10.なにより大事だから (アーノルド視点)
僕には大切な婚約者がいる。
3歳年下のアンジェリンだ。
月の光みたいな銀色の髪に、新緑の森みたいなグリーンの瞳をきらきらさせているアンジェは、純粋でまっすぐで優しい。
だからなのか、内側からも光があふれだしているようで、そばにいるだけで心があたたかくなる。
そんなアンジェとは、父親同志が親友で幼い頃に婚約は決まった。
他人からは政略だと思われているらしいが、僕にとったら運命以外のなにものでもない。
子どもの頃、家族で食事をしていた時、どんな話題でそうなったのかは忘れたけれど、父のどこが一番好きかと聞かれた時があった。
「とうさまの一番好きなところは、アンジェの父上のドルトン公爵様と友だちだってところ。だから、僕はアンジェと会えたし、婚約できたから」
「それは私の縁であって、性格でも性質でもないが、アーノルドにとって、そこが一番なのか……」
迷いなく答えた僕に、父は寂しそうにつぶやき、母と兄が大笑いしたのを覚えている。
6歳になった時、アンジェがいきなりたおれた。
理由は、ベイリ国の血をひくアンジェには魔力があり、その魔力が一気にたまるとたおれてしまうから。
最初は、その理由がわからず、その間にも、アンジェは何度もたおれた。
僕は、その都度、かけつけたけれど何もできない。
アンジェが目を覚ますまで、心配しながら、じっと待つしかない。
何の役にも立たない自分が幼心にも悔しくてたまらなかった。
1年がたったころ、ベイリ国の医師が魔力のせいだと診断し、魔力をすいとる魔石をアンジェに渡したことで、たおれることは減った。
でも、そのことで、アンジェは他人を警戒するようになってしまった。
アンジェは心が傷ついた時に魔力が一気にふえてしまうから。
だから、僕は考えた。
アンジェが傷つかないよう、僕がアンジェの心を守ろうって。
滅多に外に出ないアンジェだけれど、どうしても外出しないといけない時は、必ず、僕もついていった。
外にいる間、手をつなぎ、アンジェに邪な気を向ける人がいないように目を光らせた。
どんな悪意からも、アンジェは僕が絶対に守る。
そう誓って、そばにいた。
僕の心は、いつだって、アンジェでいっぱいだった。
そんな時、アンジェの話し相手が現れた。
その令嬢は、ジリアン伯爵家のメアリー嬢。
ドルトン公爵家とは遠縁にあたる家の令嬢で、僕と同級生だという。
正直、アンジェから聞くまで、気に留めたこともなかったが……。
同年代の令嬢たちを警戒していたアンジェがすっかり心を開いていて、「メアリー姉様」と呼びだしたことに驚き、それ以上に警戒した。
もしかして、ジリアン伯爵がドルトン公爵家に取り入るために、アンジェに娘を近づけさせたのかもしれないと思ったからだ。
だから、人を見る目が厳しい父に、メアリー嬢の父であるジリアン伯爵について聞いてみた。
すると、父はジリアン伯爵の人柄をほめた。
欲もなく、地道に領民のために働く、信用できる人だと。
厳しい父がほめるのだから人柄は間違いない。
肝心のメアリー嬢のほうも、学園でひそかに観察してみたが、勉強熱心で穏やかで真面目そうな令嬢に思えた。
クラスメイトたちの評判もよさそうだった。
それでも、もしも、アンジェが少しでも嫌な思いをするようなら、なんとしてでも、メアリー嬢をアンジェから引き離そうと思っていた。
だが、そんな心配は無用だった。
今まで同年代の令嬢の友達がいなかったアンジェは、僕にメアリー嬢の話をすることが多くなっていった。
とても楽しそうに。
アンジェが喜べば、僕も嬉しい。
アンジェが楽しいなら、僕の心も浮き立つ。
アンジェを最高の笑顔にさせることができるメアリー嬢を、いつのまにか僕は信用していた。
高等部に入ると、メアリー嬢は僕と同じ生徒会に入ってきた。
顔をあわせる機会がふえ、学園でも、アンジェの話をするようになった。
それがみんなに誤解を与えるとは思わずに……。
学園で、僕とメアリー嬢が相思相愛で、僕には政略の婚約者がいるから悲恋だという噂がながれていると、心配した友人から聞かされた。
馬鹿馬鹿しい。
そう思ったが、噂を耳にする機会が増えていった。
その都度、強く否定してまわったが、何故だか噂は消えない。
メアリー嬢に迷惑をかけていることを心苦しく思い、謝罪した。
が、メアリー嬢は怒るどころか、好都合だと言った。
そして、僕に噂をそのままにしておくことを提案してきた。
アンジェのために。
メアリー嬢が心配していたのは、僕にしつこく言い寄ってくる令嬢たちのことだ。
どれだけはっきり断っても、あきらめない令嬢たち。
余程、公爵家という家が魅力なんだろう。
無駄に事を荒立てたくなくて、避けるくらいで放置していたが、メアリー嬢に指摘されてはっとした。
あんなにしつこい令嬢たちなら、確かに、アンジェに敵意を持つかもしれない。
ただ、アンジェとあの令嬢たちが関わることはないだろう。
だが、絶対ないかと言われれば不安になってくる。
メアリー嬢の言うとおり、噂をそのままにしておけば、その令嬢たちの敵意はメアリー嬢に向くだろう。
つまり、アンジェのために、学園にいる間、メアリー嬢はその令嬢たちの敵意を集めるおとりになるということだ。
そんなことをさせてはいけない。断るべきだ。
メアリー嬢に損しかないのだから。
結果的に、メアリー嬢の申し出に僕はのってしまった。
ほんのわずかな可能性であっても、アンジェに悪意がむき、最悪の場合、危害が加えられる可能性があるのなら絶対に排除しておきたい。
メアリー嬢には申し訳ないが、僕にとったら誰よりも大事なのはアンジェだから。
卑怯な僕は、メアリー嬢の誠意を利用させてもらうことにした。
アンジェを思って、そこまでしてくれるメアリー嬢は、僕にとったら、アンジェを守る心強い同志のように思えた。
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