18.それでも私は悪くない (メアリー視点)
「娘が本当に申し訳ありませんっ……!」
と、床にひれふすようにして謝る両親。
やめてよ!
私が悪者みたいじゃない!?
私は悪いことなんてしていないわ!
そう言いたかったけれど、アーノルド様が壁をたたくほど怒ったことにショックを受けて声がでてこない。
真面目なアーノルド様だから、嘘をついたことに怒っているけれど、冷静になったら、私の言っていたことが本当だと気づいてくれるはず。
アンジェリンのことは妹みたいに心配していただけだって。
それに、アンジェリンはもういないんだし。
キングス公爵夫人のせいで計画が狂ったけれど、なんとかしないと……。
それなのに、お父様にひきずられるようにして連れだされ、無理やり帰りの馬車にのせられた。
のったとたん、「おまえは、そんな卑怯なまねをして恥ずかしくないのか!?」と、お父様がどなった。
卑怯……?
私はなにも卑怯なことなんてしていない。
だから、私はお父様に向かって言い返した。
私はアーノルド様の婚約者になるという目標にむかって、一生懸命がんばっただけで、何も悪いことなんてしていないって。
だって、私がしたことといえば、アーノルド様に近づくために、アンジェリンと仲良くなったこと。
何年もの間、《《ちゃんと》》、アンジェリンの望む優しい姉のように接して、話し相手になってきた。
友達のいなかったアンジェリンは私に会うのをあんなに喜んでいたんだから、いいことをしてあげたくらい。
あとは、アーノルド様のいる生徒会にはいるために、一生懸命、勉強を頑張ったこと。
これだって、その努力を褒められこそすれ、お父様に叱られるようなことなんかじゃないわ。
それに、私とアーノルド様の噂だって、私が流したわけじゃない。
私たちの様子を見て、噂好きの女子生徒たちがいいはじめただけだもの。
それに、否定しなかったら、アンジェリンの為になるといったら、のってきたのは、アーノルド様よ?
アーノルド様は心の底では、私との噂を認めていたはず。
じゃなきゃ、のってこないでしょう?
私だったら、大好きなアーノルド様を守るためだと言われても、好きでもない男子生徒と噂をながされるなんて嫌だもの。
そうそう、学園祭でアンジェリンの耳に噂をいれたのだって、私が直接言ったわけじゃないし、頼んだわけでもないわ。
ただ、しゃべりそうな子たちに囲まれた席を用意しただけ。
そうでもしないと、屋敷にひきこもっているアンジェリンは気づかないから。
アーノルド様は心配と愛情を勘違いしているみたいだったけれど、私から見たら、アンジェリンのことは、ひ弱な妹を心配しているだけのようにしか見えなかった。
だから、私は何も悪いことはしていない。
卑怯なんかじゃないわ!
そう言ったら、初めてお父様に顔をたたかれ、お母様は泣き出した。
両親にわかってもらえなくても、学園でアーノルド様には会える。
アーノルド様も、もう冷静になっているだろうから、ふたりっきりで話せば、ちゃんとわかってくれるはず。
そう思ったのに、「謹慎して、反省しろ!」とお父様に言われ、部屋からだしてもらえなくなった。
「早く学園に行かせて! アーノルド様と話をしなきゃ!」
叫ぶ私に、お父様が退学の届けをだしてきたと言った。
「学園に行けなくなったら、アーノルド様と会う機会がないじゃない!? なんてことするのよ! 早くここからだして!」
と、騒いだけれど誰もだしてくれなかった。
◇ ◇ ◇
謹慎させられたまま、かなりの日数がたってしまった。
「メアリー。ひとり娘のおまえに婿をとり、あとを継いでもらうつもりだった。だが、自分の欲のため、他人を陥れても平気な人間に、ジリアン伯爵家の大事な領民や領地を任せられない」
お父様は私にそう言って、親戚から養子を迎えた。
その少年にあとをつがせるらしい。
そして、私に修道院に行くか、他家に嫁ぐかどちらか選べと言った。
お父様は頑固だから、言い出したら聞かない。
ここで反論すると、ずっと謹慎させられるかもしれない。
だから、私は反省したふりをして「お父様が決めた家に嫁ぐわ」としおらしく答えた。
だって、修道院に行くなんて絶対に嫌だから。
私は美しいし、非の打ちどころのない令嬢だと言われているくらいだから、すぐに縁談がくるはず。
そうしたら、とりあえず婚約をする。
そして、婚約者と一緒に社交界にでる。
そこで、アーノルド様に再会できるわ!
アーノルド様はキングス公爵家のご子息だもの。
絶対に社交はするはずだから。
きっと、アーノルド様は私に会えなくなって初めて、私への気持ちに気づき、寂しく思っていると思う。
あの時、怒ったことを後悔しているはずだわ。
そして、やっと私たちは結ばれる。
そのためには、一刻も早く仮初の婚約者を作らないと……。
そう思っていたのに、お父様はいつまでたっても縁談の話をもってこない。
理由を聞けば、私に関する噂が原因で縁談の申し込みはなく、こっちから持って行っても断られると伝えてきた。
「ドルトン公爵家の令嬢からキングス公爵家の子息を奪いとったあげく、無残に捨てた令嬢」という噂がでまわっているらしい。
なにそれ!?
私はアーノルド様を捨てたりなんかしていない!
私はお父様にお願いした。
「お父様! そんな噂、間違ってるって、ちゃんと否定してまわってよ!」
私の願いに、お父様が冷たい声で答えた
「それをおまえが言うのか? 下心のために、あえて、アーノルド様との噂を放置するよう提案したおまえがか!?」
「でも、それは……」
「メアリー、おまえがしたことはそういうことだ。それに、おまえの場合は全くの嘘だというわけじゃない。アーノルド様はゆらぐことはなかったが、おまえはアンジェリンお嬢様からアーノルド様を奪いとるつもりで動いていたじゃないか」
「そんな言い方……ひどいわ、お父様! アーノルド様は自分の本当の気持ちに気づいていないだけよ!」
「やっぱり、まだ反省していなかったんだな、おまえは……。アーノルド様にとったら不名誉な噂だろうが、キングス公爵家もアーノルド様もあえて否定はせず、噂をそのままにしているそうだ。つまり、アーノルド様は自分のしたことの罰として醜聞を甘んじて受けているということだ。おまえにその気持ちがわかるか!? 自分のしてきたことをしっかり考えろ! ……それと、今のままだと、おまえをどこにも嫁がせることはできん。他人様に迷惑をかけるからな。厳しい修道院で鍛えてもらうしかないか……」
そう言い放つと、お父様は私の前からさっさと立ち去った。
私をかわいがってくれていた、優しいお父様はもういない。
なんで……?
なんでこんなことになったの!?
私はアーノルド様と一緒になりたかっただけなのに。
私はなにも悪いことなんてしていない。
私は絶対に悪くない……。




