第88話 魔王様という存在〜ルーミー〜
私の名はルーミー。敬愛する魔王9将軍の魔将1位フィア・ダブリュス様の治める国ダブリュス国所属の第3部隊の副隊長だ。
最近の仕事はダブリュス国だけでなく、その他の8国すべての国を回って魔王様直々の催し物である魔王《M》-1グランプリに不正が行われていないかを精査し自らの判断で処刑を行っている。
魔王《M》-1グランプリ関連の仕事は忙しく、当初の3人1グループの5班では回しきれないので、今では第3部隊に所属しているすべての隊員がこの案件にかかりきりになっている程だ。
各国には魔王様から不正には厳しく対処するというお達しがあったにもかかわらず、国の末端にまでは行き届いていないようだ…嘆かわしい。
どこの国でも上位貴族ほど魔王様の意向には無条件に従う傾向があって、反対に下級貴族になるほど不正率が高い。つまり魔王様のことを侮る無知な愚か者共がまだこの国に存在しているという事だ。
身の程知らず共が…。
魔王様を見ればわかるだろう。例え自分の尊厳を踏みにじられようが、蹂躙されようが絶対に逆らってはいけない存在なのだという事が…まあそれが分かる脳みそが無いのだから魔王様を侮る事が出来るのであろうがな。
私のような瑣末な存在が初めて魔王様にお会いしたのは今から半年ぐらい前だろうか。
いつものように私たち第3部隊が訓練場で汗を流していると、国王であるフィア様と親しげに話されている女性が見学に訪れた。その時はその女性が魔王様だとは分からなかった。
国の象徴である魔王様を知らないとは…と思うかもしれないが、ここ10年ぐらいあまり姿を見せなくなっていたし、絵姿なども売られてはいたが、どれも似ても似つかない色々な絵柄が売られていたので気付かなかったのだ。
しかしその女性は背が高く、ダボっとしたマントを羽織ってはいたが抜群のプロポーションが隠しきれない立ち姿だった。特に目を引いたのがブラウン寄りの赤髪のセミロングだ。女の私から見てもツヤツヤでどうやったらそのツヤが出せるのかを聞いてみたいぐらいに綺麗だった。
「こんな訓練などは別に見なくても良いだろう。そんな事より今日の夕食は何だ? わざわざ我が来てやったのだから、もちろんフィアお抱えのシェフのとっておきなのだろうな。」
「はーぁ、まだ視察も終わっていないうちから夕飯の催促ですか。まあ、ちゃんとご要望に応えて準備はしていますけど…。」
二人の会話が聞こえてきたが…国王であるフィア様にあんな口を利けるとは…よほど気の置けない仲なのが誰にでも推察されたのだが、いくら親しいとはいえ私達の敬愛する国王フィア様にあのような口の利き方はないだろう、許せない!
そう思い私は馴れ馴れしく接するその女性をキっと睨みつけた。
すると私の敵意の視線に気づいたのか、その女が私を見た。
その瞳は宝石のアメシスト(和名は紫水晶)のような濃い紫で、離れた位置からでも吸い込まれそうな眼差しだった。
私を一目見て興味を失ったのか、またフィア様となにげない会話を始めた。
「ん、どうした? ルーミー、体の調子が悪いのか?」
近くにいた同僚が打ち合い稽古を止めて、私を気遣ってくれた。
私は真っ青な顔をして、汗をかくほどの稽古をしていたので体が火照っていたはずなのに寒くて震えるほどにカタカタと歯を打ち鳴らして座り込んでいた。
正直この時の記憶はないのだが…得体の知れない漠然とした恐怖に包まれていた感じといえば伝わるだろうか?
