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第60話 ユウタ絡まれる

「あ〜眠い。むっちゃ眠い。なんで眠い。う〜眠い。」

 昨日変な明晰夢めいせきむを見たもんだから寝不足だ。いろいろ考えてたら眠れなくなっちゃったよ。


「うるせーぞユウタ。何ださっきから眠い眠いってお前はラビッド伊藤か!」

 久々の登場、田中コウジがわずらわしそうに突っ込んだ。


「いやコウジ、多分お前は眠いのスリープと羊のシープをかけたダジャレ言いたかったと思うんだけど、動物間違えてウサギになってるぞ。ウサギは全く関係ないからな。ましてやラビッド伊藤なんてもっての他だ。まあしかし動物という点でだけは当たっているからその点だけは評価しよう…点だけはな。」

 田中コウジは本気で間違えていたようで顔まっかかだ。


「わ、わざとだわざと。よくわかったな、俺の高度なボケを。」

 と言い訳をしていたが顔まっかかだ。


 僕は優しくアンニュイな笑顔でコウジを慰めた。


 怒られた。慰めたのに怒られた…解せぬ!


 今日は久しぶりに学校に来たような感覚だ。最近はダンジョンとかいろいろ他の事で立て込んでて高校2年生だっていう事を忘れてしまいそうだ。そういえばこの学校全然イベントが無いな…。


 修学旅行とか体育大会だとか文化祭、期末試験とか夏休みとかいろいろあるのにな。


 友達の少ない僕にはその方がありがたいのだが。まあ、イベントがあってもそんなに目立つ方ではないので、あえて取り上げられるトピックスなども無いだろうしな…言わせんな。


 しかし最近変わったことがある。田中コウジの僕に対する当たりが強いのだ。原因は僕が告白されたことにあるようなのだが…。


 あいつは常日ごろから2次元アニメの3次元フィギュアをこよなく愛す男だとのたまっているクセに、オタク同志だと思っていた(僕は別に2次元アニメの3次元フィギュアオタクでは無い。つまり同志ではない)僕が生身の3次元女子に告白されたのが気にくわないらしい。


 僕が声をかけられたのなら自分だって告白されないわけが無いという謎の自信と対抗心を僕にぶつけてくるのだ。いや、正直僕にぶつけられても…という感想しかないのだが。


 告白されたのも受け身なら振られたのも受け身な僕だったのだから、そこに僕が介入する要素は何も無かったのだと説得しても納得してくれない誰得な状況に陥っているのであった。


 やはりオタクというのは自分はオタクだから3次元の生身の女性は無理だろうと、最初から自分自身でフィルターをかけてしまっているのが問題だと思うんだ。可能性を自ら塞いでいくスタイルを変えない限り。


 あと自分から積極的にぐいぐいいかないと。結局行動しないと何も始まらないっていう言葉はよく聞くけど真理だと思うな僕は。それは恋愛だけに限らず何にだって言える万能な真理だと思う。


 女子だって積極的な子は少ないと思うぞ。積極的な子は一部の子だけで…(脳内統計局僕調べ)。


 僕に告白してくれた娘だって本当はものすごく勇気を振り絞て、やっとの思いで告白してくれたと思いたい。そして苦渋の選択で泣く泣く告白を撤回してくれたんだと思い込みたいよ、僕だって。


 と説得し続けているのだが…コウジは会話の語尾に“ゲス野郎”略して“ゲス”をつけてくる始末なのだ。それはそれで面白いので放置していますけどね。当人は僕を攻撃していると思っているのだけれども…


「いや、お前のその意見は違うだろ…違うでゲスだろう。そこはありがとうございますだ…ありがとうございますでゲスだろ。」

 いちいち言い直すのがうっとおしいけど、面白いので放置していますけどね。


 そんなコウジと久しぶりに学校帰りに町に遊びに行った。案の定フィギュア巡りだ…と思ったらそれだけじゃ無かった。今回は健全なグラビアアイドル的な本も求めていたようだ。


