スレヴィの誕生日パーティー④
反射的にクロードがエステルを守るように覆い被さり、肩越しに、離れた場所にいるルシアンが氷魔法で大きな盾を作るのが見える。
ルシアンの氷の盾は大広間ごと覆っている。スレヴィだけではなく、ここにいる全員を守るような巨大なものだ。
「キャーッ」
周囲には悲鳴が響き渡り、食器やグラスが割れ、テーブルが倒れる音がする。パーティーに参加していた人々は皆逃げ惑っていた。
(何が起きたの……⁉︎)
その中でリーナは青い顔をし、スレヴィはリーナの手を掴み、そんな二人の前にルシアンが氷の盾をかざして立ちはだかっているような形だ。エステルを守っているクロードが半笑いでつぶやく。
「あーあ、ルシアン、派手にやってんなぁ」
「派手にって」
震えながら立っているのがやっとのエステルに、クロードはニヤリと笑う。
「今のだろ、二度目のスレヴィが死んだっていう攻撃魔法」
「!」
見ると、ルシアンの氷の盾には数発の攻撃魔法を跳ね返したようで、ところどころが溶けて大広間の絨毯に水溜りを作っていた。
(スレヴィ……!)
「大丈夫だ。もう魔法は飛んでこないにゃ」
「え?」
「外から飛んできていた、火属性魔法の使い手の魔力が感じられない。きっと、もう捕えたはずにゃ」
「⁉︎ もう⁉︎」
ルシアンはリーナに『過去の実行犯のことを調べ上げて尾行しておき、少しでも怪しい素振りを見せた瞬間に捕えるように』と言っていた。
今の攻撃魔法を放った瞬間に捕えたのだろう。
(いくら何でもスムーズすぎるのでは⁉︎)
一方の会場内は騒然としていて、誕生日パーティーどころではなくなっている。我先にと避難していく人々で大広間の出入り口はごった返し、怪我人も出ているようだ。
「本当に……その魔法使いは捕えたの? こんな簡単な攻撃だけで終わるなんて、おかしくないかしら」
「まー確かににゃ。スレヴィが五回も死んで、リーナがその数だけ死に戻った日のはずなのに、ちょっと不自然な気がしないでもないな」
「そうよ」
「でもにゃ」
この状況が不思議でならないエステルに、クロードが追い打ちをかける。
「闇聖女は静かに潜伏するのに夢中になっていて気づいてないみたいだったが、今ので五人目だにゃ」
「ええっ⁉︎」
見ていなかった自分も悪いが、あまりにも早すぎるのではないか。
「順調に捕えていったら、六人目七人目が現れるんじゃないかと思って警戒してたんだが、さすがにここまであからさまに主役が攻撃されたんじゃパーティーはお開きになるし、実行犯だって今日の暗殺はもう諦めるだろうな」
「確かに、この状況でスレヴィを狙うのはもう無理よね」
スレヴィはいくら嫌われ者の第五王子でも、表向きは王族だ。聖女の予言で国外に追放されても、戻ってくれば誕生日にこれだけの盛大なパーティーを開いてもらえるだけの立場なのだ。
その証拠に、大広間で呆然とする人々の前、十人以上の兵士がスレヴィたちを守るように取り囲み、警戒しながら表へと出ていく。リーナはスレヴィと共に退出し、ルシアンは会場に残るようだ。
(まさか、こんなにあっさり終わるなんて……)
呆然としていると、ルシアンが戻ってきた。
「エステル、怪我は」
「いいえ、私はこの通りです」
無事だと示すため両手を差し出せば、ルシアンはそれをぎゅっと握る。
「――よかった。エステルに何かあったら、俺は生きてはいけないからな」
「…………」
これまでのことを思えば全く冗談になっていないため、エステルは目を泳がせる。これ以上、本音がエスカレートしないようにコントロールするため、できるだけ応じないようにしたい。
それをわかっているのかいないのか、ルシアンは手を握ったままクロードに向き直る。手を離してほしいが、今のところその気配はなかった。
「クロードもご苦労だった。それで、何か他に変わったことは?」
