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大好きな人たちのために私ができること  作者: 水無月 あん


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4.覚悟を決める

覚悟を決めた私は、お父様のところへ話をしにいった。


「お父様、お願いがあります。アーノルドと婚約を解消させてください!」


「……わかった。アンジェが望むなら、すぐにそのようにしよう」


即答したお父様。

その反応に、お願いした私のほうが驚いてしまう。


「え? あの、お父様……? 理由も聞かず、すぐに了承して大丈夫なの……?」


「理由? アーノルド君にまつわることで傷ついたアンジェが二日間も目をさまさなかった。そのことで、十分、婚約を解消する理由になる」


「でも、それはアーノルドのせいじゃない! 私が勝手に傷ついて、魔力を放出できない状態になってしまっただけだから。弱すぎる私がダメだから……」


「アンジェ、やめなさい。自分のことをそんな風に悪く言うのは、自分に呪いをかけてるようなもんだぞ。アンジェは私の自慢の娘だ」


「……ありがとう、お父様」


「それより、アンジェ。私へ願うことはアーノルド君との婚約を解消するだけではないのだろう?」


私の心をまるで見透かしたように聞いてきたお父様。

私は驚きつつ、うなずいた。


「お父様、私をベイリ国に行かせてください。魔力について学べる学園にはいり、自分のこの魔力をちゃんと知って、魔力を持つ自分自身を好きになりたい。そうして、いつか、人のために役にたちたいの。私はいつも守られてばっかりだったから……。アーノルドにとったら、政略的な婚約で不本意だったのかもしれないのに、アーノルドの気持ちも考えず、ずっと甘えっぱなしだった。……私は魔力にふりまわされて、狭い世界にとじこもって、まわりが何も見えてなかった。今回、学園でのふたりの様子を知って、つくづくそう思ったわ」


「そうか。アンジェがそんな気持ちになったのなら、私は全力で応援するよ。魔力はお母様からの贈り物で、アンジェの個性だ。ベイリ国でしっかり学んできなさい」


そう言って、お父様は私の頭を優しくなでてくれた。



私のベイリ国行きは急遽10日後に決まった。

おばあさまに連絡をとると、すぐに、お母様の主治医のレベッカ先生に頼んでくれて、魔力を学べる学園に来月から編入できることが決まったから。


ルイーズに手伝ってもらって、あわただしく荷物をまとめていると、アーノルドがたずねてきた。

メアリー姉様と一緒に……。


学園祭のあと、メアリー姉様から私が見に来ていたことを聞いたアーノルドが私に会いに来ていたそう。

そこで、私がたおれたことをお父様から聞いたアーノルド。

心配して、翌日もきてくれていたようだけれど、まだ、私が目をさましていなかったから、今日もまた来てくれたのね。


いつもだったら、アーノルドがたずねてきてくれたら嬉しくて飛んでいくのだけれど、なんだか会うのが怖い……。


「アンジェリンお嬢様、さしでがましいことですが、おふたりに無理して会われなくてもいいと思います。体調がもどられていないとお断りしてきましょうか?」


私の気持ちを察したかのように提案してくれたルイーズ。


私は首を横にふった。


「ううん、会うわ……。ベイリ国に行く前に一度は顔をみせておかないと。アーノルド、すごく心配してくれていると思うから。そうだ、ルイーズ、お願いがあるの」


私は、いつもはしないお化粧をルイーズに頼んだ。

少しでも顔色をよくみせてもらいたかったから。


お父様は、明日、アーノルドのお父様であるキングス公爵様に直接会い、婚約解消の話と私のベイリ国行きの話をすると言っていた。

だから、今はまだ、アーノルドは何も知らない。


婚約解消されれば、この国に帰ってきても、個人的にアーノルドに会うことはないと思う。


でも、アーノルドは優しすぎるから、婚約解消しても妹のように思う私のことを心配してしまうかもしれない。

だから、最後に少しでも元気な印象をあたえて、アーノルドが私を気にしないようにしておきたい。


ドレスも明るいピンク色を選んだ。


「髪はいつものようにまとめられますか? でも、せっかくお化粧して、ますますおきれいになられたのですから、ぜーったいにおろしたほうがいいです! アンジェリンお嬢様の銀色の髪は月の光みたいで、本当にお美しいのに。まとめたらもったいないですから!」


ルイーズが力強い口調で言った。


「ありがとう、ルイーズ。そうね、今日はおろしたままにする」


「良かった!」


ルイーズが破顔した。


こんなにルイーズが喜ぶのには理由があって、ここ数年、ルイーズがなんと言おうが、私はアーノルドに会うときは頑として長い髪をまとめていたから。


きっかけは些細なことだったと思う。


めったに外にでない私だけど、お父様の誕生日プレゼントを買いに町へ行くことにしたら、いつものように心配したアーノルドがついてきてくれた。


その時、町で、見ず知らずの女性たちとすれ違った。

すれ違いざまに聞こえてきたのは、アーノルドの見た目をほめる声。


同時に、私への声も。


「あのかっこいい人の隣の女の子、誰なのかしら? 恋人?」

「まさか、違うでしょ。こどもみたいでつりあってないわよ。妹なんじゃないの?」


それを聞いた私は3歳年上のアーノルドにつりあうよう、少しでもおとなっぽく見られたいと思った。

だから、おとなっぽいメアリー姉様にどうしたらいいのかアドバイスを求めた。


「確かに、アンジェリンさんはかわいらしいお顔立ちだから、幼く見えるわね。だったら、アーノルド様と会うときだけでも、髪の毛をまとめてみたらどうかしら? きっちりと後ろでまとめれば、随分、おとなっぽく見えると思うわ」


なるほど、それもそうだと思った私は、アーノルドに会う時は必ず髪をまとめるようにした。


でも、そんなことをする必要はもうない。

子どもっぽく見えるなら、それでもいい。


アーノルドに似合う自分になりたいと思う気持ちも捨てないといけないから……。


私はおろしたままの銀色の髪の毛を櫛でとかすと、アーノルドとメアリー姉さまが待つ応接室へと歩き出した。

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