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転生付与術師オーレリアの難儀な婚約  作者: カレヤタミエ


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202/206

202.初めてのスライムと不意打ち

 第二階層の地面は基本的にフカフカしているけれど、それまでと同じと思って進むといきなり踏んだとたんに水気を含んでズブリと水が滲みだすようなところもあり、中々油断ができなかった。


 冒険者パーティは慣れたものらしくまるで気にしている様子はないものの、靴に【防水】を掛けるように言われた理由もとても納得できる。これは普通の靴ではあっという間に靴の中まで浸水してくることになるだろう。


「第二階層はエディアカラン大迷宮の中で、最も新陳代謝の早い階層であると言われています。深層になるといつ行っても変わり映えのない景色が続くフィールドもありますが、第二階層は大げさに言えば、第四階層のセーフエリアで一晩を過ごして戻って来たら、前日とはまるで違う風景が広がっていることもありますので」

「冒険者たちは、その場合どうやって今の位置を確認するんだ? 見た目に一貫性がなければ迷いそうなものだが」

「第二階層は最も人の出入りが多い階層でもありますから、常に誰かしら行き来していて自然と人の痕跡が残っていて特に困ることはありませんが、今日のように人が極端に少ない日は少し困ることもあります。特徴的な岩とか小川の形なども目印になりますが、そうしたものを見失った場合は西に向かって進むのが最も確実です」

「なるほど、中心から西側に入り口があるからというわけだな。それにしても不確実な部分も多いのではないか」

「私たちは冒険者ですから、完璧な命綱を握っていてはできないことがたくさんありますので」


 矢継ぎ早に放たれるカイラムの問いかけに、ジェシカは丁寧に返事をしていた。それをこっそり拝聴しつつ、時々テノヒラダケやそれ以外の食用キノコも採取しながら、ゆっくりと第二階層を歩いて回る。


 僅かとはいえ一歩ごとに足を取られるので、歩いているうちに少しずつ疲労が蓄積していく感じがするし、乾いた地面がなく周りは菌類だらけで腰を下ろすこともできないので多少しんどいものの、王族であるカイラムも一緒のため進行の速度がゆっくりなのは助かった。


 明日からしばらく筋肉痛を覚悟しなければならないだろうと思っていると、不意に隣を歩いていたウォーレンが歩みを止める。


「オーレリア」


 その声は小さく潜められていて、その声量が届くようにだろう、顔の位置がいつもより近い。


「どうしたんですか?」


 内緒話の距離感に、思わずオーレリアの声も小さくなる。こっちと手を引かれて、柔らかい足場に靴が取られないようにゆっくりと少し進み、少し背の高いキノコの影に身を隠すように促される。


「ウォーレン?」

「ほら、あれがスライム。キノコの上で食事中みたいだ」

「あっ」


 少し離れたところにある、オーレリアの腰のあたりまである太い幹を持ったエリンギによく似たキノコの上に、どろりとゼリーのようなものが覆い被さっていた。


 色はほんのわずか青みがかった透明で、どうやら覆い被さっているキノコを食べているらしく、グネグネと不定形に形を変えている。


 博物館の絵で見たことはあるけれど、本物の質感はなるほど巨大なアメーバーという様子だった。中心部分に赤黒い丸いボールのようなものがあり、おそらくそれが魔物の核と呼ばれるものなのだろう。


「本当に、どこにでもいるんですね」

「うん、どこにでもいて、動かないものなら何でも捕食するんだ。強酸を持っているから危ないんだけど基本的には臆病で、気配の察知能力も高い。――あ、ほら気づかれた」


 ウォーレンだけならともかく、オーレリアには気配を消すなどということはできないのでひそひそと話をしているうちに気づかれたらしく、スライムはずるり、とキノコから滑り落ちてそのまま物陰に隠れてしまった。


「本当に憶病なんですね」

「それでも高い場所から落ちてくることもあるから、二階層からはブロンズランクでも二人一組くらいで組むことが推奨されているんだと言われる。でもまあ、適当に人の気配をさせておけばスライムに襲われる心配はそうそうないんだ。深い階層だとそうもいかないことも多いんだけどね」


