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【書籍化】顔だけ聖女なのに、死に戻ったら冷酷だった公爵様の本音が甘すぎます!  作者: 一分咲
一章

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エピローグ

 王都の外れ、白いレンガが目立つ、かわいいカフェ。


 開店を待つ朝の空気の中で、エステルはケークサレを焼いていた。オーブンに予熱の火を入れてから、シャルリエ伯爵家の厨房で教わった歌を口ずさむ。


 この歌にはルシアンのアドバイスで作った別バージョンもある。けれどより効果を上げたいときに歌うもので、発音が難しいためエステルはあまり好きではない。だから今日は通常版だ。


 今日のケークサレの具材はそら豆とアスパラ。中には刻んだハムも入っていて、しっかりとした味付けが常連客に人気のメニューだった。


「うまそうだにゃ。焼けたらくれるか」

「ええ、もちろんあげるわ。でも人間の姿で食べてね」


 クロードにいつも通りの注意事項を伝えながら、エステルは蒸らし終えた紅茶を3つのカップに注いだ。黄金色のお茶からはベルガモットの爽やかな香りが立ち上っていく。


 ひとつはクロードの分、ひとつはエステルの分、そしてもうひとつは。


「この前、古い文献で見つけたんだが……シャルリエ伯爵家には過去にも闇属性の魔力を持った人間が生まれたことがあったようだ。ただ、その人間の名前は伏せられていた。偉大な王都の広場前にある、偉大な聖女像の聖女と同じ時期に存在したらしい」


 ルシアンはそう言いながら、カップを受け取り口に運ぶ。「あ、おいしい」とすぐに伝えてくれる彼に、エステルは微笑んだ。


「だから、厨房の歌が闇属性呪文をベースにしたものなのですね。きっと、偉大な聖女様が歴史に名を残したのは、その人が作った料理による助けがあったから……」


 その『闇属性魔法の使い手』がどんな人生を歩んだのかはわからない。けれど、そのおかげでエステルは本当の力に気づくことができ、今はこうしてカフェを営めている。


 人間の姿で紅茶を啜っていたクロードが聞いてくる。


「そういや、闇聖女にも死に戻りの禁呪使えんのか? 呪文さえ知っていれば、理論的には」

「まぁそれはそうだな。だが、自殺するようなものだからな。……エステルには絶対に使わせないよ」


 穏やかながらもきっぱりとした口調のルシアンに、エステルはその重みを悟った。


(そっか……ルシアン殿下は一度自分で死んだのよね。私のために)


 エステルとルシアンは形式上の婚約者から恋人同士になった。けれど、二人の関係は変わらない。ルシアンが本音が甘くなりすぎるのを堪え、顔を紫に染めるところまで同じである。


 一応二人は結婚適齢期ではあるけれど、当分エステルはこのカフェの経営を楽しむことに決めている。ルシアンもそれで構わないと言ってくれた。


 ところで、義妹・アイヴィーは第二王子の婚約者誘拐未遂を罪に問われ、シャルリエ伯爵家を去った。罪を償ったあとは王都から遠く離れた地の生家が身元を引き受けるらしい。お金もないので、誰かを雇って悪さをする、などということは絶対に無理だろう。


(あのバイタリティに光属性の魔力だもの。アイヴィーはどこでも生きていけそうだわ……)


 ちなみに、シャルリエ伯爵家からは改めて戻ってきてほしいと便りがあった。けれどエステルはにべもなく断ったところである。いつかは許せる日が来るかもしれないけれど、当面は塩対応を貫きたい。


 回想を終えたエステルはルシアンに向き直った。


「いいですか。ルシアン殿下」

「ん?」

「どうか、もう死なないでくださいね。……今度は一緒に戻れると限らないもの」


 ルシアンは目を丸くした後、両手で顔を覆う。エステルの言葉があまりにも不意打ちかつツボに嵌まったらしい。


「もう一度言ってくれるか……」

「? 私を一人にして死なないでくださ、」

「いやそこまで言わなくていい。聞いたらきっと俺は死ぬ」

「……!?!?」


「死ぬなって言われた側から死ぬなよ」


 呆れ顔のクロードのツッコミが店内に響く。



 紅茶の香りと、ケークサレが焼ける甘く香ばしい匂い。


 さっきルシアンによって張り直されたばかりの「エステルに敵意を持つ人間と好意を持つ男を弾く闇魔法の結界」の側でカフェが開くのを待つ、ユーグたちの笑い声。




 エステルのカフェは、まもなく今日も開店する。


ここまでが書籍一巻に収録されています。

WEBだと7万字ほどですが、書籍化に際し3万字ぐらい加筆をして甘さ足しました!

八美☆わん先生のイラストがとにかく素敵なので、気になった方はぜひ書籍をお手に取ってみてください……!


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