番外編1. ある子息の初恋
メアリーのその後もふくめて、諸々、他の人物の視点で書いています。
思った以上にダークな話になってしまい本編に入れづらく、番外編で更新することにしました。
よろしくお願いします。
僕の名前はジョイス。
父親が、歴史上、英雄とされる人物の名前からとってつけた。
つまり、この国にはよくある名前だ。
そんなありふれた名前と同様に、僕自身も目立たず、うずもれている。
良くも悪くも、とりたてて特徴もない子爵家の息子で、特に優秀というわけでもなく、成績はごくごく普通。
人に自慢できる特技もないし、容姿についてはいたって地味だ。
そのうえ、人づきあいも苦手なため、学園にはいっても友人はできず、僕の存在は、まわりに認識されていないかのように、ただただ埋もれて過ごしている。
そんな僕だけれど、学園に入学して、好きな女性ができた。
同じクラスになったメアリー嬢だ。
最初に気になったのは、おだやかで、美しい笑みを浮かべているのに、その目にどろりとした暗いものが垣間見えた時だった。
更に、よくよく見ていると、隠しきれない野心みたいなものがにじみ出る時がある。
おとなびた美しさで、常に優しく微笑み、クラスメイト達にも親切に接し、勉強熱心で、まじめで成績優秀な模範的な女子生徒。
そんな輝くような外側とは真逆のなにかを隠し持つメアリー嬢に、僕は強烈にひかれた。
気がついた時には、いつも目で追うようになっていた。
メアリー嬢を見つめるようになって、すぐにわかったことがある。
メアリー嬢がずっと密かに見つめているのは、一体誰なのかを……。
彼女の秘めた視線の先にいるのは、貴族の中でも最高位に君臨する名門キングス公爵家のご子息でアーノルド様だった。
学園の中でも、ひと際、目立つ美しい容姿に、学年一位の成績を誇る優秀な頭脳。
しかも、人柄的にも良さそうだ。
アーノルド様を見ていると、完璧な人生を歩んでいく、まさに光そのもののような存在だと思う。
なにも持っていない僕と違って、すべてを持っている選ばれた人。
メアリー嬢がひかれるのも無理はない。
でも、いくら、メアリー嬢がひかれても、その思いは報われることはない。
アーノルド様にはドルトン公爵家という、これまた貴族の中では最高の家の令嬢が婚約者だから。
身分的には、メアリー嬢のジリアン伯爵家では、正直言って、勝負にならない。
万一、ドルトン公爵家の不況を買ったら、ジリアン伯爵家は簡単に没落するくらいの力の差がある。
でも、理由はそれだけじゃない。
僕の見立てだと、アーノルド様は婚約者を裏切るようなことはしないだろうと思う。
女子生徒たちにどれだけ人気があっても、浮ついたところはまるでなく、距離を保って接していることが見てとれるから。
つまり、メアリー嬢は僕と同様に、気持ちを隠して、アーノルド様を密かに見ていることしかできないんだ。
そう思うと、メアリー嬢に親近感がわき、ますます彼女のことが好きになっていった。
いつも見ているだけのメアリー嬢から、一度だけ声をかけられたことがある。
それは僕が休み時間に筆箱を落としてしまった時だった。
いくつかペンが転がってしまったが、存在感のない僕が何をしようが、まわりは気づかない。
短い休み時間を楽しもうと、話に夢中になっているクラスメイト達の近くで、僕が転がったペンを拾い集めていると、メアリー嬢が急いだ様子で近寄ってきて、僕のペンを拾ってくれた。
そして、とびきり優しい笑みをうかべて、
「はい、どうぞ」
と、僕のペンを手渡してくれた。
僕は、間近で見るメアリー嬢に心が震えた。
もしかして、メアリー嬢は僕を見てくれていたのか……?
ちらっとそんな夢のようなことが頭をよぎった次の瞬間、「こっちにもペンが転がっていたよ」と、背後から生真面目な声がした。
振り向くと、拾ったペンを差し出してくるアーノルド様だった。
そうか……。
メアリー嬢は、僕の背後でアーノルド様が僕のペンを拾ってくれていたから、急いで拾いにきてくれたんだ。
つまり、メアリー嬢は僕を見ていたわけではなく、いつものようにアーノルド様を見ていただけということ。
だから、ペンを手渡してくれるときの微笑みも、僕を見ているようでいて、焦点がずれていたのは、後ろのアーノルド様に向けての笑顔だったと思い至った。
やっぱり、僕は視界にすら入っていなかった……。
そう思ったらがっくりきたが、すぐに、ぞくぞくした。
闇を持つ彼女らしいと思ったからだ。
本編に続き、読んでくださった方々、本当にありがとうございます!