 人の気配で逆に寄ってくる魔物もいるということだろう。

 改めて、冒険者とは本当に危険な仕事なのだ。自分だけなら二階層でも無事でいられるか分からない。


 そう思うと、最深部を攻略したウォーレンが、大きな怪我や後遺症もなく、隣にいてくれることがなんだかくすぐったくも、とても素晴らしいことのように思えてしまって。


「どうかした?」

「いえ、ウォーレンがいてくれて、よかったなと思っていました」

「オーレリアさん、そろそろ最初のお茶の休憩を入れましょう」

「あ、はい!」


 ウォーレンがそれに何か言いかけたときに、ジェシカに呼ばれて立ち上がる。


「行きましょう、ウォーレン」

「ああ、うん。ええと、俺はもうちょっと、周辺を見回ってから行くから、先に行っててくれる?」


 そういえばウォーレンのパーティでの役割は前衛と斥候と聞いている。さすが熟練の冒険者だけあって、二階層でもそうしたことを怠らないらしい。


「はい、ではあとで」

「うん」


 すでに周囲の警戒に入っているらしいウォーレンはこちらを向いていなかったので、オーレリアもそそくさと皆の元に小走りで移動することにした。


 だから、オーレリアの足音が遠ざかったあと、プラチナランクの冒険者が両手で顔を覆ってその場にうずくまってしまった場面は、誰にも見られることはなかった。



     * * *



 先遣隊がすでに整えてくれていた乾いた土の上に折り畳みのテーブルを設えた傍には二メートルほどの金属とガラス、陶器を組み合わせた浄水装置が置かれていた。


 その周囲ではオーレリアが考案した鳴子がカラカラと乾いた音を立てている。


 冒険者ギルドと象牙の塔が共同で設置したダンジョン用のろ過式浄水器は、実験用に作ったものや北区に設置されているものとは見た目が少し違っている。ガラスはスライムが溶かすことができないので基本的に持ち込みが禁止されているけれど、それを逆手に取ってタンクはガラス製でということになったらしい。


 金属も、スライムの侵食に強い魔鉄のメッキにしたらしく、これを破損したものは全額の賠償のみならず、冒険者ギルドの追放、商業ギルドへの出入り禁止と非常に重い措置が取られることがギルドの名で公開されている。


 とはいえ、この世界は公共物の意図的な破損は基本的に罪が重く、王都に至っては街灯を意図的に破損した者は死罪となっているくらいなので、浄水器に関しても自然と受け入れられたらしい。


「オーレリアさん、こちらの席へどうぞ」


 ジェシカに促されたのはすでにカイラムが席についているテーブルで、多少戸惑ったものの今日の自分の立場を思い出し、素直に勧められた席に着く。


「折角ですので、浄水器で浄水された水でお茶をということになりました。オーレリアさんもよろしいでしょうか」

「はい、あの、もちろんです。ですが」


 ちらりと視線をカイラムに向けると、うっすらと微笑まれる。


「むしろ私から希望したのだ。北区の視察では安全性の確約ができないと本末転倒なことを言われてしまってね」

「水の魔法使いがついているのですから、その心配はないと案内してくださった商業ギルドの方の分かっていたはずなのですが、不安は旅人に砂漠で砂金を探させると申しますので、万が一、億が一が心配だったのでしょう」


 セリムがにこやかに続け、なるほどと頷く。

 水の魔法使いは、その場にある水がどのような状態であるのか知覚することができるのだという。


 水の魔法使いが同行していたうえで飲水を断ったということは、安全性の問題というより責任問題を恐れたのではないかとオーレリアにも察しがついた。


「カイラム殿下、その、今回は私の願いを聞き届けて下さって、改めてありがとうございます。おかげで得難い経験をさせてもらっています」

「礼はもう受け取った。この件で私たちには清算するものは残っていない。後は友人の兄として接してくれればそれで構わない」

「……お心づかい、感謝します」


 セラフィナには大分慣れてきたけれど、カイラムを「友達の兄」として接するのはまだまだ難しいかもしれない。


 一番近い存在だとレオナが「友達の姉」にあたるけれど、レオナはレオナで元々同じ王立図書館で働いていたとか、世間慣れしていなかったオーレリアに色々と教えてくれたりと、アリアとは別の意味でとてもお世話になった人である。


「その、ザフラーンでは「友人の兄」とはどのようにお付き合いするものなのでしょうか?」


 結局似たような立場の相手に心当たりもなく、変に身構えて不快な思いをさせるくらいならと直接聞いてみると、なぜかカイラムもその隣のセリムも、虚を突かれたように目を瞠る。


「……私に兄妹はいませんが、そういえばザフラーンでは、姉妹の友人とは基本的に付き合いはないですね」

「男女が個人的に付き合うのは禁忌とされているからな。ふむ……」


 そうして、二人は何か聞き取れない言葉で話し始めた。どちらもやけに真剣な表情なので、固唾をのんで見守るオーレリアの横でジェシカが汲んだ水をジーナが沸かしているのがなんとも妙なコントラストを見せていた。


「ごめんオーレリア、お待たせ。……何かあった?」

「いえ、お帰りなさい、ウォーレン」


 同じ席についていたカイラムとセリムがそんな様子だったため、すこし遅れて戻ってきたウォーレンに、やけにほっとしてしまうオーレリアだった。


3月の大きな予定を全て終えてほっとした翌日、見事に体調を崩しました……。

現在は回復しております。

季節の変わり目ですので、皆様もご自愛ください。

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― 新着の感想 ―
「俺も楽しい」的な事を言いたかったんでしょうか。 先生も怒涛の書籍発売からの漫画の連載開始でほんとうにお疲れ様でした!
気が張ってると多少の不調も平気ですものね…どうかお大事になさってください。
不意打ちってタイトルだったから、スライムが襲ってくるんだろうと最後まで身構えてしまった…。きっとこれが狙いなんだろうなぁ。コロコロ転がされてます(笑)
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