あの女の瞳を見た瞬間に私は本能的な恐怖を感じてしまったのであろう。しかも今まで味わった事のない圧倒的な恐怖心を。
別に我を睨み返すでもなく、一瞥しただけなのに…。
その後、フィア様から彼女がアルメロ国第23代魔王のカミラ・カルロッツェと聞かされて腑に落ちたというか、恐怖心を抱いてしまってもしょうがないと自分自身で慰めた。
魔王様とは私たちの世代ではすでに絵物語の世界の伝説の人物なのだ。1万の軍勢を一瞬にして塵芥へと変えてしまっただの。世界で唯一、第十界魔法の境地に達しているだの。
幼き頃から聞かされていた絵物語上の伝説の人物だと思っていたのだ。その方が今私たちの目の前に…
第3部隊全員に驚きと感動を持って迎えられた。まあ本人はそんな私たちの反応にも全然興味なさそうでしたが…。
絵物語のような逸話は大げさに後世に伝えられる物だと思っていたが、むしろあれでも大分抑えられた作り話だとわかる。実際の魔王様は私の想像の遥か上の存在だった。
私たちのような一般人が一生を通じても手の届くような存在ではなかった。それが例え私たちの敬愛するフィア様であってもだ。友達のような関係に見えてもやはりフィア様も魔王様に一目置いておられるのがわかる。
フィア様にとってもかけがえのない存在でもあり、憧れの対象であるのだろう。
私たち第3部隊はもちろんフィア様の国、ダブリュス国に忠誠を誓ってはいるが、私のような者でも魔王様の為に微力ながらも何か手伝えることがあれば、この身に変えても成し遂げたいとこの時に誓ったのであった。
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「こんな大会を開いて何になるというのだ。民を調子に乗らせるだけではないか! 下々の者達など今まで通り黙って施政者である私たちに搾取されるだけの存在でいいのだ! わかるか?」
「いえ、全然分かりません。」
「ふん、やはり騎士などという脳みそが筋肉で出来ているようだ。貴様のような女には尚更分からんだろうな、この高尚な俺の考えは…。」
「いや、貴様が愚かな男だというのはわかったぞ私にだって。」
「貴様だと! たかが騎士のくせして俺にタメ口、意見するというのか! 下郎の分際で上の者に口を聞く事すら罪だというのに…。」
「いえ、今の私はダブリュス国所属の第3部隊副隊長という立場ではございません。」
「は? ならば何なのだ! 貴様はこの高位貴族である俺に意見できるほどの立場なのか?」
「高位貴族って…たかが男爵程度のくらいで威張るほどではないだろう。フィア様直属の騎士というだけでも貴様よりも高位なんだが…それすらも知らないのだから愚かだというのだ。」
「な、何…くそ生意気な女め! 魔王直々だというが、関係ない! たった一人でここに乗り込んできた貴様の不運を恨め! 皆全員でこの女を切り刻め。」
男爵直属の兵達がわらわらと私を囲む。全部で20〜30人ぐらいか。まあ、そんなに強そうには見えんが、一応忠告だけはしておいてやるか。私だって別に好きで殺したいわけではないしな。
「お前達が死ぬ前に一言だけ言っておくが、この男爵は魔王様の意に背いた行いによりたった今私の裁量で死刑が決まった。そんな愚か者と行動を共にするというのならかかってこい。お前達も私の権限により反逆罪で死刑だ。」
私の言葉にビビって皆動きが止まった。このまま剣を引くのなら男爵に強制されていたとみなしてお咎めなしにしてもよいが…。
「おいおい、こんな女にビビってるんじゃねーぞ。よく見たら結構かわいい顔をしているじゃないか。倒した後は俺たちの自由にしていいんだっただよな…ぐへへへへ…へ?」
ゲスな発言をした隊長らしき男は上顎と下顎が綺麗に切り落とされて絶命した。
それと同時に切りかかってきた2〜3人の男達もなんなく一突きで息絶えた。それ以外の我を取り囲んでいた男達は剣を地面に落とし降伏の意を示した。
「な、何で貴様達かからんのだ! この俺の命令を無視するというのか…貴様もかく…がっぎゃ、ぎゃあああ。」
「よくしゃべる口だ。だがこれから静かになるだろう。」
細剣を男爵の口に突き刺しそのまま力を込めて貫通した。もがき苦しむ男に改めて心臓を一突きし止めをさした。
これで私の役目はこの領地では終わった。後片付けは他の部署の者達に任せておこう。
魔王様にあの時誓った思いを胸に、今日も魔王様の大会の趣旨を理解すらしようとしないクズどもを始末しに全国を練り歩く。
今の私は魔王様のお役に立てて非常に満足だ。それと同時にこの私の行動によって少しでも国の膿を出せたなら幸いだ。




