阿部美鈴(ABE MIREI)
急遽バディになった沖縄県警のナベさんと阿部ちゃん。
二人は、爆発現場周辺へと向かった。
「めんそーれ、何名様ですかー?」
「二人で」
「奥のテーブル席どうぞー」
「ここが渡辺さん行きつけの?」
「ああ、琉球でゴーヤチャンプルー出してるから「琉ちゃん」って店名らしい」
「さすがに安直すぎませんか!?」
「わかりやすくていいだろ、さ、好きなもの頼んでいいぞ、奢ってやる」
「本当におごりでいいんですか!?」
「先に言ったの阿部ちゃんじゃないか、全然いいよ」
「ありがとうございます~!」
「ナベさん、何にする?」
「ゴーヤチャンプルーセット二つで」
「ありがとうございます、少々お待ちくださいー」
「ナベさんって名前いいですね、私もそうしよっかな」
「阿部ちゃん、ナベさんだとわかりにくくないか?」
「なんだか漫才コンビみたいですね、気に入りました!ナベさん!」
「早いな気にいるの、ここ本当はオリオンと一緒にゴーヤチャンプルー食うのが一番旨いんだがな」
「じゃあ、また飲みに行きましょう、ナベさん」
「ゴーヤチャンプルーセット二つですー、ごゆっくりー」
「めっちゃ美味しいですね!」
「そうだろ! ところでこの後は署に戻るって話だったが俺は現場近くが気になるからそっちに行こうと思うんだがどうだろう」
「わかりました、捜査本部への報告は後でまとめてすればいいですね」
「ありがとう、そうしよう」
爆発現場の駐車場は国際通りの中心部から一本路地に入ったあたりだ。
駐車場には被害者の車以外一台も停まっておらず、奇跡的に他の被害はなかった。
他の被害もなかったこともあり、爆発直後に引かれた警戒線は解除され、今は平穏を取り戻している。
阿部は現場周辺の防犯カメラが異様に少ないことが気になっていた
「ナベさん、このあたり本当に防犯カメラが少ないですよね」
「ああ、おそらく大手ゼネコンによる再開発を免れた地区だから色んな投資が遅れているのかもな」
「ただ、この辺りってあんまりいい噂聞かないので物騒じゃないですか?」
「米兵問題のことか」
「はい、沖縄に来てもう5年ほどになりますけど一女性としてこの問題は本当に深刻だなって思います」
「そうだな、そういう意味では防犯カメラがないのは気になるな。周辺のビルで聞いてみるか」
二人は駐車場の隣の沖縄国際ビルディングの窓口に向かった。
「沖縄県警の渡辺です、責任者の方はいらっしゃいますか。昨日の爆発について少々お話伺いたくて」
「同じく阿部です」
「窓口担当の鈴村実花と申します。少々お待ちください。」
阿部は清潔感あふれるロビー、そして窓口の後ろの壁に掲げられていた日の丸に目を奪われた
「渡辺様、申し訳ございません。ただいま会長は本日こちらに来る予定はないようです。那覇国際センター事務局長の毛利なら対応できるようですがいかがいたしましょうか」
「わかりました、それではその毛利さんのもとにご案内いただけますか。阿部ちゃん、いくぞ」
「はい、!」
「エレベータでお二階までお上がりください、出てすぐが事務局長室です」
「え!二階なら歩きますよ!」
「阿部ちゃん、こういうときはお言葉に甘えておこうじゃないか」
「わかりました、それもそうですね」
「事務局の毛利です、お待ちしておりました」
「わざわざお出迎えありがとうございます。県警の渡辺です。捜査でこんな対応されたのは初めてですよ」
「同じく阿部です、お心遣いありがとうございます。早速ですが昨日の爆発について少々お聞きしてもよろしいでしょうか」
「わかりました、あの日はこの事務局で朝から仕事をしていると11時ごろ、大きな爆発音がして窓を見ると車が炎上していました」
「被害者の芦田達也さんとご面識は?」
「ありますよ、たしかうちでたまにカメラマンをしていたはずです」
「そうなんですか、とういことは事件当日もこちらに?」
「どうでしょう、昨日はセンター自体は工事のために臨時閉館していたので」
だから昨日の段階で誰も捜査員がこのセンターに来ていなかったのか、と阿部は納得した
「毛利さん、昨日の防犯カメラ見せてもらいたいんだができますか?」
「承知しました。ただ当館は館内カメラしかございませんのでご了承ください」
「館外のはないのか?」
「はい、会長のご指示でして」
「なるほど、わかりました。ひとまず館内の映像及び入館記録を見せてください」
「承知しました、少々お待ちください。」
毛利は会釈をして部屋を出て行った。
「阿部ちゃん、防犯カメラがない件、どう思う?」
「そうですね、このレベルの建物で防犯カメラを館外に設置しないのは珍しいですよね、そもそも会長のご指示というのが」
「ああ、そこが少し引っ掛かりはするな。ただ今回の件と直接結びつくとは考えにくいが」
「そうですね。毛利さんからデータいただいた後、署に戻る形でいいですか?」
「申し訳ないんだが、署に戻って報告するのは阿部ちゃんに任せていいか?少し被害者の足取りをもう一度追ってみたい。」
「わかりました。私も所に戻って他の事件の捜査資料まとめる作業があるのでまとめてこなしちゃいます。」
「ありがとう。何かわかったことがあったら報告する」
「お願いします!」
