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デュアル・クレセント④ 〜素顔の廊下〜


 早朝の宮殿を歩く仮面の男。


 目元が三日月のように湾曲し、両目を上下に貫く濃紺の縦線、左の額には黒い星──デュアル・クレセント。


 昨夜の舞踏会に明け方まで出席していた者たちはまだ夢の中にいる。静まり返った回廊で、すれ違った者が仮面の男に小さく会釈するが、声をかける者はいない。仮面の男は、片手を軽く上げて応じ、ひとりで廊下の先へと進んでいく。


 やがて彼は、とある個室の扉を開けた。


 扉を閉めた瞬間、仮面の男は肩から力を抜いた。そして静かに仮面を外す。


 「……はしゃぎ過ぎたかな」


 ぽつりと、モニングローが呟く。譲り受けたばかりの仮面をつけて宮殿を歩いた高揚と、その余韻が心に残っていた。だが同時に、人目を気にせず歩いてしまったことへの、かすかな気恥ずかしさもあった。


 「ごめんな、勝手に。」

 呟きながら、仮面を両手で持ち上げ、ゆっくりと目の高さに掲げた。朝焼け前の淡い光が窓から差し込み、仮面の白い表面に、柔らかな影を落とす。


 「……やっぱり、美しいな」


 これは自分の作品ではない。だが、作り手の心が、仮面のどこかに触れるたびに伝わってくる。笑顔と涙。誇らしさと孤独。仮面に宿された二面性が、モニングローの心を静かに揺さぶっていた。


 笑っているのに、泣いている。

 光に満ちているのに、どこか陰っている。

 そのすべてを肯定するような仮面だった。


 しばし見入った後、彼は仮面を柔らかい布に包み、棚に丁寧にしまう。


 ゆるやかな微笑みが消えると、職人としての顔に戻る。机の上に置かれた真っ白な仮面に、そっとノミを沿わせる。


 「……お前の“素顔”を、ちゃんと覚えていたいんだ」


 その言葉は、音にはならなかった。だが、ノミの動きが、親友への想いをなぞるように慎重で、そして静かだった。


* * *


その頃、宮殿の別の門。

門番が軽く頭を下げると、クレイタは会釈を返し、穏やかに言葉を交わしていた。


空では、三日月が静かに薄れゆき、

短い宵闇の刻が、夜と朝の境界をやさしく告げていた。


やがて、交代の衛兵が向こうから歩いてくる。

その背後に、朝焼けのオレンジがゆっくりと空を染めていく。


城壁の外を歩く彼は、新たな仮面をつけていた。


目元と口元は、以前と同じく三日月のような笑みを形作っている。

だが、濃紺の涙の線は、もうない。


仮面の左半分は黒く塗りつぶされ、右半分には右目から円状に放射された優しい無数の線が描かれている。


さらに、右の頬には淡い赤みが描かれている。

まるで、陽の光を浴びて熱を帯びた肌のように。


月の裏側を旅した道化師が、地上に降り立ち、朝に向かって歩き出す。


数ヶ月ぶりの旅立ちに、彼が今、どんな表情をしているかは見えない。

代わりに、親友の職人だけが見たことのある──まだ名もない仮面が、やさしく光っていた。


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