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第113話 燃える水

 次の日さっそく僕たちは村長の家に向かった。もちろんマルス村の特産品となるであろう菜種油のお披露目のためだ。


 昼ぐらいに村長に会い、村の人を出来るだけ集めてもらった中でデモンストレーションをする事にした。思った以上の人が集まってくれたようだが、僕がプレゼンをする事になっているので緊張してきた。


 正直僕が、美男美女であるレインさんとカミラさんを差し置いて出しゃ張る事が嫌だったのだが…一番菜種油に精通しているからという事でしぶしぶ請け負った。


 だけど大勢の村人の前に僕たち三人が現れて、その中で一番平凡な僕が説明しようとすると…お前じゃない感をものすごい感じる。「お前がしゃべるんか〜い」って全員に口を揃えて突っ込まれそうだ。


 そんな雰囲気にも負けずに僕はシャシャリ出て説明をした。


「今日はようこそおいでくださいました。みなさんに見てももらいたいのはコレです。」

 そう言って皆の前にタライのような皿にナミナミと注がれた油を差し出した。本当なら透明の瓶に入れた黄金色の液体を見せたほうがいいのだけど…この世界には透明な瓶などなかったのでしょうがない。


 僕の差し出した皿の中に漂う黄金色の液体を見て住民たちがざわめきだした…なんだ? どした?


ざわざわざわざわ…


 皆一様に嫌な顔をしている。小声でボソボソ話している声を拾うと…


「あれは…オシッコなんじゃね?」

「そういえば、臭うわね。」

「でも、レインさんのなら…。」

「カミラさんのならオラが買おう! 全部買おう!」


 などと不穏な話し声が…


「いえいえ、みなさんこれはオシッコじゃないです。確かに黄金色をしていますけど、少しだけとろーりとして粘度もありますし。」

 僕が慌てて否定した。


「じゃあ、なんじゃその液体は?」

 皆の疑問を前列の爺さんが代表して質問してくれた。


「よくぞ聞いてくれました。これは…“燃える水”です!」

 僕はドヤ顔で答えた。


「水? 水なのに燃えるのか! うそをつくな!」

「俺たちの事を田舎者だと思って…」

「私たちを騙そうとしてるんじゃあ…」

「嘘つけ、カミラさんのならオラが買おう! 全部買おう!」

 若干一名危ない趣味の奴がいるな…。


「それじゃあ、今からそこのあなたを燃やして見てみますから、皆さんは見ていてくださいね。この液体があなたの信じるカミラさんの…でしたら燃えませんので。大丈夫! 自分を信じて! では…」

「やめ〜〜〜〜い!」


 カミラさんが見かねて僕の暴挙を止めてくれたようだ…グーで…。そこは平手打ちでお願いしますカミラさん。グーだと頬にめり込んで痛いので。


 燃やされそうになった男は殴られた僕をうらやましそうに見ていた。…服の端っこに油を塗っておいてあげよう。


「すみません冗談です。この液体は“油”といいます。この油を浅い皿の上に注いで、こよりという名の芯を浸します。そしてこの芯に火を点けると…」


 シュボ、ジジジジ…


 カミラさんの生活魔法で小さな火を芯につけてもらった。その芯に火がつくも、燃え尽きる事無く淡い小さな火が付いたままだった。


「今は昼間なので明るく見えませんが、夜などにはこれで松明などを炊かなくても家の中が今よりは明るくなると思います。この程度の灯りですが、夜でもちょっとした作業ならできると思いますよ。」


おおおおおーーーー


 僕を見る目が、さっきまでの如何いかがわしいそうな物を見る目では無く、ちょっと尊敬の目で見てくる。


「す、すごいですな。この油というのがあればこの村も栄る事ができるかもしれません。ユウタさんありがとうございました。」


 村長が僕の手をとってお礼を言う。ふふふ、僕のプレゼンはまだ序盤だというのに。


「くくく、皆さんこんな事で…えっっちょっちょと」

「みんな〜ユウタさんを胴上げだ〜、わ〜〜〜」


 感動した村長とその愉快な仲間達が僕の話を聞かずに、喜びのあまり僕を担ぎあげようとした。


 しかし、僕の手にはまだ火のついた灯りが…

「あっ」


 と思った時には油が溢れてその火が…先ほどカミラさんにこだわっていた男の袖に…あっという間に広がって、男は火に包まれてしまった。


 ぼわっつ! シュバババー、シュン…。


 まぁ、火が広まる前にレインさんのす早い剣の一振りで事なきを得ましたけどね。火のついた男は一瞬で火を消された事にも気づかず呆然と立ち尽くしている。


 …あれ? よく見たら男の髪の毛の上部も剣で真っ平らに切ってあるじゃん! やるな、レインさん。


「皆さん、このようにこの燃える水“油”はとても危険ですので扱いには十分に注意して扱ってください。出来れば火のそばに水桶を置くようにして、火事になった場合はすぐに消せるようにしてくださいね。」


 村人と村長は素直に従う。まあ、目の前で人が燃え上がったのだ。男には悪いがみんなの気を引き締める事に一役買ってくれた事にはお礼を言わねばな。


 …実際には言わないけどね。


 それじゃあ、次はいよいよ本命の料理について解説をしようかなと思ったのだが、カミラさんとレインさんに校舎裏に呼ばれた。アゴでクイって、無言で裏に来いよって感じで…


 僕は村人達に断って少し場を離れた。もちろんカミラさんとレインさんも。


 …どうしよう。


 …どうしよう、カミラさんから告白だったら。こんな放課後に校舎裏に呼び出すなんて…告白しかないんじゃないだろうか。そんな淡い思いを抱きつつ…


 …どうしよう。


 …どうしよう、レインさんにカツアゲされたら。こんな放課後に人気のない校舎裏に呼び出すなんて…「おい、飛んでみろ」でおなじみのカツアゲしか思い浮かばない。そんな憂鬱な思いを抱きつつ…


 二人の待つ校舎裏へと小走りで向かうのであった。


 次回に続く!


 …別に次回に持ち越すような話ではなかったので続きません。もちろん告白でもカツアゲでもなかったです。

 その話とは…


 油の第二の効能(むしろこっちが本命)の発表は止めておこうという事だった。


 打ち合わせでは今から村のジャガイモを菜種油で揚げて、その美味しさと共に油の有益性を知ってもらおうとしていたのだが…。


「灯りとしての性能だけでも十分な名産になりうるだろう。それに…」

「権力者の後ろ盾の問題がある。」


 こんな何もない貧弱な農村で、世界で見たこともない有益な特産品が開発されてしまったら、めざとい者に独占されてしまうだろう。それが権力のある善人なら良いのだが、間違いなく権力のある悪党の可能性の方が高いだろうとの事。


 だからまずはこの土地の権力者がどういう人間か探ってから、色々な可能性を考えたほうがいいと諭された。


 本当ならそれは僕達の仕事ではなく、村長さんの仕事なのだろうが…ミッションの成功がかかっているのでレインさんとカミラさんもその件には協力してくれるみたいだ。


 何かミッションに積極的だな…二人。今まではもっとゆるい感じだったのに。


 という事で次は村人による油の生産を指導していく事になったのだった。


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