07話「王都ノヴァンロード」
「入れないだと!? 」
レーガドンナの怒声に近い大声で目が覚めた。
眠っている間にどうやら目的地であった王都ノヴァンロードに到着したようだ。
随分とマシにはなったが、まだ体のあちこちが痛む。とはいえ、あんなにズタボロだったのにこの短時間でここまで回復する。
異世界さまさまといったところだろう。
そっと荷台から覗いてみると、レーガドンナの前に2人の衛兵のような人達が立っていた。門番といったところの人達か。
レーガドンナが手に持っているのは……あれは、通行許可証の類だろう。何か手違いがあったのだろうか。とにかくずっと言い争いをしている。
「何を騒いでいるのですか」
すぐ後ろの竜車から降りてきて、そう言いながら女の人が近づいてきた。と、今更気づいたが後ろの竜車すごいデカいし豪華だ……高級車だ絶対。
その女の人は、髪の毛を肩の上くらいで綺麗に切りそろえていて、いい意味で化粧っ気がない。見るからに高そうな服を身にまとっていることからも、住む世界が違いそうな人だ。
ただ歩くだけで周囲の空気感が、一段階くらい引き締まる。そんな感じのある種、威厳のようなものを持つ人だ。
「こ、これはミサンタ様。実は、この者がですね……」
「あら、レーガドンナ。また騒ぎを起こしているのですか? 少し落ち着きというものをですね……」
そのミサンタというらしい女の人は、門兵の言葉を遮ってレーガドンナに説教を始めた。
「あー!うるせぇ! 俺は騒ぎなんて起こしてねぇ! こいつらが勝手に騒いでるだけだろうが! 」
レーガドンナは腕を組み、口をへの字にしている。まるでお母さんに怒られている子供のようだ。
「ふふ、全くこの子は。というわけで、門兵さん。この子はうちの商人です。通してやってくださいな」
2人の門兵は顔を見合せた後、声を揃えて言った。
「開門」
***
「ったく、酷い目にあったぜ」
「それは止められたこと? それとも怒られちゃったこと? 」
「どっちもに決まってんだろ」
レーガドンナは終始、ミサンタさんに対してこんな態度を取っているが、俺目線ではとても良さそうな人だったと感じている。
ふと、別れ際にニコニコ笑顔でヒラヒラと手を振るミサンタさんを思い出した。
あの門兵の反応と、当の本人が放つオーラからして、只者じゃないことは確かなのだろうけど。
「あークソ。変なとこで嫌なやつと会っちまった! 」
それからこの数日の間で、レーガドンナとはかなり距離が縮まった。そして、彼なりに気を使ってか俺の素性については、全く聞いてこなかった。
「そういや、お前ここは初めてだったな」
「そうだな、初めて来た。ノヴァンロードだったか」
竜車の中から、辺りの様子を見回してみると、そこは石造りの建物が並び、道もちゃんと石造り。全体的に石で構成されている街並みだ。中世か近世くらいのヨーロッパのような雰囲気だ。
現代の日本の街並みと比べると、街の匂い……というか、空気感がまるで違う。本当にテーマパークに遊びに来たような、そんな非日常感に包まれる。
「本当に、文明から文化まで違うんだな」
思わず口をついて出たその言葉も、溢れるほど賑やかな街の雑踏に飲まれて消えた。
「そうだ。ここが王都ノヴァンロード。この国の経済や文化、それから政治の中心地だ」
レーガドンナの声はどこかテンションが高い。まるで都会に初めて来た田舎者のような……そんな感じ。
通行人を見ると、全員普通の人間に見える。あのルートギルドにいたミアさんのような耳をしている人は、どこにも見当たらない。
「そんなに見回して、お前田舎者だろ」
お前もな。と言いかけたが、ここはぐっとこらえておく事にしよう。ご機嫌なレーガドンナを見ているのも面白いしな。
「そうだ、俺が特別に案内してやる。時間だけはあるしな」
「おぉ! それはありがたい、ぜひ頼む! 」
やはり口を滑らせなくて正解だったなこれは!
