15.嘘じゃない (メアリー視点)
噂は本当だと答えるため、口を開いたその瞬間、
「お待ちください!」
突然、お父様が大声をあげた。
「うちのメアリーが、アンジェリンお嬢様の婚約者様であるキングス公爵家のご子息に懸想するなんて、あるはずがありません! メアリーは、アンジェリンお嬢様のことを大事に思っていたからこそ、何年も何年も話し相手として、このお屋敷に通わせていただいていたんです! それに、この子はわが子とは思えないほど、小さい頃から優秀で、勉強も一生懸命打ち込む真面目な子なんです。そんな人の道にはずれたことをするような娘ではありません!」
ドルトン公爵様にそう叫ぶと、お父様は私に向きなおった。
「なあ、メアリー、噂は全くの誤解なんだろう!? そうだよな、メアリー!? はっきり否定しなさい!」
お父様が私の両肩をゆさぶるようにして、必死の形相で聞いてきた。
さすがに、少しだけ胸が痛んだ。
でも、お父様。
私がアーノルド様と結婚できれば、ジリアン伯爵家はキングス公爵家と縁続きになれる。
そうすれば、裕福でもなく、目立たない伯爵家の格が一気にあがるわ。
お父様もお母様も、今みたいに、領民のため、あくせく働かなくてもよくなる。
贅沢もできるのよ。
噂が本当だと、ほんの少し、嘘をつくだけのこと。
でも、近々、その噂は本当になるから、いずれ私の嘘も消えてしまう。
だって、アーノルド様と私は相思相愛になるんだから。
だったら、私はなにも悪くない。
いずれ本当になることを、今言うだけなんだから。
私はお父様の両手をやんわりと払いのけると、ほろほろと涙をこぼす。
「ごめんなさい、お父様……。ごめなんさい、ドルトン公爵様……。ごめなんさい、アンジェリンさん……」
きれいに泣いてみせる私に、キングス公爵夫人が近づいてきた。
「メアリーさん、泣いていてはわからないわ。噂が本当かどうか、はっきりと答えてくださる? 私はね、息子にも、娘同然のアンジェちゃんにも、政略ではなく、心から望む相手と一緒になってほしいと願っているの。だから、もしも、アーノルドとメアリーさんが思いあっているのなら、ふたりが一緒になることを私が反対することはありません。だから、メアリーさん。嘘偽りなく、今、この場ではっきりおっしゃって」
キングス公爵夫人は穏やかな口調でそう言った。
美しい笑みを浮かべているのに、瞳が笑っていない。
私の考えが全て見透かされているようで、思わずひるんでしまう。
でも、ここでおびえて、噂はただの噂で本当ではないと言ってしまったら、今までの努力が全て無駄になってしまう。
それに、近い将来、本当になることを今言うだけだもの。
だから、私は何も悪くない。
自分にそう言い聞かせると、キングス公爵夫人に向かって、泣きながら答えはじめた。
「噂は……本当です……。私とアーノルド様は思いあっています……。私もアーノルド様もアンジェリンさんのことで話をするうちに、ひかれてあってしまって……。アーノルド様はあのように誠実で、責任感の強い方でいらっしゃいますから、婚約者のアンジェリンさんがいる以上、私への気持ちを言葉にはされていません。ですが、その視線や態度でアーノルド様のお気持ちは痛いほど伝わってきました……。私もアンジェリンさんに申し訳なくて、苦しくて、自分の気持ちは口にはだせませんでしたが、どんなにあきらめようと思ってもアーノルド様を思う気持ちはとめられなくて……。せめて学園にいる間だけでもと、アーノルド様のことは密かにお慕いしておりました……。でも、そんな私たちの特別な様子を感じ取った人たちの口の端にのぼるようなってしまい、噂がひろがってしまって……。妹のように思っていた大事なアンジェリンさんのことを傷つけてしまいました……。本当に申し訳ありません……」
それだけ言うと、私はその場に泣き崩れてみせた。
もちろん、アーノルド様とアンジェリンとの板挟みで嘆き苦しむ私を装うため。
わたしの泣き声だけが部屋に響き、誰も言葉を発しない。
ふふ、うまくいったみたい。
こんなに苦しむ私をみんな責められないわよね!?
と思った時だった。
キングス公爵夫人が声をあげて笑った。
は……?
何故、ここで笑うの……?




