に手を伸ばそうとしたところで、隣の瑞穂に止められる。大芽は首を傾げた。
「なあに、ミズちゃん」
「ねえねえ、ぎゃふんって言ってみて」
「なんで?」
「いいから」
大芽はむぅ、と眉根を寄せて不満の表情を作った。大芽ももう四歳。いくらよく遊んでくれる瑞穂の言うこととはいえ、ワケの分からない要求に、諾々と応えるわけにはいかない。お祖父ちゃんにも、「男には信念を貫き通さねばならぬ時もある!」と重々しく述べられたことがあるのだ。ちなみに祖父の言葉の意味はよく分からなかったが、なんだかカッコイイ響きだと、大芽は深く頷いておいたのだった。
「いやだ!」
大芽は鹿爪らしくかぶりを振った。大芽は男の子なのである。おいそれと女の言いなりになるわけにはいかない。
「タイちゃん鮭好きだよね。おむすび半分あげるよ」
「ぎゃふん」
二人のやりとりを横で聞いていたシンがすかさず言った。
「ぎゃふん」
慌てて大芽も続く。
あっさり信念を覆し、シンと共にほくほく顔でおむすびを受け取って、ご満悦の大芽であった。