かわいいお客様
顔色を悪くして胸を押さえ苦しそうにする姿に、エステルは申し訳なかったし、クロードはゲラゲラと笑っている。
「あっははは。ルシアンがこれ以上話せなさそうだからオレが教えてやる。ルシアンから聞いてる話では、ルシアンはそこで半年間の留学をした後、使い魔であるオレを召喚して契約したんだにゃ。フリード国は特別な国民性のせいで魔法に長けた人間が多く、ルシアンはそこで飛躍的に魔法使いとしての力を伸ばしたんだってさ」
「なるほど……ルシアン様は元々何でもできるお方だとは思っていたけれど、その上でものすごく努力もされているのですね」
「婚約者がかわいかったからにゃ」
エステルを褒めたのは、ルシアンではなくクロードだ。婚約者の使い魔から、明らかに揶揄われている。ルシアンに視線を送れば、彼はしまったというようにおでこを押さえて目を伏せていた。
「否定はしない。あの頃、俺はもうエステルが好きだった。隣に並ぶのなら、完璧な男でいようと頑張った」
「……」
まさか、そんな努力も自分のためだったなんて。けれど、そう思えば引っかかるところがある。
(ルシアン様は求婚してくださったけれど、実際に結婚するのはいつでもいいと仰っているわ。本当にそうなのかしら……)
ルシアンがエステルを重く好きなことはもうわかりきっている。
好きだからこそ負担をかけたくない、結婚する心の準備ができるまでは好きに生きていてほしい、という優しさはありがたいが、本当にその言葉に甘えていていいのかと心配になることがあるのだ。
(ルシアン様は私のことで嘘がつけない呪いにかかっているから、本心に変わりないとは思うのだけれど)
エステルが困惑とうれしさと気まずさと恥ずかしさその他いろいろで目を泳がせていると、ルシアンが話題を戻してくれる。
「とにかく、あの国はめずらしい属性を持って生まれた者が魔法を学ぶのにぴったりの場所だ。国民の多くを身体能力が高い獣人が占めているのもあって、魔法に関しては人間と協力して特に研究が進んでいる国でもあるからな」
「そうだわ。フリード国は獣人の国なんですよね。国民の七割以上が獣人だと聞いたような」
「ああ。王族もみな獣人だ。……魔法に長け、身体能力が高い彼らが形成するフリード国は国力も高く、学ぶところが多い」
ルシアンが教えてくれたところで、カランカラン、と入口の扉が開く音がした。
(あら? この時間にお客さんなんて)
振り向いたエステルの視界に入ったのは、小さな白い狼だった。
銀色にも見える美しい白い毛並みに、金色の瞳。目をぱちくりとさせ、様子を伺うようにこちらを見ている。
何となく、体の大きさや雰囲気から子どもなのだとわかった。
かわいらしい見た目に。思わず声をかけてしまう。
「どうしたの? お腹でも空いた?」
狼といえば、普段なら警戒する。けれど、このカフェにはルシアンによって強力な結界が張られている。それなのに敷地に入ってきてカフェの扉を開けられたということは、小さな狼は危険ではないのだろう。
優しく話しかけたエステルに、白い子狼はクゥン、と鳴いた。
「か……っ、かわいい……!」
「エステルの方がかわいいけどな」
あまりのかわいさに目を輝かせて悶えると、案の定ルシアンの余計な本音が聞こえた。見ると、普通にクールな顔をしてかき氷を食べている。
この整った冷たそうな顔からさっきの甘い言葉が発せられたなんて、ちょっと信じられない。
(こんなにかわいい動物にまで張り合うのはやめてください……!)
そう言いたいけど言えない。
――こういうときは、下手につっこむよりも話題を変えるに限る。
今日何度目かの言葉を心の中で呟くと、呼びかける。
「ねえ、小さな狼さん、こちらにいらっしゃい?」
子狼の鼻がくんくんと動いたのが見えた。





