224.新たな旅立ちと日常
その日、午前中から拠点の作業スペースに入って黙々と付与を行い、アリアとジーナ、ジェシカとともに昼食を摂っていると、来客があった。
「こんにちは、邪魔するよ」
ジェシカがドアを開けると、来客は双星の二人だった。いつもの冒険者風のスタイルに、腰に剣を帯び、ポケットの多いジャケットを羽織ったロゼッタが、軽く手を上げて挨拶をする。
調停院での調整のあと、自分たちの拠点に戻ったロゼッタとノーラだったけれど、普段のラフな格好とは少し違う、大きな装備以外を身に着けた服装をしている。
「すぐ移動するから長居はできないけど、出発前に挨拶だけしていこうと思ってね」
「今日からお仕事に復帰なんですよね。おめでとうございます」
「ああ、随分休んじまったから、稼がないとな」
そう言って笑うロゼッタの隣には、白いシャツと黒のパンツを合わせた、同じく冒険者風のいでたちをしたノーラが立っている。
以前はフード付きの真っ白なローブを羽織っていたけれど、今のローブは濃いめに染色された青だった。
「ノーラさん、ローブを新調したんですね。よく似合ってると思います」
「ありがとう。色を選ぶなんて初めてだから迷っていたら、ロゼッタが選んでくれた」
嬉しそうに言うノーラに、ロゼッタは照れくさそうに笑ってすこしぶっきらぼうに言う。
「やっと雪原のフィールドでも、あんたを見失わずに済むようになって安心したよ。白って案外、ダンジョンの中だと目立たないからさ」
「塔結石自体が白っぽいですから、確かに白い服だと視認性が悪くなってしまうかもしれませんね」
「だろ? そこにいると思って振り返ったら全然違う所に立ってたりして、ちょいちょい困ることもあったしね」
出会った頃から頭からつま先まで白で統一していたノーラだが、元々髪も肌も真っ白なので、色物の服はとてもよく映えている。
濃い青のローブも、お世辞抜きで彼女に似合っていた。
「差し色に赤のリボンがあると、より映えると思います。……冒険者向けのコーディネート、案外需要があるかもしれませんね」
妙に真面目な顔で言うアリアに、皆が明るく笑う。
「ノーラさんは髪も綺麗ですし、サイドに髪飾りをつけても似合うと思いますよ」
「んじゃ、戻ったら雑貨屋に行くか。装飾品なんてこれまで全然つけてなかったし、色々見繕ってみるのもいいだろうしさ」
「うん」
長く伸ばして後ろで編んでいたノーラの髪は、耳の下あたりでばっさりと短くなっている。
先日、ノーラはフルウィウスの神殿に赴き、腰まで伸ばしていた髪を奉納してきたと連絡は受けていたけれど、随分思い切って切ったらしい。
表情がぐっと表に出るようになったこともあり、以前よりあどけなさが増して、血の通った活き活きとした雰囲気になった。
「長い髪も似合っていましたけど、短くしても素敵ですね」
「髪はまた伸びる。何年かに一度、奉納の約束もした」
きっとそのたびに、神殿長に会うこともできるのだろう。
ノーラの表情はすっきりとしているし、案外、これが一番いい落としどころだったのかもしれない。
「ありがとうオーレリア、冒険者に戻れるのもオーレリアのおかげ」
そう言って、ノーラは親指に嵌めた真鍮の指輪をそっと撫でる。
「ダンジョンでは革紐で結んで首にかけておくけど、大事にする」
「はい」
指輪は母の形見のひとつではあるけれど、ノーラなら大事にしてくれるだろうし、友人のために付与を施したものだ。きっと母も納得してくれるだろう。
いつか、ノーラが自分が気に入った装飾品を見つけるか、ロゼッタが贈ることがあったら、新たにそれに付与を施してもいいなと思う。
「んじゃ、そろそろ行くか。ミズベタ、たっぷり採ってくるから。それと、何か美味そうなものがあったら土産に持ってくるよ」
「楽しみにしています。無事に帰ってきてください」
「ああ、じゃあまた」
「いってきます」
そうして、二人は手を振って、笑って立ち去っていった。
何か楽しいことを話しているようで、体を寄せ合って、時々笑うように肩が揺れている。
「二人とも優秀な冒険者ですから、ますます研究が進みますね」
二人と暮らすのは楽しかったし、拠点の賑わいが減ってしばらく寂しく感じるものの、これでよかったのだろう。
何の憂いもなくなって、双星の二人はきっとそう遠からず、夢を叶えるはずだ。
「はい、きっと」
心からそう思い、そうしてようやく、オーレリアも日常に戻ることになった。




