表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大好きな人たちのために私ができること  作者: 水無月 あん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

2.私のこと

目をさますと、見慣れた自分の部屋の天井が目にはいってきた。


ぼんやりした頭で何がおきたのか思い出す。


アーノルドを見に学園祭へ行って、……それから、体調が悪くなって、なんとかうちの馬車にのったところで安心してしまって……そこから記憶がない。


そっか……。

私、久々にたおれてしまったんだ……。


でも、学園の中で倒れなくて良かった。

そんなことを考えながら、ゆっくりとベッドの上で体をおこした。


「アンジェ! 目がさめたのかっ!?」


お父様のあせったような声がした。

ベッドのそばの椅子にすわって、私が目覚めるのを待っていてくれたみたい。


いつもお仕事で忙しいお父様なのに申し訳ないな……。


「今回は、二日間も目覚めなかったから心配したんだぞ」


「二日間? そんなに……?」


今までは、長くても半日くらいたてば目を覚ましていたのに。

二日間も目覚めなかったのは初めてだ。


「アンジェがあまりに目覚めないから心配になってな。念のため、ミルナ医師に診てもらったが異常はない。やはり、魔力がたまったこと以外には考えられないそうだ」


ミルナ先生、診にきてくださってたんだ……。


ミルナ先生はお母様くらいの年齢の女性のお医者様で、ベイリ国に留学していた経験があるため、この国では珍しく魔力に関しても知識がある。

そのため、魔力が原因でたおれてしまう私の主治医になってくださったばかり。


まさか、主治医になっていただいて早々、たおれてしまうだなんて、ミルナ先生、びっくりされたかもね。

ここ数年、ずっとたおれることもなかったのに……。


そんなことをぐだぐだと考えていたら、お父様が私の顔をのぞきこんできた。


「アンジェ。学園祭で、心無い噂を耳にしたと聞いたが大丈夫なのか……?」


あ、ルイーズから聞いたんだ。

忙しいお父様に、また心配をかけてしまった……。


「久々に沢山人がいるところにいったから、疲れただけだと思う。お父様、心配かけて本当にごめんなさい。私はもう大丈夫だから。お父様は、お仕事に戻ってね」


そう言ってほほえむと、何か言いたげな顔をしながらも、お父様はそれ以上聞いてくることはなかった。


何があったのか今は話したくないという私の気持ちを察してくれたんだと思う。

疲れただけというのは言い訳だとお父様もわかりきっているはずだから。


私の場合、心が大きく乱れると、魔力が一気にふくらみ、その魔力を外にだせないと意識を失う。

疲れが原因で、たおれるわけじゃない。


でも、今は、学園で見聞きしたことにまだ向き合いたくなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




私は6歳の頃、お父様のお姉様にあたる、メリッサおばさまのお屋敷で、初めて、たおれた。

でも、すぐに目覚めて、体に異常はなかった。


ただ、その後も、外にでると、たまに、たおれることがあり、意識を失っている時間がだんだん長くなっていく。

私は外へ出るのが怖くなった。


いろいろなお医者様に診てもらったけれど体にはどこも異常がなく、その時は魔力が原因だとわからなかった。


というのも、私の住むこの国、インダル国には魔力を持つ人がいないから。

じゃあ、なんで、私に魔力があるかというと、お母様がインダル国の人間じゃないため。


私のお母様はベイリ国出身で、ベイリ国には、魔力を持つ人と魔力を持たない人がまじりあって暮らしている。


