よく似た聖女
「狼の姿で国境を超えたということは、あなたは普通の旅行で来たわけではないの? 私に何かできることがあるのなら力になるわ」
「僕は、生まれ育ったフリード国を追い出されてしまったんです。きっと、フリード国で嫌われている光属性の魔力の持ち主だからだと思います」
「なんて酷いことを……」
同情すると同時に、オリオール王国との常識の違いに驚いてしまう。なぜなら、光属性の魔力といえばオリオール王国では特別なものだ。
その持ち主はめったに生まれず、家柄や魔力量によっては聖女の地位につくことも夢ではない、国中の乙女が憧れる魔力だ。実際に、エステルは光属性の魔力を持って生まれた。
にも関わらず、実家が養子として引き取った孤児院出身の妹・アイヴィーの方が光属性の魔力量に優れていたため、家を追い出される事態になってしまった。
一度目の人生でエステルが死んだのはそのせいだった。
こんなふうに、光属性の魔力の有無やどれぐらいの魔力量を秘めているかは、一人の貴族令嬢の人生をも左右してしまう。
とにかく、オリオール王国ではそれほどまでに優遇される光属性の魔力がフリード国では迫害の対象になるなんて、エステルにとってはこれまでに想像したことすらないものだった。
スレヴィはしゅんとしたまま続ける。
「僕は伝統とか規律に特に厳しい家の生まれなんですけど、そんな家なのに、僕みたいなのが生まれてしまったから、ずっと居場所がなくて……。ついに国の聖女様に国外追放を言い渡されてしまったんです」
「では、フリード国の聖女様は光属性の魔力をお持ちではないのね」
「はい、代わりにフリード国の聖女様は闇属性の魔力を持っていて、闇魔法を操ります」
「!」
驚くと、少年の話を聞いていたルシアンがさらりと教えてくれる。
「フリード国は並外れた身体能力を持つ獣人が多いせいで、魔力の色の希少性についても少し変わっているんだ。火、水、風、土の四属性は普通にあるが、氷のようにそこから派生した属性の魔法も使えることが多いから、一概に闇や光属性を持っているからといって優位になるわけでもないんだ。エステルのような闇属性の魔力を使って浄化を行う聖女が一般的でもおかしくない」
「国によって魔力の色や魔法の難易度に対する常識が違うことは知っていましたが、まさかこんなに違うなんてびっくりしました」
「フリード国ではオリオール王国に比べて希少な魔力持ちが数倍も高い割合で出現するらしい。光属性魔法が嫌われているということは、闇属性魔法を使う人間が聖女の地位につくしかないのだろうな」
「同じ闇属性魔法を使える私はカフェの食べ物や飲み物を使って緩やかな浄化を行いますが、フリード国ではどんなふうに浄化するのか興味があります」
「瘴気の浄化方法については国家機密扱いにしているところも多い。俺も気になるが、調べても難しいとは思う」
エステルとルシアンが真剣に話すのをじっと見ていたスレヴィは、あっと思いついたように声を上げた。
「わかりました! さっきからずっとエステルさんが誰かに似ていると思っていたんですけど、聖女様に似ているんだ」
「私が、あなたを国外追放にした聖女様に似ているの?」
「ううん。広場の聖女様に似ているんです。すごいなぁ。国が違うのに、こんなことがあるなんて」
「広場の聖女様……?」
オリオール王国にも、至る所に聖女の銅像がある。それは、特に能力が高く国に貢献した名高い聖女たちの誉の証だ。
(フリード国にも同じような銅像があるのね)
勝手に納得すると、スレヴィは教えてくれる。
「うちの国には、特に国を変えたという聖女がいたんです。その聖女様も闇属性魔法の使い手で、その聖女様の銅像が国の至る所にあります」
「ひとりの聖女様の功績がずっと語り継がれているのね」
そんなところまで違うことに感心していると、ルシアンが不思議そうに頭を捻っているのが見えた。
「? ルシアン様、どうしたのですか?」
「確かに、留学したときに像は見た気がするんだ。でも、びっくりするほど造形を覚えていなくて。あの頃俺は子どもだったけどエステルのことが好きだったんだから、銅像が大人になったエステルに似ていることになぜ気づけなかったのか。気がつけていたら、俺はきっと毎日会いに行ったはずだ」
「……」
どんな内容の会話でも挟まれる自分への愛が重すぎる。
銅像と婚約者が似ていることに気がつかなくてよかったかもしれない。他国の聖女像を崇拝する第二王子の姿はどう考えても異様な光景でしかないだろうから。
ほっとするエステルの前。フリード国での銅像に関する思い出を語りながら、自分の本音が漏れたことに気がついていないルシアンは急に表情と声色を変えた。
「――それで、フリード国の第五王子が我が国に不法入国か。どうしたものか」





