番外編7. ある子息の初恋
僕と一緒に夜会にでたいというメアリーの願いをかなえるため、うちに夜会の招待状が届いていないか父に聞いてみた。
僕の言葉に、父は余程驚いたのか、手に持っていた書類を落とした。
まあ、当然の反応か……。
夜会のことでは何度か言い争ったことがあるからだ。
メアリーと婚約する前、婚約者がなかなか決まらない僕に、父は腹に据えかねた様子で、「夜会にでも行って、相手を見つけてこい!」と何度も叫んだ。
「行きたくないし、行ったところで、見つけられるわけがないだろう」と、その都度、僕は言い返して、夜会へ行くことを拒否してきた。
人づきあいの苦手な僕にとったら、社交の場である夜会は、自分とは全くかかわりのないもので、近づきたくないところだ。
けれど、メアリーが願うのなら、夜会は苦手だから行きたくないなどとは絶対に言えない。
メアリーが行くのなら、当然、僕も夜会に行く。
メアリーを守るために、僕は盾になるつもりだ。
僕は父に説明した。
「メアリーがゴラン家のため、そろそろ社交を始めたいと言ってくれているんだ。そのために、僕の婚約者として夜会にでたいそうなんだ」
「いや……だが……メアリー嬢が夜会に行けば嫌な思いをするだろう……?」
最近はすっかりメアリーを認めている父もまた、僕と同じ心配をしたようだ。
僕はメアリーの言葉をかいつまんで父に話した。
噂のことを心配した僕に、メアリーが、ずっと逃げてるわけにはいかないと言ったこと。
僕と仲のいい姿を見せて、真実ではない過去の噂を消し去りたいと言ったことも。
父は少しの間、黙って考えた後、重々しくうなずいた。
「確かに。メアリー嬢が言うように、ずっと社交から逃げているわけにはいかないからな。……ジョイス。おまえは人と関わるのが苦手だ。だが、それでは、メアリー嬢は守れないぞ。貴族社会の中で生きていくのなら、社交は武器になる。メアリー嬢と結婚したいのなら、まわりにぐちゃぐちゃ言わせないよう、ジョイスも頑張ってみろ」
そう言って、数枚の招待状を僕に手渡してきた。
◇ ◇ ◇
父に渡された招待状をメアリーに見せたら、輝くような笑顔で喜んでくれた。
そして、食い入るように招待状を見始めたメアリー。
「今、メアリーが手に持っているロワルダ伯爵家の夜会を父はすすめていた。ロワルダ伯爵は父の学生時代の友人なんだ。だから、最初はそこに出席したほうがいいんじゃないかと言っていたが、メアリーはどう思う?」
真剣に招待状を見ているメアリーに問いかけてみる。
「もちろん、出席させていただくわ。それに他の夜会も全部行きたいわ」
「え、全部……? いや、でも、開催される日が続いているから、全部は大変だと思う。それに、これなんかは、主催者と関係が薄いから、父は欠席するつもりだと言っていたが……」
僕の言葉を遮るように、メアリーが強い視線を投げてきた。
「ダメよ、ジョイス。どの夜会に誰がきているかわからないもの……。だから、全部、行きたいの」
メアリーの言葉がひっかかった。
考えたくもないのに、とてもつもなく嫌な想像が頭をよぎってしまう。
もしかして、メアリー……。
君は、誰か、夜会で会いたい人でもいるのか……?
だから、全部の夜会に行こうとするのか……?
誰かを探すために……。
でも、口にはだしたくない。
口にだしてしまったら、想像が本当になってしまう。
きっと、僕の思いすごしだ。
悪いほうに考えてしまうのは、僕の悪い癖だから。
「ジョイス……? なんだか思いつめたような顔をしてるけど。一体、どうしたの……?」
不思議そうに聞いてきたメアリー。
「……いや、なんでもないよ、メアリー。そんなに積極的に夜会に行こうとするなんて、メアリーは頑張り屋だなと思っただけだ」
「ふふ、褒めてくれて、ありがとう、ジョイス。でも、頑張るのは当然よ。ジョイスと幸せな結婚をするためだもの。過去の噂を消すためには、噂を変えられるほど影響のある人たちがいる夜会に出席することが理想だわ。でも、それは行ってみないとわからないから、全部行きたいの」
メアリーはよどみなくそう言うと、僕に微笑みかけてきた。
メアリーの言葉に、心底、ほっとする。
やっぱり、僕の思い過ごしだった。
この半年、子爵夫人になるためにずっと努力してくれているメアリーが僕に嘘を言うはずはない。
大丈夫だ……。
メアリーの婚約者は僕だ。
そう自分に言い聞かせた。
僕はメアリーの希望どおり、今、うちにきている招待状の全てに出席する旨の返事をだした。
夜会に慣れていない僕に、エスコートのしかたや他の出席者とのやりとりなど、細かくアドバイスをくれたのはローラさんだった。
父よりもずっと頼りになる。
今まで、僕は、ずっとローラさんをちゃんと見ようともせず、一方的に壁を作ってきた。
そんな僕のために、惜しみなく力を貸してくれるローラさん。
申し訳ない気持ちとありがたさ、いろんな気持ちがわきあがってくる。
本当に勝手だけれど、いつか、ローラさんのことを母と呼びたい。
そう思うようになった頃、ついに、ふたりで初めて参加する夜会の日がやってきた。




