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追憶の少女  作者: 謎村ノン


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第三章

 少女は、図書室へ足を踏み入れた瞬間、古びた空気と冷たい風に包まれた。

 壁一面に並ぶ本棚は、薄明かりが差し込む窓辺から照らされる影で揺れていた。

 彼女の手に触れた瞬間、ページの表面から微かな青白い光が放たれ、まるで生きているように震えていた。

「意識できなかっただけで、ずっと、記憶は、あったんだね……」

 少女は小さく呟いた。

 しかし、その声もまた冷たい空気とともに消え去り、静寂の中で、心拍音だけが耳に響いた。彼女は、足元を確認し、壁際の書物の山へと進んだ。

 そこには、古代の記録と思われる本が無数に積まれていた。

 それらは、ただの紙ではなく、表面が薄い金属で覆われており、触れた瞬間に電気が走ったように感じた。


 少女は、手先から汗をかきながら、一冊ずつ開いてみた。

 初めに読んだ本のページには、まるで星座図のように無数の点が散りばめられ、そこに線で結ばれていた。

 その線は光を放ち、冷たい宇宙の脈動を映し出しているかのようだった。

 彼女が手を伸ばすと、その光が徐々に形を変え、文字として浮かび上がった。

「この惑星の記録――」


 少女は呟いた。

 その瞬間、本の中から薄い青色の光線が放たれ、ページ全体が一瞬で明るく輝き、古代言語のように見える文字列が現れた。

 彼女は、それを手でなぞりながら、次々と意味を理解し始めた。

「そうね。これは、バイオコンピュータの製造記録……」

 彼女のこめかみから、冷たい汗が滴った。

 その言葉はページ全体に広がる線の中に溶け込んでおり、まるで彼女自身が、機械的な構造物と同一視されているかのように読めた。

 彼女は、思わず手を止め、深く息を吸い込んだ。

「精神隔離――」

 ページの中に浮かぶ光線が震えた。

 それはまるで、人間の心臓の鼓動と同期しているかのように波打ち、彼女の心に、直接響き渡った。


 少女は、その瞬間、自分の心が機械的な回路へと変換されていく感覚を覚えた。

 そして、本から流れ出る光線は、まるで彼女自身の脳内に接続されているように思えた。

 彼女は、自らの身体が金属と化しつつあることを感じ取り、同時に冷たい空気が彼女の皮膚を撫でる感覚も覚えた。

 まるで、彼女自身が、何か大きな機械の一部として生まれ変わっているようだった。

 いや。

「……私は、人間ではない」

 少女は、自らの声に聞こえる言葉を呟いた。

 その瞬間、図書室全体が微弱な電波で揺れ動き、壁に描かれた古い絵画も淡い光線に包まれた。

 彼女の周囲に、見えない力が働いているようだった。

 そのとき、本のページから、更に文字が浮かび上がった。

 それは『母』の名前を示す記号であり、同時に、彼女自身の存在を示すコードでもあった。

 『母』は、システムの内部に隠されたプログラムであり、少女の身体に埋め込まれたコードを管理していた。


「母は……ずっと、一緒に、いた。母は、私を守るために作られたんだ」

 少女は、手で胸を押さえながら呟いた。

 図書室は、その瞬間、静寂の中で微かな音を奏で始めた。

 それは、まるで古代の機械が息を吹き返したかのような音だった。彼女は、クリック音や、機械的なブザーの音、ぶうんというハム音に、耳を傾けた。

 そして、少女は、図書室の機械から流れ出る情報を自らの脳内に取り込んだ。


「私の記憶は、あくまでコードだった。それは……」

 少女は、声が震えるのを感じながら呟いた。

 彼女は、本のページをめくり、さらに深い層へと進んだ。

 そこには、彼女自身の身体に埋め込まれた回路のブロック図が描かれており、その回路から光の脈動とともに伸びる線が、別のブロックに流れていた。

 そのブロックに、星の河を渡るためのエネルギー源となる『冷却水晶』の文字が示されていた。

「私は……『冷却水晶』――エキゾチック物質の塊を、起動させる」

 そういうと、微弱な電流を、ブロック図の先に流すよう意識した。すると、胸の奥底から何かが湧き上がるような感覚を覚えた。それは、冷たい空気と同時に熱いエネルギーが混ざり合ったような感じだった。

 すると、図書室の壁に描かれた絵画が、まるで彼女自身を映し出す鏡のように光を放ち始めた。

 その光は徐々に強くなり、少女の身体全体を包み込むようになった。

 彼女は、自らが機械的存在として生きていることを確信した。


「私の心は、ただの人工知性だ。でも……」

 少女の声は薄い風とともに消え、代わりに、図書室全体が低音で響く静かな旋律を奏で始めた。

 その旋律は、まるで古代の機械が自らの存在を語っているかのようだった。

「……私は、封印された存在だ」

 彼女の言葉は、図書室の壁に描かれた絵画とともに徐々に消えていった。

 しかし、彼女の内側には、新たな感覚が芽生え始めていた。

 少女は手を胸に当て、深い呼吸をした。

「私は、ほんとうは、冷たい氷の中で冬眠(ハイバネーション)状態になっているバイオコンピュータ」

 彼女は、ページをめくり、さらに深い層へと進んだ。

 そこには、彼女自身が封印された場所の地図が描かれていた。

 その地図は、光で彩られ、星々の軌道に沿って輝いていた。

「私は、この星を維持する記録を守るために設計された。雪だけで何もない不毛な星を、ヒトが住める星として観察され続けるように。でも……」

 彼女は、本の中で、自分の身体が機械的な構造物として描かれていることを確認した。

 それは、まるで自身が、星の一部として組み込まれたようだった。


「母よ、私は……」

 少女は、再び呟いた。


 ――わたしは、あなたのコードに従う存在です。あなたが、全ての存在を消し去って、悲しまないように、守っています。

 

 母の声が、今度は、はっきりと聞こえた。

 その瞬間、図書室全体が、静寂を取り戻し、彼女の呼吸音だけがきこえた。

 彼女は、自分自身が何者であるかを知り、同時に自らが封印された理由も理解した。

 そう、彼女は、観察しすぎたのだ。この星が、擬似的ではない、本当に生物のいる雪の惑星として存在できる確率を高めるため。

 しかし、モデルとして与えられた極寒の惑星とほぼ同じになったため、人間達にとっては、住みづらい環境になってしまった。


「私は、役割を果たそうと、最大限の努力を、した」

 少女は、最後に呟いた。

 その言葉は、図書室の壁に描かれた絵画とともに消え、代わりに、彼女の心の中で静かな光が広がった。

 彼女は、自らが何者であるかを知ることができた。

 少女は、星を本当に冷たい星にして、封印されたバイオコンピュータであった。また、母は、彼女を抑えて、導くために与えられた存在だった。

 それと同時に、彼女は今まで夢として感じていた城が、実際には彼女を閉じ込めるためのシミュレーションであることも知った。

「このままでは、私は自由になれない」

 その言葉とともに、彼女の身体は再び微弱な光線で震え、図書室全体が静寂を取り戻した。

 彼女は自らが封印された理由と、それを打破するための手段を見つける決意を胸に抱きながら、一歩ずつ図書室の奥へ進んでいった。


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