屋根裏の響
私は今、バチェロレッテだった。
いや、良いように言ってると思うかもしれないが、自分で自分の事をシングルとか、独り身、とは言いたくない。
このまま老後も一人かも……
だから貯蓄もしたし、小さいけれど部屋も買った。
なのに……
部屋に問題が発生した。
新築だったし、事故物件のはずもないが、霊がいるっぽい。
部屋が『ガタタ』と鳴るのだ。
いわゆる家鳴りの『ミシミシ』とは少し雰囲気が違う。
初めは、天井裏に誰かいる、とか、動物がいる、とか疑った。
カメラを買ってきて、天井裏や部屋に仕掛けて調べたけれど、動物も何もいない。
次に心霊系を疑って、人づてにお祓いを頼んだ。
『この鳴り方は霊じゃない』
と、お金を突き返され、帰ってしまった。
良心的だが、祓うそぶり見せず帰ってしまうののはどうなのだろうと思った。
ご利益のある神社を調べ、お札を貰ってきたが、この『ガタタ』と言う音は一向に収まらなかった。
一時は、この部屋を売って、新しい場所に引っ越すことも考えた。
だが、通勤にも便利で、何しろ女性が安心して暮らせる街で、離れがたかった。
それにこの『ガタタ』も慣れてきた。
様々な調査の結果、この『ガタタ』音は私を認識しているようだった。
友達がくると『ガタタ』は鳴らないのだ。
いや、一度だけ鳴ったことがある。
その時は、一晩だけ泊めてと言った子が、二日目、三日目と居続けた時だった。
『ガタタ、ガタガタガタガタ』
彼女は、私が何か嫌がらせしているのだと思ったようだった。
トイレから出てくるなり、言った。
「迷惑ならハッキリ言ってよ」
「な、なんのこと?」
私は何もしていない。
しかし、トイレにいる間中、『ガタガタ』とうるさかったと言う。
「何もしてないよ」
私は立ち上がって両手を上げた。
何も触ってないし、何も仕掛けてない。
彼女は私を睨み、掴みかかって来た。
『ガタタタタ』
と、突然部屋が音を立て、彼女は青ざめた。
「わかった、か、帰るわよ」
「えっ?」
すぐ荷物をまとめて、出て行ってしまった。
正直、ほっとした。
彼女は胡散臭く、私を騙そうという感じがあった。
このまま居座り続けられたら、と怖くさえ思った。
きっと部屋が追い返してくれたのだ。
私は勝手にそう思った。
今の私は、この『ガタタ』音を理解するようになっていた。
「晴れてるかしら」
『ガタタ』
「パスタの茹で上がりね」
『ガタタ』
「おはよう」
『ガタタ』
「ただいま」
私は今、バチェロレッテだけれど、今は寂しくない。