ちょうど、毛利が額の汗をハンカチぬぐいながら戻ってきた。
「すみません、お待たせしました。こちらが館内カメラの映像と入館記録が入ったUSBメモリです」
「ありがとうございます。こちら署に戻って閲覧させていただいてよろしいでしょうか」
「もちろんです。会長にも後ほどお伝えしておきます」
「その会長にもお話を伺いたいんだが、名刺などはありますか?」
「こちらになります、お二つお渡ししておきます」
名刺には「日本国際センター会長 椎名武志」とある。
「ありがとうございます。椎名会長は普段はいつこちらに?」
「そうですね、会長は普段違うお仕事もされているので所用がある際にしかこちらにいらしてません」
「つまり、阿部さんがいつもお仕事のとりまとめをされているのですか?」
「その通りです。といってもうちは観光関係の案内や各種学会のセッティング等をするのみで大して忙しくもないので」
「それでは、会長さんが次に来る日時が分かり次第こちらにご連絡いただけますか?」
渡辺が自分の名刺を出すと、阿部も続けて名刺を出した。
「渡辺薫 沖縄県警察 警部補」
「阿部美鈴 沖縄県警察 巡査長」
「刑事さんの名刺なんて初めていただきました。承知しました」
「それでは、私たちはこれで失礼します。お時間いただきありがとうございました。」
「お役に立てれば幸いです。玄関ホールまでお見送りしましょう」
「いえ、お気遣いなく。失礼します」
「毛利さん、良い方でしたね!」
「そうだな、阿部ちゃん車使って署まで戻ってくれていいぞ、俺はここから少し歩いて調べてみる。データ解析はいったんデータ捜査班に回しておいてくれ」
「ありがとうございます!了解です!暑いので気を付けてくださいね!」
「ありがとう」
渡辺は沖縄らしい陽の光を背に飛ぶ「彼女」を見ながら、再び被害者宅への方へ歩いて行った。
「ピー――――ッ。こちらは保護された回線です。機密保護のため5分以内にお切りください――」
「もしもし、岸だ」
「岸部長、阿部です。捜査状況をご報告します」
署での報告を終え、自宅に戻った阿部は結っていた髪を下ろしながら話す。
「おお、阿部か。例のNの件はどうなっている」
用心深い岸は隠語を使って話す。このNとは那覇のことだ。
「被害者は自車の爆発に巻き込まれて死亡しています。行く先はおそらく現場隣のセンターです」
「やはりそうか。他に手がかりは」
「被害者宅は現場近くのマンションです。非常にきれいで金には困っていなさそうです。ですが、、、」
「何だ」
「昔付き合っていたモデルの写真と、別府温泉の写真、そして、、B E P P A N と書かれた紙が置いてありました」
「おい、最後何ていった」
「ですから、べっぱ」
「やめろ、電話だぞ、あそこは解散したはずだ。去年の情報保全法で完全解体されたんだぞ」
「わかっています。ですが本当にあったんです」
「すると、被害者は奴らと係わりがあったということか」
「おそらく、何かしら関係があったのかと」
「っく、ガセネタと信じたかったが、あのタレコミは本当だったのか。阿部君、君は引き続き被害者の身辺を洗え」
「わかりました」
「ところで、相棒はいいのが見つかったか」
「ええ、入庁直後の沖縄での研修時に世話になった人なので特に怪しまれず進められそうです」
「そうか、決して我々のことは悟られるな」
「ピーーーーッ」
残り1分を示すアラームが鳴った
「それでは、部長失礼します。またご連絡します」
「わかった。よろしく」
電話の相手は
「警視庁公安部部長 岸英介」
日本警察の公安部門の拡大を支える策士である。
そして
「警察庁警備局警備企画課沖縄班班長 阿部美鈴」
これが彼女の本当の肩書だ。阿部は国家公務員総合職で警察庁にトップ入庁するはずだった。
しかし、あまりに優秀な成績を当時の警察庁警備局警備企画課長の岸に目をつけられ、警察庁警備局警備企画課沖縄班に抜擢された。
そのため、表立っては入庁メンバーに入っておらず沖縄県警で採用されたことになった。
「タレコミって一体何なんだろう。」
阿部は髪を再び結ってトレードマークのポニーテールに戻した。
「B E P P A N、岸部長でもあんなに動揺するんだ」
阿部は芦田の家で撮ったメモを眺めながらつぶやく
「B E P P A N」「別班」正式名称「陸上自衛隊陸上幕僚監部運用支援・情報部別班」
去年、岸宮内閣が猛反対を押し切って成立された情報保全法で正式に諜報組織がつくられて、極秘の別班は解体されたはず。
そして岸部長に入ったタレコミってなんだろう。この事件の正体って何なんだろう、。
阿部は頭の中で反芻しながらいつもの笑顔を取り戻すルーティンをしていると県警用の携帯が鳴った。
「もしもし、突然すまない。渡辺だ」
「あ!お疲れ様です!阿部です!」
何も悟られぬよう、いつも以上に明るい声を心がける。
「被害者宅周辺を歩いてみてわかったことがあるんだ。すこしいいかな?あと解析の結果も知りたくて」
「わかりました!お願いします!」
明るい阿部ちゃんと、ナベさん。
二人が進むべき道は誰も分からない。
第二話です。
コメントなどお待ちしております。
ぼちぼち続けていきます。頑張ります。