第2話 独りじゃないんだ！
一体なぜこんな森の奥深くに女性がいるんだろうか？と太郎は困惑したが、彼女はそんな太郎の気持ちを察する様子もなく、さらに告げた。
その声が上擦っている様に聞こえる。緊張しているのだろうか？
引き締まった身体にフィットした胸当ては、細かい葉脈のような装飾が施され、自然の美しさを象徴しているようだ。肩の部分には、翼を広げた鳥の形をした飾りがあり、彼女が動くたびにまるで飛び立とうとするかのような生命感を感じさせた。森の光が溶け込んだような黄金色の長い髪は輝き、風になびくたびに周囲を明るく照らし出す。
彼女の肢体は、美しさと力強さを兼ね備えた彫刻のように整っており、抜群のプロポーションに太郎は息をのんだ。何より太郎の興味を引いたのは彼女の尖った長い耳だった。
「わぁ〜やっぱりこの世界はRPGみたいな世界なんだなぁ」
「耳が長いからエルフなのかな？」
また、彼女の腰には剣を剥いでいるので剣士なのだろう。ゲームや映画などでは弓矢が得意な設定もあるはずだ。
太郎は、興味津々にそんなことを考え、エルフの美しさにただただ見惚れていた。
「ドラゴンよ！」女性はさらに問いかける。
その時、太郎は気づいた。
「あれ、言葉がわかるぞ！」
彼女の言葉を理解できることに驚き、その後には喜びが心を駆け巡った。
この世界でもコミュニケーションができるのだ！
その事実に、その行幸に太郎はいい知れぬ幸福感を感じた。
「いっやったぁ〜〜〜〜〜〜！！！！」
空に向かって喜びの声を揚げただけだったが、その言葉は女性には理解できずドラゴンの咆哮にしか思えない。
また太郎は興奮していたため、又してもその口から灼熱の炎が激しく立ち昇った。
周囲に高熱の余波が襲い、エルフの女性は苦痛に顔を歪める。
その様子を微かに視界におさめた太郎は慌てて口をつぐみ首をすくめ女性に謝罪した。
「ご、ごめんなさい！」
しかし相手には通じていないだろう。
明らかに女性の顔は引き攣っている。
それは、もう間違いなく「ザ・恐怖」という表情を浮かべていた。
太郎はより申し訳なくなり、何とか自分の謝罪の意思を伝えたいと身振り手振りを加え、相手に伝わらないかとジェスチャーで試行錯誤をしてみる。
それでも伝わらない時は最後の手段だ。
古今東西こういう時は、「土下座」だと太郎は思っていた。悲しいブラック企業での経験で彼は身に染みてそれを理解していた。
が、相手から見るとそれは鋭い鉤爪を振り回し、どうやって自分を切り刻んでやろうかという恣意行為の後、身体を屈めいよいよ自分に襲いかかる体制になった様に見えたのだろう。
右足を後ろに半歩、ついで左足を一歩後ろに引いて後退りした。
足取りは覚束ず、顔はますます青ざめ恐怖に満ちている。
「あっ、待って待って！行かないで」
太郎は懇願した。この世界で孤独を感じていた中でようやく出会えた人なのだ。ここで逃してなるものか！太郎は何とかしなければ、と焦った。
必死のジェスチャーはますます彼女に恐怖を与えた。死の恐怖を。
太郎の翼は彼女を逃すまいと大きく開かれ、目は血走り彼女の姿を捉えて離さない。
そんなドラゴンの姿に彼女の顔は更に蒼ざめ身体中が弛緩し震え出した。
バタン。
大きな音を立て彼女は真っ直ぐに後ろへと倒れ込んだ。
