作戦会議
状況が少し落ち着いたところで、静かに見守っていたスレヴィが不機嫌そうに口を開く。
「さっきからずっと思ってたんですけど、ルシアン殿下はちょっと酷くないですか?」
「俺が? 自分でもそう思う」
「違います。エステルへの愛が重いことを言っているわけではないんです」
いつもはかわいい印象のスレヴィだが、今日はいつもより大人びた視線を纏っている気がした。三角の耳をピンと立て、ルシアンに真っ直ぐに向き直る。
「ルシアン殿下とエステルが婚約者同士ですごく仲がいいのは知っています。でも、僕の幼なじみの聖女リーナがルシアン殿下を慕っていることは知っていますよね」
(スレヴィ、噂を真に受けてすっかり勘違いしているわ……! 晩餐会では否定したのに、どうして……!)
話を聞いていたエステルは慌てたが、スレヴィはそのまま続ける。
「叶わない恋があることは知っています。ルシアン殿下がリーナを選ぶことがないのもわかっています。でもせめて、本人の前でこんなふうに仲が良すぎる姿を見せるのはやめてもらえませんか……!」
スレヴィの言葉は、リーナを心の底から気遣うものだった。呆気に取られているエステルたちに、スレヴィは強い意志を宿した瞳で伝える。
「もうすぐ、僕は誕生日パーティーで殺される運命にあります。でも今度こそ、自分で自分の命を救いたいと思います。きっと、あなただったら誰に頼ることもなく自分で助かっていると思うから」
まるで、リーナの『理想の相手』だというルシアンへの対抗心を示すような言い方だった。
(スレヴィはやっぱりリーナ様のことが好きなのね)
そう思ったところで、リーナが立ち上がる。
「ごめんね。スレヴィには何も言っていなかったんだけど、あれは演技なの」
「え?」
スレヴィがぽかんと口を開ける。
「私がルシアン殿下を好きなのも、ルシアン殿下みたいな人が理想なのも、ぜーんぶ嘘。だって、私が好きなのは……っ」
勝気な瞳で続けたリーナだったが、最後になるといきなり咳き込み始めた。ゴホゴホと咳をしながら苦しそうに喉のところを押さえている。
「リーナ? 大丈夫⁉︎」
「……っ、何でも、ない。大丈夫よ……っ。やっぱりダメか」
(これが、リーナ様の呪い返しなのね……)
成り行きを見守っていたルシアンも、察したようだった。リーナとスレヴィに聞こえないよう、小声でエステルに告げてくる。
「なるほど、こういうことか。エステルが彼女に協力したいと思った理由がわかった。自分の言葉で伝えられないのだから、せめて誰とも結婚しないでいたいと」
「はい。でも、リーナ様はスレヴィ様に好かれていないとお思いでしたが……どうやらそうではない気がします」
「そうか。……俺の呪い返しはこれ以上ない拷問だと思っていたが、悪くない方なんだろうな。俺は、むしろ呪いに背中を押してもらった方だ」
ルシアンの言葉に、改めて切なくなる。
(スレヴィがリーナ様に気持ちを伝えたらいいのだけれど。スレヴィは自信がないのよね……)
こればかりはどうすることもできなくて、もどかしさが募る。一方、しばらく呼吸を整えていたリーナは皆に向き直った。
「私がルシアン殿下を好きだと嘘をついていたのは、くだらない縁談を持ち込まれたくなかったからよ。ルシアン殿下が好みだと言っておけば、周囲の人々はあきらめるでしょう?」
まるで強がるように、美しく微笑んだリーナにルシアンが相槌を打つ。
「俺はエステル以外好きじゃないしな」
「王子様、言い方ひどい。使い魔のオレは?」
「もちろん好きじゃない方だろ」
「ぎゃんっ!」
ルシアンの言葉にクロードが悲鳴を上げると、部屋には笑いが起こった。この部屋に集まって早々の、あらゆる意味で微妙な空気はなくなった。それから、リーナが神妙な顔つきになって口を開く。
「それじゃあ、あらためて作戦会議を始めましょうか? 十日後にはスレヴィの誕生日パーティーよ。……絶対に、もうあんな思いはしたくないの」
さっきまでの和気藹々とした空気は一瞬で消えた。
(そうよね。だって、スレヴィの命がかかっているんだもの……!)
「僕、死にたくないなぁ」
「当たり前だ。俺が死なせないから安心しろ。エステルではなくお前を守るのは不本意だが」
(……ルシアン様)
エステルのカフェの二階で呆れながらスレヴィを起こしていたのと変わらない、いつもどおりのルシアンの声音にひどく安心する。
さっきまでの本音がだだ漏れの姿とは全く違う、鋭い瞳をしたルシアンが、ものすごく頼りになる気がした。





