死に戻りの禁呪と聖女リーナ
衝撃的な『予言』に部屋がざわりとする。
「僕が……殺される?」
「そう。毒殺、攻撃魔法による焼死、監禁されて暴行されて殺される、誘拐されてその先で餓死。誰かによからぬことを吹き込まれ光属性魔法を暴発させたことによって死刑、もあったわ」
「えっと、僕の死因は一つではないの……?」
リーナが『未来予知』によって未来を語っていると思っているスレヴィが困惑している。エステルも困惑しかけたが、リーナの説明に心当たりがあった。
(何度も同じ場面を繰り返す死、って)
エステルが死んだのは一度きりだ。けれど、仮に一度でエステルを救えていなかったなら、ルシアンは何度だって死に戻ったことだろう。
(もしかして、リーナ様は幼馴染のスレヴィを助けるために、何度も死に戻っている……?)
そう思ったエステルは問いかけた。
「リーナ様が使っている魔法は、『未来予知』などではなく、『死に戻りの禁呪』ですね……?」
すると、リーナはルビーのような赤い瞳をさらに潤ませ、悔しそうに唇を噛んで頷いたのだった。
それから、リーナはエステルたちにこれまでの経緯を教えてくれた。
「今度のスレヴィの誕生パーティーは私にとって六回目になるの。一回目のときは、乾杯の飲み物に強力な毒が混ぜられていた。光属性の魔力の持ち主によく効き、かつ闇魔法での治療にも特別な呪文を必要とする、スレヴィを狙った毒よ。私は魔法で解毒するため魔法書を取りに戻ったけれど間に合わなかった。スレヴィは死んでしまって、私は死に戻りの禁呪を使ったの」
「リーナ……まさかそんな、僕は死ぬの?」
ぶるぶると震えるスレヴィに、横たわったままのリーナは気丈に声をかける。
「そんなの私が許すわけないでしょう? だから、死に戻りの禁呪を使った。二回目のときは、誕生パーティーの飲食物を全部私が管理したの。今度は大丈夫だと思ったら、パーティーの最中に攻撃魔法が放たれた。実行犯を捕まえたけど、自死されてスレヴィを狙った組織には辿り着けなかった」
ショッキングな内容に、誰も口を挟まない。リーナは淡々と続ける。
「三回目以降は誕生パーティーを中止にしたんだけど、効果はなかった。四回目も五回目もそんな感じで、どんなに頑張ってもスレヴィは殺される。だから私は強硬手段に出たの。『スレヴィを国外に追放してしまえばいいんじゃない?』って」
「僕を嫌っているのはフリード国の人たちだもんね……」
自分が何度も殺される話を聞かされたスレヴィは青くなってぷるぷる震えている。リーナはそれを睨みつけた。
「それなのに、スレヴィはどうして戻ってきちゃったのよ……!」
「僕に理由を話してくれればよかったのに」
「そんなこと言えるわけないでしょう⁉︎」
(リーナ様が追放の本当の理由を隠していたのは、スレヴィを傷つけたくなかったからね)
思えば、ルシアンもそうだった。下手をしたら、ルシアンの『意中の相手に本音がだだ漏れになる』という呪い返しがなければ、エステルは自分がなぜ死に戻ったのか永遠に気づかなかった可能性があると思う。
(今まで、リーナ様はスレヴィが殺されないように一人で頑張ってきたんだわ。今回は、私たちも手伝って、何としてでもスレヴィの暗殺を阻止しなきゃ……!)
そう決意していると、ベッドに横たわったままのリーナは、はぁとため息をつく。
「私はスレヴィ暗殺の黒幕にいるのは光属性魔法を嫌う王族や貴族の誰かだと思っているけど、五回もスレヴィが死んでいることを思えば、もっと違う何かが出てきてもおかしくないと思っているわ」
「フリード国の王位継承権争いは落ち着いているものと思っていましたが、そうではないのでしょうか?」
ルシアンに問いかけられて、リーナは悲しそうに頷く。
「王位継承権自体には争いはないわ。でも、第五王子が光属性を持っていることを良く思わない王族も貴族も掃いて捨てるほどいるわ」
リーナの外見からは決して想像できないような低い声と、鋭い瞳、沈んだ表情。それだけで、これまでの五回のスレヴィの死がリーナの心にどんな陰を落としているかがわかってしまう。
(リーナ様はずっと一人でスレヴィの死と戦ってきたんだわ。大事な幼なじみが殺されて、それを救うために自分も死んで、って……。どんなに辛かったことか)
エステルは何も言えず、頷くしかなかった。一方、涙を浮かべながら子犬のように静かに話を聞いていたスレヴィはリーナの手を握り直す。
「とにかく、リーナはもう休んで。僕は絶対に殺されないように気をつけるから」
「ポンコツなスレヴィが自分でそう言うのが、一番信頼できないのよ! だって五回も死んでるんだもの!」
「ご……ごめん」
(二人の力になりたい。今度こそ、スレヴィを失わなくて済むように)
リーナとスレヴィの会話を聞きながら、ルシアンを見上げる。
(ルシアン様……?)
ルシアンの視線の先には、リーナもスレヴィもいない。
じっと遠くを見つめながら、何かを考えているようだった。





