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【書籍化】顔だけ聖女なのに、死に戻ったら冷酷だった公爵様の本音が甘すぎます!  作者: 一分咲
一章

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30.闇聖女の評判と悪だくみ

 ルシアンの言葉は「仮に、エステルが聖女でなくても婚約を申し入れていた」と宣言したも同然だった。


 その答えが予想外だったらしい両親は目を瞬き、口をぱくぱくとさせている。


「ど……どうして……私たちは、ずっと……」


 ルシアンが口を開きかけたのを見て、エステルはそれを手で静止した。ここからは自分の言葉で説明する必要があるだろう。


「お父様、お母様。私はシャルリエ伯爵家の子だったわ」

「そ、そうよ。エステル。私だって大切に育てたあなたがいなくてとても寂しいの。お願いだから戻ってきて」


 母親の言葉にちくりと胸が痛む。けれど、それだけの本音を返す。


「……私もアイヴィーと同じように大切にしてほしかったの」

「エステル、何を言っているの……?」


「お父様もお母様も、アイヴィーのことは絶対に叱らないわ。全てを肯定して褒めて、泣けば肩を抱いて慰めて、どんなことでも許される。――そうやって育ったアイヴィーが私を邪魔に思う可能性は考えなかった?」


 両親は、エステルがアイヴィーに殺される未来を知らない。けれど、エステルの凄味に圧倒されて息を呑んでいる。


「この前、私のカフェに来たアイヴィーは「このカフェを買い取ればお姉様はまた私の下になる」と言っていたわ。“また”ということは、私はシャルリエ伯爵家では姉妹ではなくアイヴィーに見下される存在だったの。それを許していたのはお父様とお母様だわ」


「エステル。いくら何でも、アイヴィーがそんなことを言うはずが、」


「確かに言ったわ。でもね、お母様。私は、こうやって()()()()()()に信じてほしかったの。今だけじゃない。アイヴィーが妹になってからのこの十数年間、ずっとそう思ってきた」


「「……っ!」」


 やっと自分たちの間違いに気が付いたらしい両親は放心状態になる。瞳からは光が消え、顔色がどんどん青ざめていく。


(やっと気が付いてくれた)


 慈悲深いと知られる両親は、養子を大変に愛し実子と変わりなく育てていると言われることに気を良くしている節すらあった。今さら、エステルはそれについて何かを言うつもりはない。


(ただ、そっとしておいてほしいだけ)


 複雑な思いで二人を見つめるエステルの肩を、ルシアンが優しく支える。


「私はエステルが聖女でも伯爵令嬢でもなくていい。それだけの我儘が通る力を持っている。……娘の説得に私の気持ちを利用しようなんて、お二人は随分と面白いお方だったようだ」


 その声色は、とんでもなく冷徹だった。


 ◇


 表情が抜け落ちたシャルリエ伯爵夫妻は夜会の会場から退場して行った。ルシアンにここまで冷たくあしらわれてはこの場にいられないのだろう。


 それを見送ったエステルの周囲には、人だかりができていた。遠巻きに『顔だけ聖女』と揶揄する視線をやり過ごしていた死に戻り前とは随分な違いである。


「エステル様! エステル様のカフェに私も行ってみたいですわ。友人たちの間でひそかに噂になっておりますのよ」

「私も流行に敏感な友人から聞いたことがありますわ。おいしいケーキと紅茶がいただけるだけじゃなく、元気になれるのだとか」


「私も知っていますわ! 美容にいいのですよね。私の友人で、エステル様のカフェのレモンタルトを食べて意中の殿方から縁談の申し入れがあった方がいましてよ」

「まぁ! 私も行ってみたいわ!」


(美容にいい、だけは聞いたことがないような……)


 こんな風にカフェの評判が広まりつつあるなんて知らなかった。目を瞬くエステルに、一人の令嬢が教えてくれる。


「エステル様。看板猫の黒猫ちゃんが訪れた人々に“闇聖女のカフェ”と宣伝しているみたいですわ。だからこんなに話が広まっているんだと。エステル様が元聖女だからそんなふうに呼ばれているのかもしれませんが、何だか闇聖女なんてかっこいいですわね……!」