「ひ、ひとりじゃ恥ずかしいでゲス。だから一緒についてきてくれると助かるでゲス。げへへ」

 これほどゲスの似合う男もいないだろうという卑屈っぷりだなコウジよ。まあ、そう言って僕もしょうがないから付き合ってやるよというていでグラビアアイドルの肢体を堪能してるから文句はないぞ、同志だなやっぱり。


 そう言ってコウジが違う本屋の近道だという表通りから一本中に入った細い道を歩いていたら、何か若い男女達がもめている声が聞こえてきた。

「え〜〜な、なんか良くなさげな雰囲気だから来た道を戻ろうか?」

 とコウジが弱気発言をしてきたので、僕も面倒くさいことに関わりたくない主義なので、それに従おうと後ろを向いたら…


 もめてた女の子達3人が慌ててこちらに走ってきたので、避けようとしたのだが狭い道をがむしゃらに走ってきていたので、避けきれずに僕と1人の女の子がぶつかって転んでしまった。その間に残りの2人は転んだ娘を置いて走り去ってしまった。


「おい、お前らは2人を追え! おいおい、急に走り出してどうしたんだよ。逃げ切れると思ってるのか? おお! ほら立てよ。」

 そう言ってなんかボス級のやんちゃそうな奴が他の2人を逃げた女達のほうに追わせて、自分は転んだ女の子に荒い口調で立たせようと手を出した。

 

 僕はやんちゃそうな男の差し出した手を掴んだ。

「あっ? なんだお前は?」


 やんちゃそうな男はやっと僕を視界にいれたようで、僕の顔を斜め45度の傾きでガンつけてきた。…ものすんごい憎たらしい顔だな。


 そんな状況でもふと、静かなコウジが気になって横を見てみたら…コウジは電信柱と一体化して空気と化していた。


 …ゲスや。あんたほんまもんのゲスどすえ。


 コウジを確認するために顔を逸らした僕をビビったと勘違いしたやんちゃそうな男は急に声を荒げた。

「お前なめとんのか! ビビってんじゃねえぞコラっ! 殺すぞ!」


 出ました。語彙力の無い奴の最大級の脅し文句「殺すぞ」。殺すの上はないのかな。僕はやんちゃそうな男に面と向かって言いました。

「殺すという言葉を吐いたからには、自分が殺されるという覚悟もあっていってるんで…がふっ」


 いきなり顔面を殴られました。痛った〜くない。

「しゃべってる途中でしょう…がふっげふっ。」

「うるせっええええ黙れよカスが!」


 やんちゃそうな男はキレて僕をめった打ちです。もうこれはやんちゃそうな男ではなくやんちゃな男だな。

「ぜーぜー、てめーはどっかいけよ。ほらカスミ、お前は逃げられねーんだよ。早く立て…」


 僕を5回殴っただけで息切れしているやんちゃな男はカスミと呼んだ女の子を再び掴もうとした手を僕は掴んだ。今度は少しだけ力を込めて。

「あぎゃぎゃぎゃぎゃいたいいい。は、放せよ!」


 やんちゃな男は声を上げた。少しだけしか力を込めてないのに…物理耐性が弱すぎでしょ。


「殺すという言葉を吐いたからには、自分が殺されるという覚悟もあって言ってるのか?」

 僕はさっきと同じ台詞を今度は全部言い切った。僕の中で一生に一度でいいから言ってみたいアニメや漫画の台詞のNo.3だ。


「な、何を言っているんだ…お前は? 殺される覚悟?」

「僕には覚悟があるよ。」


「だ、だから何を…誰なんだよお前は?」

 男は僕みたいな平凡なモブキャラに脅されたのが不満なのか、本当は恐怖を感じているようなのに精いっぱい強がっているみたいに見える。やんちゃなのに。


「殺すぞ。」

 僕はやんちゃな男に低い声でそう宣言した。


 男は驚きで目を見開き、ごくりと唾を飲み込んだ音が聞こえた。


 そしてちょっと奥の方からもごくりと唾を飲み込んだ音が聞こえた。…コウジだ。彼は一体化していた電信柱と分離に成功したみたいだった。

 

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