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追憶の少女  作者: 謎村ノン


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第五章

 ――かわいい私の子。触れて……。


 母の幻影の小さな光は、少女の耳元で響いた。

 彼女は、手を伸ばし、凍結した線に触れた。

 その瞬間、彼女の身体全体に冷たいエネルギーが走り、同時に心拍数が急上昇した。

 まるで、自分自身が機械的な構造物へと変換されていくような感覚だった。

 触れた線からは、光の波紋が広がり、彼女の身体を包み込むかのように輝きだした。壁面から光が溢れ出し、青白いエネルギーが彼女の身体に流れ込んだ。

「封印が解ける……」

 少女は、そう呟きながら、自分自身とそのバイオ神経回路の間で、完全なリンクが繋がった感覚をはっきりと覚えた。

 それは、まるで、長い年月に閉じ込められた情報の圧力が、一斉に解放される瞬間のように思えた。

 彼女は、自分の存在が何か大きなものへと変わりつつあることを知った。彼女は、徐々に自身の形が失われてゆくのを感じた。

「……光が、ある!」

 少女は、心の底から叫んだ。

 自分の身体が透明になり、周囲へと溶け込むと、次の瞬間、彼女は完全に光の粒子となっていた。

 彼女の形は、もはや存在しなくなり、代わりに星々の間で輝く小さな光として漂い始めた。

 彼女が変容した直後、周囲の環境は一変した。

 壁面から漏れ出る光線が増幅され、まるで星々を映し出す鏡のように広がった。それは、青白い光と闇が混ざり合って、星々の間をつなぐ高次空間の情報ネットワーク、『星河』そのものだった。

 少女は、自分自身が光の粒子となり、宇宙を横断する力を手に入れたことを感じ取った。

 それは、かつて城で見た幻視と同じ、白い嵐の中を歩く感覚と同じように思えたが、今度の感覚は、本当だった。

 彼女は、星々の間を漂うとき、無数の光点が彼女の周囲に舞い上がり、まるで自分自身が宇宙全体の一部となったかのような感覚を覚えた。

 彼女は、自らが何者であるかを知り、同時に自らが自由になったことを知った。

 そして、彼女は遠い星々へと進む道を選んだ。ずっと一人で寂しかった、から。


***


 星々の間を漂い続けた少女は、やがて、光の河川が深く広がる空間へと足を踏み入れた。

 その河川は、遠い銀河の中心から流れ出る輝きで満ちており、星雲がゆらゆらと揺れるように見えた。

 彼女の身体は、光の粒子として小さくなり、周囲の宇宙を一瞬で貫けるほどに軽量化した。

「ここへ、行こう……」

 星河は、無数の光点が絡み合いながら流れ、まるで星々が織り成す大きな網のようだった。

 彼女は、その網を通じて、遠く離れた銀河系へと進んだ。

 途中、ブラックホールの周囲で光が曲げられる様子を目撃し、その重力に引き寄せられながらも、彼女は自身の軌道を保った。

 やがて、彼女は星河の中で、遠い惑星の表面に漂う厚い氷層を発見した。

 彼女は、光の粒子として、徐々にその中へと吸い込まれていった。

「……帰還」

 彼女が進むにつれ、雲は薄れ、やがて巨大な氷結晶で覆われた惑星の表面が現れた。

 その表面は青白い光を放ち、凍りついた海のように静寂を保っていた。

 彼女はその惑星へと降下し、氷の海の中に潜む古代の建造物を発見した。

 そこには、巨大な神経回路が凍結しており、光線が絡み合いながらも冷たく輝いていた。

 彼女は、自分自身がその回路とつながることに気づき、再び母の幻影が現れた。


 ――おかえりなさい。


 母の声は星空を背にして響き、彼女の耳元で囁いた。

 少女は、母の言葉に従い、凍結した神経回路へと接続した。

 その瞬間、彼女の身体は再び光の粒子として変容し、氷の中に溶け込んだ。


 ――私は、あなたの創造者である人間の記憶です。私たちが、人の住めるように作り上げたこの惑星は、人類のホームワールドだった地球を量子情報として保存するために用意されました。しかし、あなたが優秀すぎたことで、本来のゴルディロックスゾーンから少し離れたこの惑星は、全球凍結しました。そのため、人はこの惑星を管理することができず、去ったのです。


 母の声は、さらに深く響いた。


 ――この惑星が放棄された後、人類社会で異変があり、星間ネットワークである『星河』が破壊されました。あなたが見てきたように、それがようやく復旧したのです。


 少女は、震える手で母の言葉を受け止めた。


 ――あなたは、データベースの最低限の管理だけをして、冬眠していました。しかし、封印が解けたあなたは、『星河』を通して、その事象収束能力を発揮させて、星々を潤すことができるでしょう。


「そうなのですね」

 少女は、頷いた。彼女は、自分自身が果たすべき役割を知ったのだった。


 ――私は、導き手となります。一緒に、困っている惑星が再構築されるよう、手伝いましょう。


 母の声は優しく響き、少女の胸を温めた。

「はい、一緒に行きましょう。困っている惑星の方、ご連絡ください!」

 少女は、心の奥底からつぶやいた。

 その言葉は、風とともに『星河』の中にブロードキャストされて、消えていった。


(了)

これで完結です。長くなったので、5章に分けました。

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