呪いを解くヒントがありそうです
今日の朝食はパンケーキだ。なんとか気を取り直しつつ、焼けたパンケーキをお皿に重ねていく。
大きめにカットしたバターとバナナをのせ、メープルシロップを添えた。ホイップクリームもあればさらに豪華だっただろうが、朝なので軽い方がいいだろう。
この一週間でスレヴィは甘党なこともわかっていたので、チョコレートシロップも出してやった。
(飲み物はいつも通りミルクティーでいいかな)
反省しながらの朝食の準備は、意外と捗る。鍋を火にかけたところで、二階から叫び声がした。
「〜〜〜〜〜!」
「⁉︎」
とても情けなく聞こえる、スレヴィの悲鳴だ。
(何があったのかしら……⁉︎)
あわててコンロの火を止め、二階に上がると、そこではスレヴィがブランケットごとベッドから放り出されそうになっているところだった。
「スレヴィ、どうしたの……ってルシアン様⁉︎」
諦めたようにブランケットを放り投げたのはルシアンである。確かに起こしてくると言ってはいたが、どうしてこんなに強引な起こし方になっているのか。
エステルの到着を確認したルシアンは眉根に皺を寄せる。
「スレヴィが全然起きない」
「……」
ついさっき、大人気なさを反省していたルシアンがさらに大人気なくなっている。そのうえ、王子様が王子様を起こしているというのはなかなかレアな光景に、エステルは思わず瞬いた。
しかも、片方は上半身裸で尻尾と耳を生やしたかわいい少年なのだ。
(何というか、二人ともかわいいし、見る人によってはとても贅沢な光景なような……)
「……もう少し……眠らせてぇ……!」
「お前何言ってるんだ。起きろ。大体、何でこんな格好で寝ているんだ? こんな裸のような格好でエステルと同じ部屋で寝ているのか? 死んでもいいな」
「死んでもいいって誰がにゃ?」
「俺の話だ」
「幸せすぎて死ぬ方の話かよ。ルシアン、王子様なんだから、自分に置き換えるのだめだめ」
「……っ」
ゲラゲラと笑うクロードの言葉で、ルシアンは自分の心の声がまた勝手に口から漏れていたことに気がついたらしい。「この格好で自分もエステルの部屋で眠れたら死んでもいい」という声があっさりとばれてしまい、顔を紫にしている。
(さっき、ルシアン様を見て自分の未熟さを痛感して凹んだところではあるのだけれど……。この呪いは、聡明なルシアン様の価値を下げるものでしかないわ……!)
今さらながら、この呪い返しを消す方法はないものかと叫びたくなる。一方、寝ぼけていたところから目が覚めつつあるスレヴィも状況を把握したようだった。
「ごめんなさい。僕、服を着ると眠れないタイプで……獣人って大体そうなんですけど……あっ、でもズボンはちゃんと履きました」
「ズボン……って、当たり前だろう? いくら年下だって、もふもふだって、男は男だ。エステルのベッドで寝るんじゃない」
「ルシアン様、抑えてください」
まるで子どものような本音に呆れそうになるが、彼は『本音が隠せない』という呪いにかかっているのだ。きっと、呪いがなければクールに流していた場面なのだろうと思うと、そのギャップにまた赤くなってしまう。
(大人気ないとか、そういう問題じゃないわ。ルシアン様は……ちょっと私を好きすぎるのでは)
自意識過剰だとかそういうレベルを超えている気がする。エステルとルシアンの様子を見ていたスレヴィも、二人の会話の内容に違和感を覚えたようだ。恐る恐る聞いてくる。
「……あの、もしかしてルシアン様って、何か呪いにかかっていたりしますか?」
「そうだにゃ。闇魔法の呪い返しで、意中の相手に恥ずかしい本音をそのまま喋っちゃうっていうひでえ呪いにかかってるんだぜ」
ルシアンが答えない代わりに、毛繕いをしながらクロードが答えた。それを見たスレヴィは目を輝かせる。
「それなら僕、呪いを解ける人を知っています」
「本当に……⁉︎」
「はい。それはフリード王国の聖女なんですけど……僕は彼女に国外追放を命じられてしまったんです。聖女様の予言で、国に悪いものをもたらすから出て行けって」
「そんな……」
スレヴィは寂しそうに笑いながら、三角の耳を折ってしゅんとしている。けれど、フリード国の聖女の力には自信があるのか、すぐに気を取り直すと胸を張って教えてくれた。
「でも、その聖女様なら闇魔法の呪い返しを解けると思います。大変に、お力が強い聖女様ですので。……ご案内できたらいいんですけど、その本人に国外追放を命じられてしまったので」
「その様子だと、できることなら国に戻りたいんだな。いいのか? 自分を無理に追放した国だ。我が国が間に立ってやったとしても、状況の改善は一時的なものになるかもしれない」
ルシアンの言葉に、スレヴィは尻尾を振って答えた。
「もちろん、できることなら帰りたいです! 僕を追放した聖女様だって、元は僕の幼馴染で仲良しで……それなのに、なぜかある日いろいろな事情を突きつけて国を出て行けって言い出したんだ。わけがわからない」
スレヴィの今後のことはとても心配だが、同時にルシアンの呪いも解く手段にも出会えそうだ。 よかった、と安堵すると、ルシアンは爽やかに微笑む。
「そうと決まったら、用意が整い次第フリード国へ行こうか」
「? ルシアン様、ご公務があるのでは?」
「これも十分に外交上必要な仕事だ。それに、エステルとその子狼が同じ部屋で暮らしているのを黙って見ていられないからな。うらやましすぎて、……っ」
「……」
言葉を飲み込んだせいでルシアンの顔色がまた悪くなっていく。一瞬、頼もしいと思ったのは気のせいだったようである。
(もし、ルシアン様のこういうところがなくなってしまったら……ルシアン様ではなくなってしまうような)
早くも呪いが解けることを想像して複雑な気持ちになったエステルは、自分が現金すぎると思ったのだった。
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