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転生付与術師オーレリアの難儀な婚約  作者: カレヤタミエ


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132/165

132.友人の護衛と恋文

 無事依頼を終え、来た時と同じように入り組んだ路地を経由して大通りに出るとどっと人の気配に触れて、なんだかひとつ冒険を終えたような気持ちになった。


「折角西区に来たから、どこかカフェに寄っていこうか」

「いいですね。西区は東区より、軽食は食べ歩きより店舗でっていうのが特色なんです。お手頃で美味しいお店も多いんですよ」


 ジェシカの言葉になるほどと頷く。言われて見ればそこかしこにテラス席を設けた店があり、学生らしき人たちが本を開いている。


 冒険者の多い東区は安価で手早く食事を終えたいというニーズが高く屋台文化だけれど、この辺りは腰を下ろして隙間時間に本を読んだり勉強をしたいというお客さんが多いのだろう。


 日が落ちるにはまだ少し時間があるし、普段は拠点に籠って付与をしていて外出といえば納品や王宮に赴くものが多い。こうして気軽に、気の置けない相手とのんびり出かけるというのも、久しぶりな気がする。


 今の拠点を手に入れる前は、アリアと色々な物件を見に歩き回っていたことを思い出して、何だか少し懐かしい気持ちになった。


「じゃあ、どこかに寄って――」


 行きましょうか。そう言いかけたところでジェシカに腕を掴まれて、軽く体を引き寄せられ、えっと思った時にはジーナがオーレリアに対し背中を向けてすぐ目の前に立っていた。


「そこで止まりな。うちのボスになんの用だい」


 初めて聞くジーナの剣呑な声に体を強張らせ、その向こうを見ると深くフード、いや、ベールを被った女性が、声を掛けようと軽く上げた手の持って行き所をなくした体勢のまま立ち尽くしていた。


 その服には見覚えがある。セラフィナの傍についている女性使用人が揃いで着ているものだ。


「……サーリヤさん?」

「オーレリアさん、知り合い?」

「ええと、知り合いというか……はい、知っている方です」


 サーリヤは何人もいて、顔が隠れるほど深くベールを被っている彼女がどのサーリヤかは分からないとか、そもそもザフラーンの姫君の側仕えであるとこんな街中で口に出してもいいものかも判別がつかず曖昧な返事になってしまったが、サーリヤ自身からあまり害意を感じなかったのだろう、ふっとジーナの警戒が緩むのが、雰囲気で伝わってくる。


「申し訳ありません、オーレリア様。偶然お見掛けして、声を掛けるようにと」


 サーリヤが顔を向けた先に視線を向けると、白い馬車が停まっていた。装飾は派手ではないものの二頭立ての立派な馬車で、内側からカーテンが下ろされ中は見えないようになっている。


「えっ、あの、こちらにいらしているんですか?」

「はい、主は貴き方に随行してまいりました」


 セラフィナより身分が上というと、兄のカイラムしか思い浮かばない。初めてオーレリアとセラフィナが出会ったのは冒険者ギルドで、あの時もカイラムの用事についてきたと言っていたので、同じような状況なのだろう。


 出先でたまたまオーレリアが歩いているのを見つけて声を掛けるよう、侍女のサーリヤに命じたということらしい。


「もしお時間があるようでしたら、主に会っていただけないでしょうか。先週はお会いできなかったので、主もオーレリア様を恋しく思われているのです」


 ザフラーン流の「友達に会えなくて寂しがっていた」の言い回しなのだろうけれど、ジーナとジェシカが戸惑っている様子にオーレリアも少し焦る。


「ええと、こちらは私の護衛です。少し仕事をした帰りなのですが、二人も同席してもよろしいでしょうか?」

「主に聞いてまいります。しばし、お待ちください」


 くるぶしまで届くスカート丈で体のラインを出さないワンピースを着ていることもあり、流れるように立ち去っていったサーリヤに、ほう、とジェシカが頬に手をあててため息を吐いた。


「あの服の様式は、もしかして、お隣の大国の方ですか?」

「あの、はい」

「ああ、あまりここではお話しないほうがいいですね。私も少ない資料で見たことがあるだけだったので、驚きました」

「足音も立てずにまっすぐ近づいてくるから、体の方が先に反応しちまったなあ。あれ、相当腕が立つよ」


 セラフィナの傍に侍っているサーリヤたちは、成熟した美女からほっそりとした美少女まで色々だけれど、全員が優美な立ち振る舞いをするが、腕が立つ――護衛としても有能なのだろう。


