番外編2. ある子息の初恋
高等部になると、生徒会に入り、書記として活躍しはじめたメアリー嬢。
アーノルド様を追って入ったのだと僕にはわかる。
思いが叶わない相手を見つめるだけなのは僕と同じだと勝手に親近感をもっていた。
だが、僕が見誤っていた。
僕とは違って、優秀なメアリー嬢はアーノルド様をあきらめてはいない。
時間をかけて、少しずつ少しずつ、アーノルド様との距離をつめてきたメアリー嬢。
優しい令嬢という仮面をつけて、狙った獲物に忍び寄る様子に胸が高鳴る。
早々にすべてをあきらめてしまう僕とは全然違う。
すごいな、メアリー嬢は……。
やはり、なんの取り柄もない僕がそばにいられる人ではない。
でも、学園を卒業するまではメアリー嬢をずっと見ていられる。
それだけが楽しみで学園に通っていたのに、最終学年でむかえた学園祭のあと、突然、メアリー嬢がいなくなった。
メアリー嬢が退学したと噂で聞いて、僕はショックで、頭が真っ白になった。
卒業まであと1年もないのに、なぜ退学するんだ……!?
生徒会の書記をしていたメアリー嬢は学園では有名だ。
その突然の退学に、学園中がざわめいていた。
そんな時、しばらく学園を休んでいたアーノルド様が登校してきた。
端正な顔立ちからは表情が抜け落ち、心ごと、どこかに落としてきたような印象を受けた。
何かあったとしか思えない。
つなげて考えたくはないけれど、メアリー嬢が関係しているんだろうと推測してしまう。
というのも、学園内では、メアリー嬢とアーノルド様とが思いあっていると噂がながれていたからだ。
アーノルド様には婚約者がいるため、どうすることもできないものの、ふたりは思いあっている。
お似合いなのにかわいそう、などと、おもしろおかしく噂する女子生徒たち。
適当なことを言うな!
噂を嬉々として流す、浅はかな女子生徒たちをみるたび、無性に腹が立った。
アーノルド様がメアリー嬢を見る目に熱はない。
メアリー嬢の思いにすら気づいていないだろう。
恵まれすぎた人間は、他人の思いに鈍感なのかもしれない。
完璧なアーノルド様の唯一の欠点か……。
噂とは違い、メアリー嬢のアーノルド様への思いは完全な一方通行だ。
でも、嫌な予感がした。
メアリー嬢の突然の退学がアーノルド様と無関係ではないのだろうと思ったから。
もちろん、僕には確かめようもないけれど……。
それから、しばらくたって、メアリー嬢を見ることができなくなって落ち込む僕の耳に、クラスの女子生徒たちが話す声が聞こえてきた。
「メアリー様って、ドルトン公爵家のご令嬢からアーノルド様をうばったらしいわよ! アーノルド様はドルトン公爵家のご令嬢と婚約を解消されたんですって! でも、それだけじゃないのよ。奪ったとたん、メアリー様はアーノルド様を捨てたらしいわよ!」
「ええ!? それ本当!? あのおしとやかなメアリー様が!?」
「驚きよね。でも、本当みたい。退学になったのは、アーノルド様の婚約をダメにしたうえに、アーノルド様を捨てたからだって。キングス公爵家の怒りを買って、学園にはこれなくなったみたい」
「じゃあ、メアリー様って、すごい悪女だってことじゃない!? いい人だと思ってたのに、だまされてたわね」
興奮した様子でしゃべりまくる女子生徒たち。
思わず、耳を疑った。
そんなことあるはずがない。
メアリー嬢はずっとアーノルド様を見ていたのを僕は知っている。
あんなに長い間、アーノルド様だけを見て、時間をかけてちかづいていくほど、アーノルド様に執着していたメアリー嬢だ。
万が一、アーノルド様を婚約者から奪うことに成功したとしたのなら、捨てるなんてこと、するわけがない。
そう思ったけれど、その噂は学園の外まで広がり、貴族なら知らない人がいないほど、メアリー嬢は悪女として知れ渡るようになった。
それから僕はメアリー嬢を見ることはないまま、ひっそりと学園を卒業した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
学園を卒業してから3年がたった。
この間、僕は将来、子爵家を継ぐために、父を手伝いながら、仕事を学ぶ日々を送っていた。
仕事相手と話をするうちに、学生の時よりはましになってきたものの、やはり、人づきあいは得意ではない。
そのせいか、たまに縁談がきても上手くいかず、今もまだ婚約者は決まっていなかった。
ある日、父から応接室に呼び出された。
言ってみると、会ったことがない夫人が座っていた。
どうやら、婚約者ができない僕に気をもんだ父が、縁談を世話することを生業にしている夫人に頼んだようだった。
僕が席につくなり、夫人は、「真面目そうで、ご立派なご子息ですわね! これなら、すぐに良いご縁を結べますわ」と、あからさまな世辞を言ってきた。
そして、夫人は何枚かの絵姿を僕の前に差し出してきた。
「家を継ぐご子息に嫁ぎたがっている素敵なご令嬢ばかりです。さあさあ、ご覧になって」
いきなりのことにとまどっていたが、夫人と父の圧に押し負け、適当に一枚の絵姿を手にとった。