「んーにゃ、特には。あいつ(・・・)、所属的に六人目かと思ったんだけどなぁ」
「クロードの読みが外れたのか?」
「んーーーにゃ。まぁ、そういうこともあるかもしれないにゃ」
「……それか、六人目以外か」
意味深すぎる二人の会話に目を瞬くと、ルシアンが教えてくれる。
「クロードには『三度目』のときにスレヴィの護衛についた女を探ってもらったんだ」
「! 王族の私設な護衛組織に頼んだはずなのに、情報が漏れてしまったときのことですか?」
「ああ。だが、動きはなかったようだな」
「あの女。引っかかれてやったのに、驚くほどに不審な動きはないし、何の収穫もなかったにゃ」
不満そうなクロードの言葉と表情で、これはあの猫獣人の女性の話なのだとわかる。
(なるほど。別にクロードは女性とのお遊びが好きなわけではなく、ルシアン様の指示でさっきの方の身辺を探っていたのね)
どうやら、クロードは任務のために女性と遊んでいたようだ。王都のはずれでの不便な暮らしを強いていなくてよかった、とほっとしたところで、ルシアンが怒りをあらわにする。
「こんなことがあった後で心苦しいんだが、俺は黒幕を吐かせるためすぐにリーナたちに合流しないといけない。聖女リーナ、『黒幕を吐かせられなかったらやっぱりスレヴィはオリオール王国に国外追放かな……エステルって優しいし実は闇属性魔法が使える聖女だし、身元引受人として最適よね』なんて言ってきたんだが、あいついい神経しすぎだと思わないか?」
ルシアンの怒りにくつくつと笑いながら、クロードが頷く。
「おっけー、そういうことなら闇聖女のことはオレに任せとけ。あとでちゃんと連れていくにゃ」
「くっそ……エステルと一緒に旅行に来ているのに、隣にいるのが俺じゃないなんてどんな拷問だ? クロード、そこを退け」
「王子様、落ち着いて」
「だって夜会仕様のエステルがかわいすぎるんだよ!」
ヤケクソ気味な心の声がしっかり聞こえてはいるが、それさえなければルシアンはとてもクールに振る舞っているように見える。そのギャップがとんでもなく恥ずかしすぎるエステルは俯くしかない。
(こんなときでも本音が隠せないなんて……!)
周囲の視線を感じて恥ずかしくなったエステルは、ずっと握られたままだった手を離そうとした。
「ル、ルシアン様。私は全く問題ありませんので、どうぞリーナ様とスレヴィのところへお急ぎになってください」
「…………」
伝えると、つい一秒前まで本音をだだ漏らしていたルシアンは不満そうにエステルの手を離し、少し強引に背中を抱き寄せる。
「⁉︎ ルシアン様……っ」
そうして、心の準備もないままに口付けられた。会場に残っている参加者たちから驚きの声が上がる。
(ルシアン様、人前で何てことを⁉︎)
状況が受け入れられず逃げ出したいエステルだったが、ルシアンは全く気にしていないようだ。ほんのわずかな間で唇を離し、そのまま息のかかる距離で告げてくる。
「この国でどんな噂が流れていようと、この会場で俺と聖女リーナをくっつけようとする思惑が蠢こうと、俺の婚約者はエステルだけだ」
「その、皆さんが見ていらっしゃいます。少し離れ、」
「早く結婚して、俺だけのものになったらいい」
「――!」
(早く結婚して、って……!)
それを聞いたエステルの感情は、あまりにもストレートに表情に出てしまっていたのだろう。エステルと目を合わせたルシアンはハッとしたように離れた。
「……っっ。悪い……っ。今のは、何でも……クロード、後は……頼む」
「ルシアン様?」
そのままルシアンは口を押さえ、早足で会場の外へと消えてしまった。見送ったクロードは呆れたように聞いてくるのだった。
「あーあ。今のは本当に聞かせたくない本音だぜ。エステル、どうするんだ?」
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