第97話 邪神ソリューズの分体
「見〜つけた!」
そう言ってあざ笑うカミラの顔を見て余は戦慄を覚えた。背中に冷や汗が伝う…。
まさか、まさか余が恐怖しているというのか…邪神ソリューズとして世界を恐怖に陥れた余が、逆に恐怖を感じさせられるだと…。
「…何を見つけたというのぢゃ?」
恐怖を悟られない様にすました顔でカミラに聞いた。
「お前の分体たちだよ。」
ビクッ
余は何とか動揺を悟られまいとしようとしたが…すました顔のままではいられなかった。目を大きく見開き驚いた顔が出てしまった。
「くくく、びっくりしたようだな。なぜ我が反撃をせずに、ずっとお前の攻撃を受け続けていたか? の質問に対しての答えがこれだったわけだ。」
くっ余としたことが…それに気づかず踊らされていっというのか、屈辱ぢゃ。ぐぐぐぐ、思わず食いしばった唇が切れて血がでてしまっていた。
「ほう興味深い、やっぱり本体だから黒い血が流れるのか? 分体でも黒い血は流れるのかぜひとも試してやりたいところだ…ほれ!」
ぐぎっ
「ぐうっ」
余の右腕が逆の方向に折られている。…見えなかった。100%の余でも見えないとは…こいつ何者なのだ。
「やはりその身は生身の肉体だ、痛みはあるようだな。」
…カミラは嬉しそうだ。今まで散々余がいたぶってきたのだ、その仕返しをされても文句は言えんか。まあ、痛覚は切ることができるので大した問題ではないのだが…問題は分体がどこまでバレているかだな…探りをいれなければ。
「で、貴様は余の分体を見つけたと戯言をほざいていたが?」
「戯言ねえ…だいたいお前はどこに魂を貯蔵しておったのだ? 本体そのもの? それとも紛い物の入れ物にか? もし万が一、完全体になる前に見つかったら今まで集めた魂がパァだ。小賢しい邪神がそのような危険を冒すような事をするわけがないであろう。」
ぐぎぎぎぎ、小賢しいぢゃと…こ奴。いや、余を怒らす罠かもしれん。ここは我慢ぢゃ。
「だから分散して貯めておいたのであろう? それと、もし本体が倒されてしまったとしても他の依り代を作っておけば、どの依り代からも復活できる。魂の入れ物はそのような使い道もあったはずだ。スペアのスペアといった感じかな。」
「…ほう、その話が本当ならよく見つけたな。スペア3体を。」
「あはははははははははははははーーー。」
カミラは余の言葉を聞いて大笑いしておる。何がそんなにおかしいのだ。
「何をそんなにバカ笑いしておる。」
「はー、はー。笑わすな何がスペア3体だ、お前のスペアは本当は14体もあるくせにな。だから小賢しい邪神と言うのだ。ごまかせると思ったか!」
ぐぐぐ、やはりハッタリではなかったか…。しょうがないここは速やかに逃げる…
「ほい、っと今やっと終わったぞ。感じたか?」
「ぐぎゃあああああああ、余の…余の分体達がああああああ」
…今はっきりと感じた。余のスペア14体、全て焼き尽くされてしまったのを。今まで感じられていた繋がりを全て断たれてしまった…感覚が余に流れ込んでくる。
しかも奴はただの炎で焼いたわけでははない。普通の火魔法であれば分体とはいえ、余の防壁を破れる程の威力があるとは思えないからだ。
…信じられんのだが、邪神に有効だとされる浄化の炎で焼かれたのだ。
そんな聖女でしか使えない様な高位魔法を…どう見ても聖女には見えないこんなアバズレ女が使えるだと?
「だれがアバズレだ!」
「余の心を読むな!」
余の頭の中を見るなどという魔法は存在しておらんハズだ。思わず突っ込んでしまった。
「さて、冗談はこのぐらいにして後はお前を始末すればこの世に“邪神ソリューズ”は存在しなくなる…永遠にだ。」
「ぐ、ぐぐぐ。し、仕方がない。余は貴様の軍門にくだる。ペットになってやる! それでどうぢゃ! 今はこんな男の姿ぢゃが、今まで通り幼女の姿でぢゃ! どうだ、嬉しいぢゃろ!」
「いや、断る。幼女とか幼女じゃないとかの問題じゃなくて、お前は殺す。」
「なぜぢゃ? 余が仲間になればこれほど頼りになるものはないぢゃろう? 貴様にも利があるの話ぢゃろ?」
「逆に今更、我の仲間になれると思う方が図々しくないか?」
「そもそも、余は最初に貴様に仲間になろうと誘ったのぢゃが、有無を言わさず殺すと言われたのぢゃぞ! そっちが理不尽だと思わぬか?」
「ふむ、確かに95話で言っているな。我のほうから…。」
「ぢゃろ? だから今、余が貴様の軍門に下っても何も問題はないのぢゃ。」
「理屈はそうなるが…だが貴様は今から殺す!」
「なぜぢゃ! なぜそんなに頑ななのぢゃ!」
「頑なとかそういう問題ではない。先ほどお前は仲間になろうと言ったが、人間をほいほいと殺すような奴と仲間になりたいと思うか?」
「そんなもの貴様らだって人間どうしで殺しあっておるではないか? それと何が違うのだ! 余が邪神だからか? 種族が違うから仲間になれないというのか?」
「仲間というのは安心しあえる間柄の事だろう。そんな毎日自分の身が狙われそうな、いつ裏切るか分からぬような者と一緒に居て安心など出来るわけがないであろう? ペットにしてもそうだ、人間に従順な内は仲間だと認めてもらえるが、一度でも人間に危害を加えたら…すぐに処分される。つまりはそういうことだ。お前は仲間になどは慣れぬよ。最もお前は最初から仲間などを欲してはいないだろうがな。自分の言うことだけを聞く従順な僕だけだ。」
くっ、やはりバレておったか。まあいい、会話している間に時間を稼いで準備は整った。後はここから逃げるだけだ…
「カカカ、そうかそれならば貴様と戦うしかあるまい、余の最大出力で…なっ!」
グゴゴゴゴゴゴ
余のありったけの魔力を地面に流し、地割れを起こした。その揺れでバランスを崩したカミラに向けて第六界火魔法のデスペインダークをぶっ放した。
もちろんこの魔法でカミラを倒せるとは微塵も思ってはいない。この粉塵が舞っている間に逃げるためだ。いくらカミラでも正確に余の場所は…
ザク
ザクザク
ザクザクザクザクザクザク
「ぐぎゃあああああああああ」
逃げようと全力で走り出した余のカラダに、雷を付与した魔法の槍が突き刺さった。それも連続で何本も。
痛覚は切っているハズなのに痛みを感じる? これは一体…
「我から逃げられるとでも思ったか。とりあえずここで死んでおけ!」
カミラは今までの何倍もある雷の槍をぶっ刺し、余は跡形もなく蒸発して消えた。