 思えば、足音を立てているところも見たことがない気がする。


「ええと、私からは断りにくい相手なのですが、同席してもらっても大丈夫でしょうか?」

「勿論、構いませんよ」


 あっさりとそう言ってもらえて、ほっとする。


 セラフィナのほうから同席を断られたら、予定を組んでまた王宮に会いにいけばいい。


 そう考えていると、去った時と同じくすうっと流れるように、白い衣に身を包んだサーリヤがこちらに戻ってくるところだった。



     * * *



 同席の許可を取り、場所を移して大通り沿いのカフェの個室に入る。通りを挟んだ向かいには威風堂々とした神殿の建物がたたずんでおり、景観もいい部屋だった。


「お兄様は、今日は神殿に行かれているの」


 紅茶のカップを優雅に傾け、セラフィナは本当に嬉しそうな様子だった。


「神殿というと、何かお怪我をされたのですか?」

「ああ、いえ、そういうことではないの。ザフラーンでは病院という施設があって、病気や怪我はそこでお医者様に診てもらうのだけれど、こちらでは神殿と教会がその役割をしているでしょう? お兄様はその視察をされているの」


 カイラムは医療機関の視察をしたかったということらしい。


「神殿と教会で、得意な治療も分かれているのですってね。ザフラーンの病院ではすべての症状を同じお医者様が診るから、専門分野で別れているのは合理的だってお兄様も褒めていらしたわ」

「ザフラーン帝国では、治療魔法を使う方は病院に勤められるのですか?」

「ええ、昔はザフラーンでも治療魔法の使い手は神官になることが多かったけれど、何代か前の皇帝が市井にも医療をということで、庶民の中から治療魔法の才能がある人に奨学金をつけて学ばせるよう触れを出したの。今では帝国中に病院があるわ」

「それは、とても素晴らしいですね」

「でも、やっぱり治療魔法は高額になりがちで、貧しいものは民間治療や薬草に頼るのが当たり前だから、慈善の治療を受けられるようにできないかってお兄様はお考えなの。今回の視察も、その一環だと思うわ」


 できることなら身分に関わらず、健康で健やかな人が多い方がいいに決まっている。


 強引で困らされてはいるものの、カイラムの視点は権力を持つ者としてとても良いものだとオーレリアは思う。


「あのね、時々ヴィンセント殿下がお手紙をくれるようになったの。素敵な詩にお花を一輪添えてくださったこともあったわ。それがどれも、とても素敵で、オーレリアと話したかったの」

 白い頬を赤らめて笑うセラフィナは、お姫様というよりごく普通の恋する少女のようだった。両手を頬に添えて、ほう、と吐くため息さえ甘いものだ。


「それでね、私もザフラーンの詩を送ってみたり、そこに私が編んだレースの飾りを添えてみたの。朝露の連なりがレースに見えるというとてもロマンチックな詩なのだけれど、これくらいなら、はしたなくはないわよね?」

「喜ばれたと思います。特に手作りの物は、その人の気持ちが込められてますし」

「そうだと嬉しいわ。お兄様は女性から男性に贈り物をするのはきっとはしたないと言うと思うのだけれど、私、どうしても気持ちをお伝えしたくって」


 どうやら、二人はとてもよく交流できている様子だ。


 週に一度程度会っているので、それを話したかったのに先週はオーレリアの予定がばたばたして王宮を訪ねなかったのでうずうずしていたところを、カイラムについて出かけた先で偶然見かけたということらしい。


 どんな手紙を貰ったとか、詩の解釈についてとオーレリアとしても少し気恥ずかしい話題が続いたけれど、ひとしきり話して冷めたお茶を飲み干し、セラフィナはほう、とひとつ息をついた。


「ね、そちらの二人は、オーレリアの護衛だと聞いているわ。サーリヤが言うには、とてもお強いと」


 オーレリアの後ろで立っているジーナとジェシカに視線を向けて、セラフィナは優しく微笑む。


「私の侍女たちも腰を下ろしていることだし、同席を許すというと、困らせてしまうかしら」

「ええと……」


 ザフラーンでは女性使用人は仕事をしている時以外は腰を下ろしているのが当たり前なのか、オーレリアがセラフィナに会いに行く時も大抵長椅子に座っているかセラフィナの足元で足を崩していることさえあり、今も壁際の長椅子で、三人のサーリヤがゆったりと腰を下ろしていた。


 習慣自体がこちらとはまるで違うのだと最初の頃は驚きの連続だったけれど、彼女たちでもセラフィナと同じテーブルにつくことはないので、ジーナとジェシカが同じ席につくというのはどうなのか。


「その、ここだけのこと、としてもらえますか?」

「ええ、もちろん!」


 セラフィナはぱっと、白い花のように笑う。


「女性だけの部屋の中のことは、女性だけの秘密よ。女同士の秘密を暴くことは、皇帝でもしてはいけないことになっているわ」


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― 新着の感想 ―
普段はカクヨムで読んでいるのですが、こちらの132話があちらでは読めず… 探して来ました。無事に読めて嬉しいです。 続きはまたあちらに戻ります(*・ω・)*_ _)ペコリ
セラフィナさま、文章だけでも美しい…
案外妹を幸せに出来る相手って条件は特に裏とかなく本当にその通りの言葉なのかもしれんな… あえて外から求めるような物資も技術もなさそうなあたり妻として一人残される妹の心を満たせる相手を探してるんじゃなか…
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