番外編17. ある子息の初恋
第二王子オズワルド様と王子妃リンダ様の声がはっきり聞こえるくらいまで、距離が近づいてきた。
王族らしい華やかなオズワルド様とリンダ様の姿に感嘆する声があちこちでもれる。
そんななか、みんなからの挨拶をにこやかに受けられ、親し気に言葉を返していくおふたり。
そして、ついに、隣のブルーノ子爵夫人が挨拶をする番になった。
挨拶をし始めたブルーノ子爵夫人の声は上ずっていて、感極まっている様子だ。
その隣で、僕は緊張のあまり、息をするのも忘れるほど全身に力がはいっていた。
それは王族を目の前にした緊張ではなく、アーノルド様とつながるオズワルド様がメアリーを気に留めることのないよう、無難に、挨拶をおわらさなければいけないという緊張。
そして、あっという間にブルーノ子爵夫人の挨拶が終わり、僕の番になった。
緊張で、全身はがちがちだけれど、なんとか、僕はオズワルド様とリンダ様の前に進み出た。
地味な僕が前にでることで、地味な僕の婚約者として、メアリー自身のことが、少しでも隠せられるように、と。
「……私はゴラン子爵家の嫡男、ジョイスと申します。婚約者のメアリーとともに、ご結婚を心よりお祝い申し上げます」
メアリーに意識を向けてほしくなくて、とっさにメアリーの家名をふせて、簡単な挨拶をした。
口にしたあとに、メアリーがないがしろにされたと思わないだろうかと不安になる。
あわててメアリーを見れば、気にした様子はなく、いつものように、きれいな笑みをうかべて、おふたりに向かってカーテシーをしていた。
「ゴラン子爵家に嫁ぎますメアリーと申します。ご結婚、心よりお祝い申し上げます」
僕の言葉にあわせるように挨拶をしてくれたことに、ほっとする。
「ゴラン子爵家のご子息ジョイス殿と婚約者メアリー嬢、祝いの言葉をありがとう。婚約者ということは、ふたりの結婚の予定はいつなのかな?」
僕たちの名前を即座に覚え、気さくに問いかけてきたオズワルド様。
「まもなくでございます」
「それはおめでとう」
輝くような笑みを浮かべたオズワルド様と王子妃リンダ様。
「「ありがとうございます」」
僕とメアリーがそろってお礼を言うと、オズワルド様が微笑みながらうなずいて、僕たちの前をとおりすぎた。
何事もなく挨拶が終わって良かった……と、安堵したその時だった。
オズワルド様が、ふと、僕たちの背後、広間の出入り口があるほうに視線をやった。
次の瞬間、破顔したオズワルド様。
「おっ! やっと、きたか……!」
と、嬉しそうな声をあげた。
やっと来た……?
だれが来たんだ……?
なんだか嫌な予感がする。
オズワルド様の表情や口調から、とても親しい相手が来たことはわかる。
でも、それが誰なのか確認するのが怖くて振り向けない。
オズワルド様は、僕の次に挨拶を待っていた人物にむかって声をかけた。
「友人が来たので、悪いが、少し失礼するよ。私とリンダの祝いの席だから、少しでいいから顔をだしてほしいと頼んでいたものでね。友人は、こういう場には寄りつかないため、なかなか会えないんだ。……リンダ、紹介するから行こうか」
「あなたの弟みたいな方なんでしょう? やっと会えるのね。楽しみだわ」
と、王子妃リンダ様がオズワルド様に向かって微笑んだ。
オズワルド様の友人で、弟みたいな近しい人物。
そして、こういう場にはこない人物。
まさか、そんな……。
嫌な予感だったものが、だんだんと形をなしてきて、冷たい汗がでてきた。
オズワルド様はリンダ様の手をとると、向きをかえて、広間の扉のほうに向かって歩き出した。
いや、違う……。
あの人じゃないはずだ……。
きっと、僕の思い過ごしだ。
どうか、違う人であってくれ……!
誰なのか確認するのが怖くて、扉のほうを振り向けない僕の隣で、メアリーがはっとしたように目を見開くと、勢いよく、後ろを向いた。
「どうした、メアリー……?」
おそるおそる声をかけてみる。
メアリーがすぐに僕のほうに向きなおって「なんでもないわ」と、いつものように笑ってくれますように……。
そう願いながら、メアリーの反応を待つ。
が、メアリーは僕の声が聞こえていないようで、扉のほうを見たまま動かない。
そして、返事のかわりに、メアリーの手から扇子がぽとりと落ちた。
嫌な予感は確信に変わった。




