第59話 明晰夢(めいせきむ)
…………………………あれ?
真っ暗だ。どうなってるのこれ? 確か今日は…寝てたよな僕。
まだ夢の中だなこれは、じゃあ寝直そうっと。
…………………………
…………………………眠れない。
あっこれあれだ、夢の中で夢だと気づくやつじゃない? 確か名前あったよな。んんんんんん白昼夢じゃなくて、あっ調度白昼夢の逆だなんんんん確か…あっ明晰夢だ! そうだ明晰夢だった。
なんか懐かしいな。昔からよく夢を見てる時にあれ? これ夢じゃないか? って気づく事があったもんな、久しぶりだな気づくの。
明晰夢も2通りあって、夢だって気づいて自由に夢を操れるパターンと、夢だって気づくだけでお芝居のように役割とか物語が意にそぐわずに進むっていうパターンがあったと思う。
この夢は…後者かな。夢だって気づいているけど別に思い通りにならないし、自分の意志で進行させられない、動き出すまで待つのみだ。
関係無いけど僕が夢を見るときはだいたい横長だな。映画館のスクリーンのように映写機で映し出されるイメージ。人によって違うのかな? あんまり人に聞いた事ないからな。
なんて考えてたら映写機のようなカラカラカラとフィルムが回りだす音が聞こえて映像が流れ出した。
その映像とは…
「ん、結婚式か…誰の結婚式なんだろう。あっ新郎新婦が出てきた。…新婦めっちゃ美人だなぁ〜ボンキュボンのナイスバディって、カミラさんじゃん! よく見たらめっちゃ現代日本人風に磨かれまくりのカミラさんだった。
ほへー別人みたいで気付かなかったわ。やっぱり美人だな…素材がいいから磨けば光っりまくりだな。って新郎よく見たら僕じゃね? だいぶ大人になってる。一体何年後の僕だこれ?」
その流れてきた結婚式の映像はなんと僕とカミラさんの大人になった将来の結婚式だった。自分の結婚式を見ているのに全然実感がないのか(夢だから当たり前なんだけど)他人事のようにその流れている映像を見流していた。短い間だと思うが日本の式場で行われている披露宴の様子を見ている。
「おっ、誓いのキスしちゃいます? お互い見つめ合ってふふふって照れちゃってますけど…これはやってるな。すでにやってるだろこいつら! とうとうしちゃってますか、僕とカミラさんも。まあ、婚約してるから別におかしくはないけどね、ぐへへへ。」
なんてゲスな事を想像していたら、キス寸前に映像が切り替わった。
今度は…んーどこ? 見たことない風景だな。あれ、これもまた結婚式だな、なんか牧歌的なみんなが外で食事をしてお祝いしてるかんじだな。お祝いされている中心の男女は…
「これは…カミラさんとレインさんの結婚式かな。すごい美男美女でお揃いだ。僕の時の結婚式と違ってカミラさんの美人が浮いていない。二人が揃っている事がものすんごくしっくりしている感じだ。本当にお似合いの二人だな。
あれ? 勇者と魔王の結婚式なんてこんな地味じゃないだろう、もっと両国を挙げての盛大な結婚式になるだろうから。これは身内だけのささやかなお祝いって感じかな。」
周りの招待客達もザ・田舎の人って感じで貴族らしい人はいないようにみえる。だけどなんか見てるこっちまで温かくなるような牧歌的な、ほっこりした雰囲気が醸し出されているな。いいなこういう身内だけの結婚式も…おおおお。
また場面転換が。ぐるぐる回って変わったので釣られて声が出ちゃったよ。
今度はまた現代日本の結婚式。今度はすぐにわかった僕だ。大人になった僕が結婚式の披露宴に出てる。相手の女性は…見たこと無いな。僕が高校、大学を卒業して出会う女性なのかもしれないな。カミラさんと比べたら失礼だけどめちゃめちゃ美人ていうわけでもなく、でも僕好みの優しそうな顔をしているちょっとふっっくらとした女性だった。こんなまだ見ぬ女性との結婚式だが僕はじっくりと見入ってしまっていた。
先ほどのカミラさんとの結婚式と同様に披露宴が進んでいき、最後の両親ご挨拶の前に場面転換してしまった。
で、今度はど田舎の小高い山の上にある家で老夫婦がゆっくりしている映像だ。
これは絶対異世界だな。なんか地球の日本や外国の風景とは違和感がある。例えば生えている植物が見たことないのだったり、遠くの方にワイバーンのようなのが飛んでるみたいなね。
そういう雰囲気がある映像だ。ロッキングチェアーみたいのに腰掛けてパイプを燻らせていた男性はたぶん僕だな。
なんで歳をとってるのに自分だって気付けたかは、一緒にいるおばあさんがユウタって呼んでたから。ああ僕は老後に異世界で余生を過ごしているんだなって。それもいいかもしれないなって思ってしまったよ。そんなのんびりした景色を堪能した後、また映像が切り替わった。
「うわっうわわわ」
急に眼の前の映像が先ほどの回転より激しくぎゅるぎゅると音を立てて回転しだしたので目が回ってつい、驚いて声が出てしまった。
そしてまた映像が切り替わっていく。
6畳ぐらいの部屋にあるベッドが映し出される。部屋自体は真っ白で無味乾燥な生活感のない部屋だ。っていうか病院ぽいな。
今度はどこだ? まさか僕とカミラさんの新居からじゃ無いだろうな。やめてよ! 夜の営みの場面はカットしてよ!
そのベッドには誰か寝かされているが、点滴を打ち口には呼吸器を当てられている。重症なんだろうか? テレビドラマでよくみる重症患者がつけている脈? 心臓の鼓動回数を測る機械ピッ、ピッ、ピーーーーーーって死ぬ時になるやつもついている。いったい誰だろう? カメラが次第にベッドに近寄りその顔をアップで撮る。
ん? 痩せてるな…どこかで……
僕? 嘘だ…僕か?
痩せこけて髪はボサボサ…しかも若い? いつ頃の僕だ? 小6か中1ぐらいか? そんな小さい僕がどうして人工呼吸器に繋がれて病院で寝てるんだ?
何で今までは幸せそうな映像ばかりだったのに、この映像だけ僕の…
ブツ
急に映像が途切れて僕はまた暗闇と静寂に包まれた。
静かだ。
真っ暗だ。
ザザザザザザーーー
…しばらくすると目の前には深夜のテレビのように砂嵐が流れている。
ザザザザザザーーー
ザザザザザザーーー
ザザザザザザーーー
ザザザザザザーーー
ザザザザザザーーー
ザザザザザザーーー
“真実は一つ”
ザザザザザザーーー
ザザザザザザーーー
ザザザザザザーーー
目の前の映る砂嵐の中、何の音も発せずに浮かび上がる文字。
僕はものすごく困惑した。そんな土曜の夕方6時からの名探偵みたいな台詞を書き残されても…
この明晰夢もやっぱり“クロちゃん”の仕業だったのか。
そう思ったと同時に、僕の意識は砂嵐の音と共に闇夜に消えていった。




