14.私は悪くない (メアリー視点)
ここからメアリー視点が数話続きます。
「メアリー嬢にアンジェリンのことで知らせておきたいことがある。ご両親と一緒にきてほしい」
という旨の連絡がドルトン公爵家からうちに届いた。
これって、ついにアーノルド様とアンジェリンが婚約を解消したんじゃない?
アンジェリンの件で私に知らせたいことなんて他に思い当たらないもの。
自分たちも呼び出されたことに不思議がる両親と一緒に、私は期待でドキドキしながら、ドルトン公爵家にむかった。
とおされた応接室にドルトン公爵様がいたけれど、そこに、アンジェリンの姿はなかった。
かわりに、洗練された美しい夫人が優雅に座っていた。
私が出席できるお茶会では会うことはないくらい高位貴族の夫人だということは、簡単に想像がつく。
そして、誰かということも。
だって、顔立ちがアーノルド様に似ているから。
つまり、この女性がアーノルド様のお母様で、キングス公爵夫人。
ということは、隣にいる男性がキングス公爵様ね。
ふたりがいるということは、アンジェリンについての報告は婚約解消で間違いないみたいね。
しかも、私まで呼ばれているということは、私の筋書どおり、あの噂を耳にしたアンジェリンが身をひき、「大好きなメアリー姉様とアーノルドを婚約させてほしい」そう言ったのかもしれない。
大好きな私とアーノルド様が相思相愛なのに、政略の婚約者である自分がいるために、ふたりが悲しい思いをしていると知れば、あの子ならそうすると思う。
腹が立つほど、純粋な子だから。
でも、肝心のアーノルド様がいないわね……。
学園祭のあと、アンジェリンに私たちの関係を更にダメ押ししておくために、アーノルド様の馬車の前で待ち伏せして、一緒に、この屋敷にお見舞いに来た。
思惑どおり、私たちふたりが一緒にいるのを見て、アンジェリンは悲しそうな顔をしたから、目的は果たせたけれど、あの時から、アーノルド様を見ていない。
学園も休んでいるみたいだし、どうしたのかしら……。
ドルトン公爵様が私の前に立った。
「アーノルド君にもここにいてほしかったが、体調を崩しているため来られなかった。……メアリー嬢、君に娘のアンジェリンについて報告しておくことがある。アンジェリンとアーノルド君は先日、婚約を解消した」
やったわ……!
そう叫びそうになるのをこらえて、「まあ、そんな……!」と、悲しそうな声をあげた。
我ながら完璧な声色だったと思う。
「それと同時に、アンジェリンはベイリ国に留学したから、ここにはもういない」
え、留学……?
しかも、ベイリ国に? どういうこと!?
「でも、アンジェリンさんはお身体が弱いのに大丈夫なんですか……?」
さも心配しているような顔で、ドルトン公爵様に聞いてみた。
「アンジェリンは自分を鍛えるために、自ら望んで行ったんだ」
「そうですか……」
寂し気に見えるよう、少し顔をふせながら思いをめぐらす。
体の弱さで気をひいていたアンジェリンがアーノルド様の前からいなくなった。
婚約解消だけじゃなく、即刻、アーノルド様の前から消えてくれるなんて、想像以上だわ!
優しいアーノルド様のことだから、婚約解消しても、アンジェリンがたおれれば、心配して駆けつけるなんてこともありえそうだったから、本当に良かった。
これでやっと、アーノルド様は私を見てくれる。
と、喜びをかみしめていたら、ドルトン公爵様が私に問いかけてきた。
「メアリー嬢、そのうえで聞きたいことがある」
「はい、なんでしょうか……?」
「どうやら、アンジェリンは婚約者アーノルド君と姉のように慕うメアリー嬢が思いあっているという学園での噂を耳にしたようだ。そんな噂が流れていたことを知っていたか?」
「……はい」
「アンジェリンはその噂を信じて、身をひくことにしたようだ。アンジェリンは、自分に気兼ねすることなく大好きなふたりに幸せになってほしいと願っていた」
やっぱり、思った通りの展開だわ……!
嬉しくて笑ってしまいそうになるのをこらえて、とびきり悲しげな仮面をつけ、ドルトン公爵様の話の続きを待つ。
「それで、私はアンジェリンの気持ちを尊重することにした。メアリー嬢、もしも、噂が本当であれば、今、ここで正直に話してもらいたい。もちろん、ひかれあっているふたりを引き裂くことなどしない。婚約するのなら、ふたりの悪評がたたぬよう私も尽力しよう。ふたりには、今まで、アンジェリンと仲良くしてもらった恩があるからな」
つまり、ここで噂は本当だったと証言すると、ドルトン公爵様が私とアーノルド様のことを後押ししてくれるってこと?
キングス公爵夫妻も黙っているってことは了承済みってことよね!?
噂が本当だと言いさえすれば、私とアーノルド様は婚約できる。
幸い、アーノルド様はここにいない。
私が本当だと証言するだけでいい。
ほんの少しの嘘で、私の未来は一気にひらける。
誠実なアーノルド様は嘘をついたことを怒るかもしれない。
でも、すぐに私に夢中にさせるから、嘘は本当になるものね。
だから、私は悪くない。
私の家は権力のない伯爵家。
ドルトン公爵家の令嬢をおしのけてアーノルド様と婚約すれば、妬みもあるだろうから、私への悪評はさけられない。
もちろん、それくらいのことで、アーノルド様をあきらめるつもりはなかったけれど、ここで、ドルトン公爵家の後押しをもらえれば、大きく変わる。
私はみんなに祝福されて、堂々とアーノルド様と婚約できるってことよね。
じゃあ、迷うことなんて何もないわ!
そう思って口を開きかけたときだった。