お母様の実家は魔力持ちの人間が多く現れる古い家柄の貴族で、お母様自身も魔力を持っている。

私はその特性を受け継いだよう。


お母様はもともと体が丈夫ではなく、私を産んだあとから、魔力が暴走してしまう病にかかってしまった。


でも、この国では魔力にかかわる病を治せる環境はない。

そのため、お母様はベイリ国に戻って治療をしている。


だから、お母様に会えるのは年に数回。

お父様が休暇の時に、ベイリ国に連れて行ってもらう時だけ。


初めてたおれてから1年がたった頃、お母様に会いにベイリ国に行った時だった。


お母様の症状には波があり、その時は、今までで一番悪い時だったから、お母様は薬でずっと眠っていて、全くお話ができなかった。

心配で悲しくて、でも、お父様の休暇が終わるから帰らなくちゃいけなくて、帰りたくないけれど、わがままは言えない。

どうしていいかわからなくなった時、目の前がぐらぐらして、私は意識を失った。


そこで、お母様の主治医で、お母様の幼馴染でもあるレベッカ先生に診てもらい、初めて、私の症状が魔力が一気にたまって、外にだせなくなったからだとわかった。

私の魔力はかなり多く、コントロールができていないから起こる現象で、お母様と違って病ではないとのこと。


意識を失う形で心の動きをとめて、その間に、たまってしまった魔力を体から外にだしていく。

そうやって身を守っているそう。

そして、体内の魔力量が平常時に戻ったときに目が覚める。


今は、体がどんどん成長している時だから、魔力をつくりだす力も大きくなっている。

だから、意識を失っている時間が長くなっているのねと、レベッカ先生から説明をうけた。


レベッカ先生は、たおれる前に私が何を思ったのか、じっくりと話を聞いてきた。


私は、お母様が心配で帰りたくなくて、でも、お父様のお仕事を考えたら帰らなきゃ行けなくてどうしていいかわからなくなったと答えた。


「魔力の質というのは人それぞれ違っているの。アンジェリンちゃんの場合、大きく心が動いた時に魔力が一気にたまってしまうのね。悲しいことや、腹が立ったこと、寂しいこと、心配なこと、つらいことはどうしても我慢してしまうから、魔力がこもりやすいの。アンジェリンちゃんの心がいっぱいいっぱいになってしまったんだと思うわ。今までも、たおれたときは、そうじゃったんじゃないかしら?」


レベッカ先生にそう言われて、はっとした。


メリッサおばさまのお屋敷で初めてたおれた時のことを思い出したから。


お母様がベイリ国で療養しているから、幼い私が寂しくないようメリッサおばさまは気にかけてくれて、なにかと面倒をみてくれていた。


その日は、お父様がお仕事で領地に行って留守だったから、メリッサおばさまのお屋敷に泊まりにいっていたら、お茶の時間に、メリッサおばさまのお友達だという伯爵夫人が女の子と一緒にやってきた。


私よりいくつか年上の女の子。

私にお友達がいないことを心配したメリッサおばさまが招待したみたいだった。


お茶をのんでお菓子をたべたあと、私たち子どもだけでお庭であそんでくることになった。


女の子はメリッサおばさまたちから離れたとたん、私に言った。


「アンジェリンちゃんのお花の髪飾り、とっても可愛いよね! お友達になったんだから、その髪飾り、わたしにちょうだい」


いきなりそんなことを言われてびっくりしたけれど、大事なものだから、あげたくないとはっきり断った。

お誕生日にお父様からいただいた髪飾りで、とても気に入っている髪飾りだったから。


すると、女の子は怒った。


「アンジェリンちゃんの髪に、そんなかわいい髪飾りつけても、にあわないんだから! だって、銀色の髪なんて変だもん! お母様が言ってたわ。アンジェリンちゃんのお母様って、まりょくの病気なんだよね? まりょくがあるなんて魔女みたいでこわいって。その銀色の髪も魔女みたいできもちわるーい!」