この世界、この国の文明レベルがどれくらいの物なのか確かめる良い機会だ。それに、純粋にどんな物があるのか気になる。
「お前がそこまで言うなら仕方ない。この俺に着いてこい! 」
「おー! 」
先に竜車を竜泊という専門の稚竜を預かってくれる場所?に預けるらしく、俺は街の一角にある噴水を眺めながら、ベンチに座っていた。
それにしても、この世界に来て数十日は経ったが、元の世界では俺はどうなっているんだろう。行方不明なのだろうか。いや、それとも魂だけがこっちに来てて、肉体は向こうに置き去りで事件に。いや、そ……
「……なぁおい、何ボケーッとしてんだ。何回声かけりゃいいんだお前は」
「す、すまん、ちょっと考え事してた」
レーガドンナは呆れたと言わんばかりに、小さく「ったく」と言った。俺に聞こえなかったと思ってるのか分からないが、しっかり聞こえてたぞ。
「そんじゃあ、どっから行くかなぁ……よし、着いてこい」
それから、レーガドンナに連れられて色々なところを見て回った。
歴史が詰まってそうな建物や、ガイドブックがあれば載っていそうな観光名所等々。
その中でも印象に残っているものと言えば、まずは王都中央にデカデカと建っている、インテグラル凱旋門だな。
あとは、噂のノーフラン教の本拠地。ノーフラン第一教会大聖堂院というとんでもなくデカイ教会。あれは圧巻だった。ステンドグラスが綺麗のなんの……いやまぁそれは良い。
それから、国際ギルド協会ノヴァンロード本部。これは他のものとは、明らかに雰囲気が違った。
強面の人の出入りも多くて、血気盛んというか……あれが冒険者、恐ろしい魔獣を相手に毎日戦っているヤバい人達か……と肌で感じた。
そして、最後に訪れたのがここ。
「時間的にここが最後だな。警備が厳しいから、こっからしか見れねぇが……あの一番奥に見えるのがこの国の中枢、国王府だ」
こんな調子で、レーガドンナが鼻高に解説してくれている間も、目の前に立つ衛兵2人に睨まれている。
ただ、先程の門番の衛兵とは少し装いが違った。モスグリーンのような色をしたロングコートを羽織っている。衛兵というよりか、どこかの役人みたいな。
「それから、その手前にあるのが七星連院区だ」
七星連院区……国王府はまだ何とか予想が着くというか、どんなところか分かるが、七星連院区は皆目見当もつかない。
「その、七星連院区? っていうのは要するに何だ? 」
「あぁ、そうだな。あそこはな、簡単に言うと七星連っていう……正式名称は、まぁ長ぇから今はいいとして、そいつらの執務室兼家があるとこだな」
ザックリまとめると、要は七星連という大臣職のような人達の執務室と家のような役割を果たす、七星連院という建物がある地区を七星連院区というらしい。あんまりピンと来ない。
「でな、七星連ってのは凄いんだぜ。7人それぞれが、それぞれの役割を果たす事で、国政が回っててよ……」
要は、七星連っていうのは、この国で偉い7人の事をいうらしい。
それからも、目を輝かせたレーガドンナによる七星連解説が数十分続いた。どうやらレーガドンナは、その七星連とやらが大好きらしい。
絶対そういうタイプじゃないだろ君……と思いながら聞いていた。
「よし、そろそろいい感じに腹も減ったろ? 飯食いに行くぞ! 」
何となく分かったのは、やはりこの国は中世か近世頃と、ほぼ同じくらいの文明レベルがある。
暗くなってから気づいたが、街灯もついているし、電気かそれに準ずるエネルギーが、ちゃんと王都では普及しているらしいと分かった。
「おーい、聞いてんのか? 何が食いてぇかって聞いてんだぞ」
農村部や発展していない街などでは見られなかったのは、まさしく今がその過渡期にあるということだろう。多分。
だとすれば、この王都では自動車のようなものがあっても不思議では無いが、それがなく竜車しかないのは、それだけ稚竜が素晴らしくその必要が無いのだろう。
「いでっ!? 」
「ったく。何をボケーッとしてやがる。もういい、俺の行きつけんとこ行くぞ」
レーガドンナにそこそこ強めなグーパンを貰いつつ、つい考え込んでしまっていたと反省した。
「ごめんごめん、夜ご飯だな。お前の行きつけ。楽しみだ」
そんなこんなで、王都探索の1日目は終わろうとしている。
異世界に来て、初めて今まで体験したことのない文明の息遣いのようなものを感じた気がするな。
「お、そうだ。明日は福楽商店に行くからな」
いや、だいぶ時間空いちゃいましたねこれ。すいません。これからもこんな感じでやるので、気長に待ってていただけると、とってもありがたいです。




