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【書籍化】顔だけ聖女なのに、死に戻ったら冷酷だった公爵様の本音が甘すぎます!  作者: 一分咲
二章

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ほんの少ししか見えていなかったこと

 それから一週間後、エステルの自宅を兼ねた白くてかわいいカフェに、新しい住人がすっかり馴染んできたある日のこと。


 カーテンの隙間から差し込む朝の光に照らされ、エステルは目覚めた。


 エステルが眠っているのは、カフェの二階の生活スペースの中央に置かれた大きなソファ。ルシアンが遊びに来ると、ここで二人で寛ぐことがあるのだが、今はここがエステルのベッドがわりになっていた。


 現在、これまでエステルが使っていたベッドはスレヴィのものになっている。スレヴィは逆がいいと申し出てくれたのだが、さすがに王子様をソファで寝かすわけにはいかなかったのだ。


(でも、スレヴィに私のベッドを使っていただいていることがバレたら、ルシアン様はショックを受けるような)


 ということで、初日にスレヴィを案内してもらって以来、ルシアンのことは二階に上げていなかったし、そもそもルシアンは何か忙しいようでこのカフェにくる時間自体も減っていた。


 朝の光が眩しいものの、まだ早朝である。クロードを枕に、すうすうと眠るスレヴィの寝顔を見てふっと微笑んだエステルは、ブランケットをかけ直してやると、着替えてカフェスペースに下りた。


 カフェの開店準備をしつつ、朝食を準備するためだった。


「今朝はスフレパンケーキにしよう」


 そう決めたエステルは、ボウルに卵を割り入れて卵黄と卵白に分け、卵白の方は冷凍庫に入れて冷やしておく。その間に、卵黄に牛乳や小麦粉を入れてよく混ぜる。それを、しっかりと泡立てた卵白に合わせた。


 もったりとした二色の生地が混ざり合って、美しい。メープルシロップをたっぷりかけて食べるとおいしいので、砂糖は控えめにする。シャルリエ伯爵家でも休日の朝によく出てきた、ふわっふわのパンケーキだ。


(手間がかかるから、お屋敷に厨房があって料理人を雇っているような人でないとなかなか食べられないのよね)


 出来上がった生地を、よく熱してバターを溶かしたフライパンに落としていく。ふわふわの卵色の生地がフライパンに並んでいるところが、もうすでにおいしそうだった。


 甘い匂いがカフェの中に満ちて、お腹がきゅるるるると鳴る。


(いい香り。おいしそうだわ……!)


 じっくりと火加減を見極め、もう少しで焼き上がり、というところでカフェの扉が叩かれた。


「こんな早くに……もしかしてルシアン様かしら」


 執務が忙しいルシアンだが、その合間をぬって始業前にエステルに会いにくることはある。カフェ入り口の鍵を開けたところで、予想は当たっていたとわかった。


「おはよう」

「ルシアン様。おはようございます。どうされたのですか?」

「会いにきた。それと、あのスレヴィにも用があって」


「もしかして、オリオール王国で暮らせるようにするための手続きの件ですか?」

「そう。スレヴィが追放された正式な理由を知るため、フリード国に問い合わせた結果、そこまで重要なものではないと曖昧な返事が帰ってきた。おそらく、自分で言っていたように光属性の魔法を持つせいなのだろう。仮にもし本人が希望するならフリード国に返してやれるかもしれないが、同じことの繰り返しになる可能性もある。スレヴィの考えを聞きたい」


「……本当にオリオール王国で暮らして行きたいのか、を確認するのですね」

「ああ。俺個人としては、自分を追放した国になど戻る必要はないと思っている。だが、スレヴィはフリード国を憎んでいる素振りはなかったから、念のために確認したいと思った」


 あらゆる可能性を考えて行動しているルシアンに、自分の考えの浅さを反省するとともに感動してしまう。


「私は何も考えずにスレヴィに居場所を提供しただけだったのに、ルシアン様はさすがですね。人助けって難しいです……」

「違う」

「?」


 首を傾げると、ルシアンは背中を壁につけて寄りかかった。


「あの子狼な第五王子が、エステルと一緒に暮らしているのが嫌だっただけだ」


 不貞腐れたように告げてくるルシアンは明らかに目を逸らしていて、視線が合わない。頬が赤く染まって見えることを思えば、わざと本音を話しているのだろう。


「ルシアン様……」

「朝食、もうすぐ出来上がるんだろう? あの子狼を起こしてくる」


 軽く微笑んで階段を上がっていくルシアンを、ドキドキとしながら見送る。


(いつも大人なルシアン様がそんなことをお考えだったなんて。誤解されているわけではないけれど、私もルシアン様の婚約者として自覚をもつべきだったわ……)


 いつも本音しか話せないルシアンと一緒にいるのだ。すれ違いなど絶対にあり得ないと思っていたエステルは、反省する。どうやら、重い愛はほんの一部しか見えていないのかもしれない、と。

お読みいただきありがとうございます!

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