自分の髪の色よりも、お母様のことを言われたのが悔しくて、悲しくて、腹が立って……。

そうしたら、足元がぐらぐらゆれはじめて、意識を失ったのよね。


それ以降、外出先で倒れるようになったんだけど、それは寂しかったり、悔しかったり、悲しかったりを我慢した時だったことも思い出した。


ちなみに、メリッサおばさまのお屋敷で倒れたあと、私が女の子に何を言われたのかを私たちの様子を見守っていたメイドの人から聞いたメリッサおばさま。


メリッサおばさまは大泣きしながら、嫌な思いをさせてごめんなさい、と私にあやまってきた。

メリッサおばさまは何も悪くないといっても、私が人を見る目がなかったからだと言っていた。


友人だと思っていた伯爵夫人は、メリッサおばさまのいないところで、お母様の悪口を言いふらしていたらしい。

伯爵夫人は若い頃、お父様のことが好きだったから、お母様のことを一方的に恨んでいたみたい。


「アンジェ、本当にごめんなさい! たおれてしまうほど、傷つけてしまって……。あの伯爵家とは縁をきったわ。二度と、あんな親子をアンジェには近寄らせないから!」


いつも明るく笑っている、優しいメリッサおばさまのあんなに怒った顔を見たのは、あの時だけ。


私のために、あんな顔をもう誰にもさせたくない、そう思ったことも思い出した。

そのためには、たおれないようにしないといけないって。


「どうしたら、たおれないようにできますか?」


たおれる理由がわかった私は、レベッカ先生にたずねた。


「涙を流しても、大声をだしても魔力は外に流れでるから、本当は、感情のまま、泣いたり怒ったりしたらいいんだけれど、アンジェリンちゃんは我慢してしまうんでしょうね……。あ、そうだ。じゃあ、これを使ってみたらどうかな」


そう言うと、レベッカ先生はバッグの中から透明の卵型の石をとりだし、私の手のひらにのせた。


「これは魔力を吸い取り、ためておける魔石なの。私の甥が魔石屋をやっていてね。感想を聞かせてほしいと渡されていた魔石なんだけど、アンジェリンちゃんにちょうどいいかもしれない。手に握って使うのよ。手のひらから魔力が流れ出るのを想像できる?」


魔力がなんなのかよくわからず、とまどう私に、レベッカ先生は言いなおした。


「じゃあ、手のひらの真ん中に蛇口があって、そこから水が流れ出る様子を思い浮かべてみて。練習してたら、すぐに使えるようになるからね」


レベッカ先生の言うように、手のひらの真ん中から水が出るイメージをしたら、魔石に魔力をためることができるようになってきた。


私の魔力の色は緑色で、透明の魔石は少しずつ緑色に色がついてくる。


石全体がきれいな緑色に変化したときは、魔石がいっぱいになったときだ。


「アンジェリンちゃんの魔力はきれいな緑色なのね。緑色の魔力は、植物ととっても仲良しなのよ。緑色になった魔石は植物のそばにおいてあげて。植物が喜ぶからね」


そんな風に、レベッカ先生に教えてもらった。


外出するのが怖くて、ずっと屋敷にこもっていた私にとって、庭のお花や木や草は友達みたいな存在だったから、それを聞いてとても嬉しかったっけ。



子どもの頃のことを思い出しながら、自分の部屋を見回してみる。


花瓶のそばには、緑色に変化した魔石がおかれていた。

学園祭のあの日、魔力がすぐにいっぱいになってしまった魔石だ。


「ルイーズ、花瓶のそばに魔石をおいてくれたのね。ありがとう」


そう声をかけると、ルイーズが微笑んだ。


「アンジェリンお嬢様の魔力のこもった魔石をおくと、お花が元気になりますね。公爵様の執務室に飾っているお花も長持ちすると執事のジョルダンさんが言っていました」


私は、レベッカ先生の甥御さんの経営する魔石屋さんから同じ魔石を2個買い足して、今は3個持っていて、使いまわしている。


緑色になった魔石は、私の部屋とお父様の執務室のお花のそばにおき、魔力が放出しおわるのを待つ。


基本的に屋敷の中にいて、信頼のおける優しい人たちに囲まれていれば、心が大きく動揺することもない。

普段は1個の魔石に魔力をためようとしても数日かかるから、使いまわすにしても3個もあれば十分だ。


だから、学園祭のあの日も、バッグには1個の魔石だけしか持っていなかった。

まさか、魔石がすぐにいっぱいになるほど自分が動揺してしまうなんて思いもしなかったから……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