1話 “仕方なく”
「さーて人間の何か動きはないか監視でもするか」
人差し指をすっと上に持ち上げた、すると地面から水晶玉が現れる。
この水晶玉は特殊な水晶玉で、一定の魔力を注ぎ続けると男湯でも女湯でも気になるあの子の部屋でも覗くことができるのだ。
おっと、そんなことより自己紹介をしておこう。俺は魔王だ。そう、あの魔王、人間に恐れられ、自然破壊を繰り返し動物を無慈悲に虐殺することが生きがいな、圧倒的な強さを保持した悪の象徴のような存在。
と、まあ、人間の立場から想像したらそんな感じだろう。
こっちから言わせてもらえばそれは大きな間違いなのだがな。確かに圧倒的な強さを持っているのは認める、控えめに言って世界最強クラスだ。
だがな俺がいつ自然破壊をした! いつ動物を虐殺した! 俺は自然大好き動物大好き頭ポカポカ野郎だぞ!
ふぅ、そう、そうなのだ、俺は生粋の平和主義者だ。人間はまるで俺が悪者のように扱ってくるけどな? 俺たち魔族魔人族へ攻撃してくるのはお前らだからな、俺たちはお前らが攻めてくるから仕方なく、あくまで自衛のために武力を行使しているだけだからな?
勘違いしないでよねっ! 別にあんたを傷つけてたくてしているわけじゃないんだからねっ!
とまぁ、俺は種族を守るために人間を監視しなければいけないのだ。
別に視姦の趣味があるとかそんなんじゃない。
「ほお、これがあの噂の第3王女アリス・ミナーリ王女か。ふむふむ」
水晶玉に映った美少女はサラサラと靡く腰まで伸びた髪に整った輪郭と優しそうな笑顔、それは老若男女どんな人間であっても目を奪われるような美貌を持っていた。
水晶越しであってもそれが伝わってきて神聖さすら感じる。
「うあああ!!!! 眩しい、目がぁぁ! 成仏してしまう!!!」
と錯覚するほど彼女は眩しかった。俺じゃなければ死んでたぜ。
確かに噂通り絶世の美少女だ、別につい見惚れてしまったわけじゃない。あっでもなんとなくコイツ怪しいな。そうだコイツを監視してやる。決してずっと見ていたいからな訳ではない。
「エンディア様……緩くなった表情で水晶玉を見つめてから、かれこれ6時間ほどは経ちますが流石にキモいんですが……」
「相変わらずポイズルは毒舌だな、おい」
彼女の名はポイズル俺の優秀で特別な4人いる部下の1人だ。
紫色の髪を纏った彼女は賢く、そしてたまに毒舌なのである。
「そんなに気になるんですか? その女性が」
ポイズルは俺をジト目で眺めながら問いかける。
さっきも言った通りだが、俺は種族を守るためにあくまで監視をしているだけであり、これは人間の動向をチェックするとても大切な仕事なのだ。
「い、いいや。俺はただ監視をしているだけだが? 見惚れていたとか、そんなんじゃないからな」
するとポイズルは「へぇー」と小声で呟き、何を思ったのか悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「いえいえ、私は好意的な意味で尋ねたわけではありませんよ? なんですか? 見惚れていたんですか?」
「違うもん!」
向きになってそっぽを向く、するとそっぽを向いて靡いた服が水晶玉にヒットしてしまい、水晶玉は落下。そして「パリーン」と音を立ててバキバキに割れてしまった。
「ああああ!!」
超激レア魔導具がぁぁ! 世界に一個しかないのに!!
するとポイズルはため息を付いて俺に提案をした。
「はぁ、これでは人間を監視できないですね……ではエンディア様が人間の元へ直接行けばいいんじゃないですか?」
「ん? そんなことしていいのか?」
「はい、まあ第3王女の監視? とかいいんじゃないですか?」
溢れた涙を拭き取り、太陽のように笑う。それをポイズルは呆れたように微笑した。
「エンディア様の部下は適当に綺麗事を並べてなんとかしますから」
「頼もしいなぁ、おい」
流石はポイズル俺の心を的確に読み、それを行動に移す、なんて優秀なんだ。
「そうと決まれば行ってくるぜっ!」
「ちょっと待ってください!」
軽い荷物を手に取り、テレポートをしようとしたその矢先、ポイズルが俺を止める。
まさか、恋しくなっちゃったとか?
でも止めないでくれ、俺は前しか見ないんだ……!
「その格好で行けばすぐに追い返されること間違いなしでしょう?」
なんだそんなことか。
俺は恥ずかし紛れに苦笑する。
そうであった俺は魔王なのだ。人間界では名の通った極悪人、道行く先にはWONTEDと書かれた俺の似顔絵が張り巡らされている。
この格好をしていけばすぐに国中の全勢力を構えて攻撃してくるに違いない。
「確かに!」
「はあ、ちゃんと『ディスガイズ』をかけてから行くんですよ」
「変装魔法か、なるほどそうだよな人間の姿で行けば問題ないよな」
そして俺は言われるがままに変装魔法を使う。そしてなんとなくで構成された人間の姿に変身した。
「こういう所はムカつきますね……」
悔しそうな表情を浮かべてポイズルは言葉を溢した。
「どうした?」
「いや、普段はすごく抜けているのに、こんなに魔法の扱いが上手で少し妬いただけです。多分こんなに完成度が高くできるのはこの世で魔王様だけだと思います」
これは褒めてくれるんだよな? 少しぎこちない褒め方だけど。
でもそのくらい人間に見えるってことは少し安心できる。特にポイズルは普段お世辞を言うタイプでないから尚更だ。
「お、おう。ありがとう」
「はい、あと名前はエンディアと名乗るのはやめて下さいよね?」
「えー、俺結構自分の名前気に入っているんだけど」
「そう言う事ではありませんよ、人間界で魔王の名を名乗れば不審がられでしょう?」
「確かに! しかし、名前ってなにかいいのはないか?」
「シンプルにエデアでいいんじゃないんですか?」
「いいな、エデア。エデアでいくわ」
エンディアのエとデとアをとってエデア、安直の名前だが実名の名残があって割と気に入った。
「最後に変装魔法の欠点、わかりますよね?」
「ああ、魔法を使えば解除されてしまうのだろう?」
「はい、」
ポイズルは満足そうに澄ました顔をした。
さて、出発するとするか。
「それじゃあ行ってくるわ『テレポ……」
「待って」
ポイズルは被せるように言った。
今度はなんだ、もう要件は何もないはずだが。
「早速魔法を使おうとしましたね?」
「あ、やべ」
そう言えばつい癖で、テレポートを使いかけてしまった。
確かにテレポートは魔法であった。これからき気をつけなくては。
「途中まで私が送ってあげます」
「おう、ありがとな」
「いえ、すぐなので」
そして俺はポイズルに連れられて人間の国の麓に着いた。
「じゃあ行ってくる”第3王女の監視に”」
「はい」
俺は颯爽とその場を後にした。
「たまには帰ってきてくださいよ……」