「……か、かっこいい!?」

「……アイツ。後で殺す」


 エステルと令嬢たちの会話を見守っていたルシアンが呟く。あいにく、ぶりっこで噂を広めたのであろう黒猫姿のクロードは会場の外で待機している。真偽の程を確かめたいが、そうはいかなかった。


(いつの間にかカフェのことがこんなに広まっているなんて)


 死に戻り前、こんな風にエステルがいい意味で令嬢たちの間で噂になることはなかった。クロードのせいで広まった不穏な響きは気になるものの、シャルリエ伯爵家を出て新しい人生を踏み出してよかった、とあらためて思う。


「――エステル嬢が淹れる紅茶はそんなに評判なのか。ぜひ飲んでみたいな」


 その時、ルシアンによく似た通る声がした。けれど、ルシアンのものよりも少しだけ低い。エステルも一度だけ話したことがあるその声の主は、周囲を囲んでいた令嬢たちが息を呑んでいることにも動じない。


「……兄上。この後、ご挨拶に伺おうかと」

「エステル嬢を連れてきてくれるのを待っていたんだが。なかなか来ないから、こっちから来てしまった」

「それは申し訳ございません」


 ルシアンにフランクに接する、今日のパーティーの主役・王太子。兄弟というだけあり二人の佇まいはよく似ている。二人とも神々しいルックスをしていて、つい見惚れてしまいそうだ。


 エステルは家名を名乗らずに挨拶をする。


「エステルと申します。本日はお招きいただきありがとうございます」

「一度会ってみたかったんだ。ルシアンがここまでのぼせあがるご令嬢はどんな子だろうって。お茶会に同席させてくれと頼んでも邪魔をするなとうるさいし、聖女としてもなかなか会う機会がなかっただろう?」


 王太子がエステルとルシアンの義務的なお茶会に来たがっていたことは初耳である。


「ええその通りです兄上がいてはエステルを独り占めできませんから」

「ひ、ひとりじめ」

「……わざとだから、これは」


 エステルは思わず復唱してしまったが、ルシアンは苦笑している。二人の会話が聞こえたらしい周囲の令嬢たちからはキャッと悲鳴が上がる。


(それはそうよね。私もルシアン殿下がこんなお方だなんて思わなかったもの)


 王太子も同じことを思ったようである。意外そうに目を見開きつつ告げてくる。


「ルシアンはいつの間にそんな素直になったんだ? それは追々聞くとして、私にも評判のエステル嬢の紅茶を飲ませてくれるかい」

「……! もちろんですわ! 茶器をお借りできるのなら、今すぐに」


 快く応じたエステルは、大広間を一旦退出し別室でお茶を淹れることになった。




 ◇


 ――会場の隅に、ルシアンのエスコートで退出していくエステルを眺めるひとつの影。


 それは、初めて参加した夜会で許されてもいないのに主役の王太子へ挨拶をしに行きそうになり、窘められた後もはしゃぎ回ってエスコート役の兄から愛想を尽かされたアイヴィーだった。


 さっきから一人で会場をフラフラと彷徨っていたアイヴィーは、あちこちでエステル絡みのさまざまな噂を聞いていた。


(エステルお姉様のカフェってそんなに有名なのね。しかも、『闇聖女』って何!? 私が使える光魔法に、誰かを元気にしたり綺麗にするものはないわ。あの魔力なしのお姉様がそんな風に言われるなんて、何かの間違いじゃないのかしら……!)


「でもいいわ。もうすぐお姉様は王子様の婚約者どころか腫れ物扱いになるんだもの」


 アイヴィーには、義姉が自分より優れているとはどうしても理解できなかった。長年舐めていたのだから、仕方がないことなのかもしれない。しかし。


 ――時間をかけて培われたエステルに対する優越感が、自分の身の破滅を招くことになるのをアイヴィーはまだ知らない。


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