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第37話 初めての恐怖の克服

 僕はキングベアーの動きをかわしながらじっくりと見きわめる。上から振り下ろす丸太のような腕は大振りだ。これなら次の動作に移る挙動が鈍いので僕でも攻撃ができるかもしれない…とも思うが、丸太のような腕が僕目掛けて振り下ろされる恐怖はハンパじゃない。


 まともに当たれば僕の頭はトマトのように潰されてしまいそうだ。かすっただけでも全身が持っていかれそうなぐらいの質量を感じて攻撃を躊躇してしまう。


 自分の恐怖心をいかに克服出来るかの戦いだ…要するに自分との戦いだ。


 僕は“とりあえず”の心構えで立ち向かった。空いた懐に“とりあえず”当てるだけ。致命傷を負わせなくても“とりあえず”差し込んでみる。相手にとっては痛くもかゆくもないだろうけど、躱した腕に沿って“とりあえず”打撃を入れてみる。


 こうやって遊戯のような“とりあえず”を繰り返し、だんだんと自信が湧いてきた。これいけるんじゃね? こんなに僕の攻撃が通るなら、今度はもっと強く差し込んでもいけるかも。よし、今なら袈裟斬りもいけるんじゃないか。と段々大胆に当てていく。


 どのくらい経ったのだろうか。僕には長い戦いに感じられたのだが、そう感じたのは僕だけではないみたいだった。目の前のキングベアーにも疲れが見えてきた。僕の剣によるダメージも蓄積されているのだろう、傷だらけだ。


「グオオオオオオ」

 それまで緩慢な動きだったキングベアーが咆哮し、僕めがけて突進してきた。急な動きに対処できずに完全に躱す事が出来ず、体をかすめてバランスを崩してしまった。キングベアーはそれを見逃さず、すぐに腕を振り下ろす。


 僕はその振り下ろされる腕をじっくりと見ていた。その動作がスローモーションのように遅く感じた。別に諦めたわけじゃない。そのゆっくりした中でも僕は動けるのだ。キングベアーの急所である胸がガラ空きになった瞬間を見やり力の限り剣を突き刺した。


 剣を突き刺したキングベアーの急所からは血が噴き出し、そのままウツムセに倒れこんだ。僕は無我夢中で首に止めを刺して離れた場所から倒した事を確認する。


 僕は周りを気にすることもせず、キングベアーの横に倒れこみ仰向けに寝転んで空を見上げた。


 やった! ついについに自分一人で格上の魔物を倒せたぞ!

「やったーー! 僕が倒したんだーーー!」

 寝ながら両腕を天に突き上げて大声で叫んだ。


「「はいはいおめでとおめでと」」

と投げやりに祝福され、二人に腕を掴まれて引き起こされた…。


「喜んでる暇はないぞ、次に行くぞ次に。」

「あんな雑魚にどんだけ手こずっておるんだ! 我なら瞬殺だぞ!」

両腕を引っ張られながら引きづられていく僕。


「いえ、やっと倒したんですからもうちょっと余韻に…ていうかもっと僕を褒めてくれてもいんじゃないですかね?」

「まあ、確かに少しは恐怖に打ち勝てたようだし及第点はやれるぞ。」

「そうだな。止めを刺した時、お主はキングベアーの動きがスローモーションに感じられたのではないか? それなのに体が理想通りに動けただろ? お主が恐怖に打ち勝った証拠だな。」

二人が褒めて? くれたのかな。


「もっと僕を褒めて伸ばしてくれてもいいんですよ?」

「いや、恐怖に打ち勝つのは冒険者ならスタート地点だから。」

「そうだ、我なんか記憶にないぐらい前だぞ。」


「…先着1名様までの早い者勝ちで、僕を褒めてくれたら今度ショートケーキをつけますよ。」


「ユウタ天才か! 俺は正直びびったんだぜ。この動きは…ま、まさかこれが伝説で言い伝えられていた“ノビノビウゴ〜ク”ではないかと。100万人に1人しか達成できない域に達しているユウタ天才か!」


「ま、まさか…ユウタお前! 魔国ウソ歴102年に実在した第2代魔王ウソコーキが使えたという幻の必殺技“ツキサース”を使えるなんて…近代に蘇った幻の魔導士なのかお前が!」


…現金な二人だ。手のひらを返したかのようにスラスラと褒めたたえてくれる。気持ち良い!

「だけど二人とも失格です。」

「なんでだよ! ケーキくれよ! 頼むよケーキ!」

「我の褒め言葉を返せ! ケーキに魂を売ってまでウソついたのだぞ!」


「いや、ふたりとも僕のこの体勢を見てから言ってくださいよ。二人が急に僕の腕を放すからでんぐり返ってますやん。僕の顔の前におち○ちんきてますやん。」

 そうなのだ。僕はでんぐり返っている格好で褒められまくっていたのだ。


 僕はすっくと立ち上がって何事もなかったように歩き出す。わいのわいのやってたけどまだmission6をクリアしていなかった。しかし目的地のゴリブ沼地はすぐそこだ。もう全ての魔物を退治したと思うのだが…やっぱり最後は沼地から魔物が出てきて戦うことになるのだろうか。


 僕的には先ほどのキングベアーがクライマックスだったので終わりでいいんじゃないかなと思う。っていうか終わって欲しいな。


で終わる訳でもなく沼地にたどり着く前の荒れ地にたくさんの魔物が…なんだあの魔物は?


「フィッシュマンか…。」

「雑魚だが、数が多いから面倒くさいの。」

 フィッシュマン? 沼地なのに魚とはこれイカに。なんか半魚人みたいな感じで顔がリアル魚って感じで気持ち悪いな…。わらわら寄ってきてる。


「よし、じゃあ最後にやりますか! ユウタにも回すからちゃんとやれよ!」

「うむ、ユウタもしっかり数をこなすように。でわ行くぞ!」

 フィッシュマンの大群に向かって僕たち3人は走り出した。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 僕たちの戦いはこれからだ!











“ピロ〜ン”

“mission6 clear おめでとうございます。報酬としてカミラさんに100000円、レオンさん100000円、ユウタさんに50000円を進呈。10秒後に部屋へ帰還します。”


 瞬殺しました。


 なんの盛り上がりもなく流れ作業で瞬殺してやっとこさ帰還しました。


 二人はデザートをたっぷり堪能して帰って行きました。

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