賢者は書き記す。
「少しは持ってくれよ?」
指を鳴らす。
「はぁ、また瞬殺だよ」
自身に掛けていた魔法を解く。
「重力と筋力、知力、持久力、魔力に倍率最大のデバフ。そして、倍率最大の呪いも掛けた」
例え神だろうが、ほんの一瞬で塵すらも残さず消滅する程度のデバフだ。
「そして、相手にはこれの真逆の性能のバフを掛けたのにも関わらず、相手は俺に手も足も出せないくらい弱いまま」
相手によっては毒にもなる程のバフだが、使いこなせるようになる魔法も付けた。
例えゴブリンでも神に匹敵する力を持つだろう。それを元々竜神様って崇められてる奴に掛けたら?
「答えは単純明快。俺には手も足も出せない」
呆れながら魔導書のてきとーなページを開く。
「別に詠唱は要らないが、一応。俺に応え、力を分けろ。そして、消え去れ。 消失」
目の前の山が瞬時に消え、その代償が訪れる。
「こんな詠唱でも良いのかよ。修復」
山が再形成されているのを横目にまた新たな魔法を記す。
「あ〜……永遠の命って聞こえは良いけど、やっぱり暇だなぁ」
賢者が記した魔導書は9,999冊。ページ数は6,000。1ページに1つの魔法を詳細に書き記した。
「すべての魔法を暗記及び体得済みだもんな〜」
魔法の外観、属性、原理、代償、使用MP、主に使用する種族、その他の詳細は大抵記した。
「とりあえず帰って報告するか。封」
死体を収納した後、転移魔法を発動する。
「え、あっ、大賢者様!?」
「うん、賢者様だよ」
毎回誰かに驚かれてる気がする。
「依頼、終わったよ」
「あの依頼をもう終わらせたんですか!?」
彼女はまた驚いた。
「あの程度が世界を脅かすって本当か? 解」
証明部位と売れる部位を彼女との間にあるカウンターの上に召喚する。
「売れる部分は全部剥ぎ取ってきた。相当高くつくぞ」
角、牙、爪、鱗、眼、核、臓物。臓物は小さくした上で眼と同じく魔法で保存したまま渡した。
「えと、今日もですか?」
「ああ、金を必要としてやってる訳じゃないから。いつも通り、礼って事で」
金を持っていた所で使わない。それに、もうこの世界に未練は無いしな。
「また、いつか会おう。じゃあな」
そう言い残し、先程いた場所へ転移する。
「発動したらもう戻れない」
この世界から消える。
「これで世界最高の賢者として語り継がれるだろう」
そして新たな世界に行く。
「召喚。君に命じる。俺が記せと言ったら俺の言葉をこの欄に記入してくれ」
この世界で書き記す最後の魔導書。1万冊目の本。最後の最後は自分では書けない。本当に残念だ。
『了解しました』
小さいゴーレムを召喚した。少し似せすぎたか?
「記入した後、俺の姿が見えなくなったらその本とこの花束をある少女に渡して欲しい」
不変の魔術を掛けた花束。カミツレ15本、白色の勿忘草、黄色のクロッカス、赤色の薔薇25本。彼女なら意味が分かるだろう。
その花束を異空間収納から取り出し、預ける。
「少し離れていてくれ。巻き込まれるぞ」
『では』
俺が独りで編み出した魔法。
「転生属性、唯一の魔法。 見知った世界にお別れを」
辺りに壮大な魔法陣が展開される。
「よし、成功だ」
魔法陣のお陰で深夜にも関わらず、昼のように明るい。人里から最も離れた場所を選んで良かった。暫く別の世界に滞在するけど、噂になったら何か嫌だし。
「さぁ、記せ」
小さい光の珠があちこちに浮遊している。
「体の先端部分から光の玉になる、痛みは無し。足も光の玉になっていくが視線の変化は無い。つまり、浮遊状態かこの世の物質から脱したか。着用している衣服も同様。そして、ステータスの項目が減少していく。その減少速度も徐々に上昇している。発動から約2秒後に足首まで消失、その1秒後に手首も消失、それから2秒後に膝までが消失、その3秒後に腰までが消失、その1秒後に肩から先が消失、その2秒後に胸あたりまでが消失、そして、その4秒後にすべてが消失する、計15秒。そして、最後に強い眠気が襲う」
15秒で出来る限り詳細に伝えた。俺は1万冊の魔導書を記し終えたことに満足し、俺の体のすべてが光の珠となり消失した。
久しぶりの睡魔に襲われ、目を閉じる。そこからは、何も覚えていない。だが、一つだけ確実な事がある。
それは、
転生者の生存難易度が最も高いとされる世界に転生してしまったことだ。




