第4話 それぞれの日常①
結局あの後、埒が明かないので二人には帰ってもらった。というか強制排除した。どうやらこの部屋の権限は僕にあるみたいで強く帰ってくれと願ったら扉に吸い込まれるように出て行ったよ。今度ゆっくり、どういう仕組みか検証しなくては。
一応明日また同じ時間にご飯を作って待ってるとは言っておいたから、また今日来るんだろうなぁ…まあ来ても来なくても…来なくてもいいけどね。
はああああああああああ…憂鬱だ。
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昨日僕の部屋が異世界に繋がったという歴史的な快挙があったからといって今日学校が祝日で休みになるというはずもなく、あの後なんとか通常の家事を終えて寝床に入ったものの興奮状態でなかなか寝付けなかった。
結局眠りについたのは朝方だったので危うく遅刻しそうになったが、なんとかホームルームにはギリギリ間に合ったがやっぱり眠い。
そんな僕に気付いたフィギュアオタクの友達、田中コウジが声をかけてくれた。
「ユウタどした? 眠そうな顔して。そんなお前には僕の新コレクション、レッツ信仰新興宗教アイドル森レイカちゃんの100個限定のフィギュアを見せてやろう。どや〜! 特に下からの角度がオススメでゅあ!」
などと僕の心配を他所に自慢してくる彼は本当の友達ではない…。まあ僕もフィギュア好きだけれども彼のように美少女フィギュアを堂々と自慢できるほどの鋼の心臓は持ち合わせていないのだ。
「おっす! どうした? ユウタ何か眠そうだな。」
誰にでも好かれる陽キャの友達、橘タケシ。こいつはイケメンだが良い奴だ。
「ああ、眠い…朝方にやっと寝付けたもんで…今も夢の中だ。」
「まだ、1限目も始まってないのに寝るなよ! 何だ、悩み事があるなら相談しろよ。」
さすがイケメンだ。コウジと違って自分の欲求を押し付けずに、他人を労われる優しい心の持ち主だ。
しかし、実は昨日の夕飯時にいきなり自称勇者のイケメンと自称魔王の超絶美女が現れて、今日の夕食をご所望なんだけど献立どうしよう? 何にしたらよい? なんて厨二病のような発言なんてできない繊細な17歳。ここは無難に…
「いや、大丈夫だ。深夜アニメの展開にちょっとやきもきして眠れなくなっただけだ。」
「ああ、昨日やってた“それいけ!スミレちゃん”のパンチラ疑惑だろ? ネットが騒然としてたもんな。あれは今後の…」
などとコウジがひとりよがりに会話に参戦してきたが、すぐに1限目開始の予鈴が鳴ってしまったので不完全燃焼のまましぶしぶ自分の席に帰って行った。
こうして眠たいながらも6限目まで授業を終え、帰宅する事となった。
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俺はレイン・バークレン。メルニーク王国に所属している勇者だ。
昨日は信じられない事の連続だった。
16年間生きてきた中で今まで一番の驚きの出来事だった、巫女の啓示で勇者に選ばれた事と同等…いや、それ以上の驚きの出来事だったかもしれない。
1日の業務を終え、仲間たちとの食事を経て部屋でゆっくりしようと部屋の扉を開けたら…そこは見た事もない空間だったのだ。狭いながらも部屋の内装装飾などは今までに見た事もない物で溢れていた。そしてそこにいた人物も特に特徴のない平たい顔の子ども? 俺たちの国では見た事のない人種だった。
しかしその平たい顔の種族…ユウタが食していた食べ物が衝撃的だった。カツ丼というのを少しだけ食べさせてもらったが肉に纏っている皮のようなものや甘辛い味付け。白いつぶつぶしたような物と一緒にかき込むと全ての味が調和してうまい! あっという間になくなってしまった。全然食い足りない!
そしてカツ丼よりも驚かされたのが“しゅーくりーむ”“ぷりん”の存在だ。
俺は甘いものには目がないのだが、あのような珠玉のデザートなど今まで食べた事がない。それほどなめらかな舌触りに濃厚な卵の味、全てが完璧だった。まさに逸品! お金ならいくらでも出すから腹一杯食べ尽させてもらいたいものだ。
そして最後の大トリは同じ異世界の部屋に転移したであろう女が魔王だった事だ。色々と思う事があるが絶対に今日もあの部屋にいかなくては。
他の何よりも優先しなければ…。大切な仕事や仲間をほっぽり出してでも絶対にいかなくては…。そしてまだ皆には知らせるわけにはいけない。俺が調べつくすまでは…俺がユウタの料理、デザートを全て食べて満足しつくすまでは、誰にも知られるわけにはいかないな。
俺はそう思い少し早足気味に、途中からはスキップを交えて家路に急ぐのであった。
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我はカミラ・カルロッツェ。アルメロ国第23代魔王だぞ。
魔王となって早100年ぐらい経つか。まあ魔王といっても今では象徴的な存在だ、あまり表には出ないしのう。
そんな我だが何百年ぶりかの刺激的な出来事があった。
1日の仕事を終え部屋でゆっくりと過ごした後、寝ようと寝室の扉を開けたら異世界と繋がっていたのだ。最初は我の寝室に無断に侵入した賊かと思い平たい顔の…ユウタを攻撃してしまったのじゃが、高位の攻撃、魔法が効かぬ。今まで我の攻撃が効かなかった事はなかったので驚いた。
しかしそんな事よりももっと驚いた事は“カツ丼”という料理だぞ! もちろん“しゅーくりーむ”“ぷりん”も食べた事のない芳醇な味わいで美味しかったのだが我は“カツ丼”に魅了されたぞ。本当に少ししか味わえなかったので、もっともっと味わいたいのだぞ。ずずずず…いかん思い出しただけでもよだれが。
昨日は何かの力によって強制的に排除されてしまったが、今日は朝から仕事中もずっと夜の事を考えてばかりいて全然集中できなかったのだぞ。部下にも「魔王様朝からうきうきそわそわされていませんか?」と勘ぐられてしまったぞ。しかし、ちゃんと「な、何でもないぞ。本当だぞ。」とごまかしておいたから大丈夫だろう。
まだ誰にも知られてはいかんぞ。我が身をもって安全が確保できると確信するまではな、うん、そうだな。まずは我が満足するまでカツ丼を堪能しつくすまではな…絶対に知られてはいかんぞ!
我はそう思い、部屋に鍵をかけて寝室までスキップで駆け寄った。