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第111話 束の間の別れ

「さてと、じゃあ今からお前たちを異世界にへと戻すぞ。いいか?」

「ああ、俺たちはいいぜ。」

「ユウタは起こさなくてもいいのか?」

 ユウタはすやすやと眠っている、深夜だからな。


「ああ、ユウタは目が覚めないようにオレがさっき腹にワンパンで寝かし付けておいたばかりだからな。」


 ええええええ〜今からユウタの魂が異世界へと戻るから、この体の翔太はまた空っぽになるわけで…もしこのままミッションをクリアできずに翔太の魂が集められなかったら…永遠の眠りにつくことになるのに…。


 そんな翔太に向かって遠慮なしの腹パン…。


 レイ…恐ろしい子!(白目)


「いや、オレはそんな悪逆非道な行いはしないぞ! 腹パンっていう単語が悪いイメージだからそう思うだけだぞ。もちろん腹パンにもちゃんと意味があって行ったものだ。」


 俺と魔王はジト目でレイを見つめる。はっきり言って疑いの眼差しだ。


「いや、まじまじマジで!」

 レイの慌てよう…怪しい。だが、その後ちゃんと説明を受けたので納得した。


「やるじゃねーかレイ。」

「うむ、我は最初から信じていたぞ。」

「嘘つけ! 俺をめちゃめちゃ疑ってたじゃないかよ。まあ、いいけど…これで少しでも家族の心が癒されればいいんだがな。」


 そうだな…これからのユウタ(父)の事、残された家族の事を思ったら、素直にそうなって欲しいと望む俺が居た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翔太が異世界へ行ってしまう最後の夜を迎えた夜中、自分はなかなか寝付けないでいた。明日、病院に行っても翔太はもう目覚めないのだから。


 また明日から前の時のように長い眠りにつくのだと思うと気が重い。


 今度目覚める時は、本当に翔太の魂が入った体で目覚めるとわかってはいるのだが…また翔太が目覚めないまま長い年月を過ごすかと思うと…やっぱり夢だったのかと、夢だったのではないかと心が挫けてしまう時が絶対にくるだろう…果たしてその時に俺は、俺達は耐える事ができるだろうか…。


 そう考えてしまう事はレイ君を信じる、信じないという問題ではない。人は弱い生き物なのだ。


 自分は何度も寝返りをうち、自問自答を繰り返しながら2時を過ぎた頃だっただろうか、隣に寝ている妻を起こさぬようにそっと起き上がりトイレに向かう。


 カタッ


 1階で物音が聞こえたような気がしたので階段からそっと伺うが…人の気配はしなかった。とりあえず1階に降りてリビングの戸を開ける。


 すると…ソファーにサッカーボールが置いてあった。


 あれ? 何でこんなところにサッカーボールがと思い拾い上げると…


「パパ」


 後ろから呼びかける子供の声が。自分は思わず振り返る。


 そこには…そ、そこには…ぐぅうううう…。


 淡く光る生前の…小学6年生の姿をした翔太が立っていた。


 サッカースクールのユニホームを着ている。その時にファンだったサッカー選手の番号の入ったユニホームを着た翔太が立っていたのだった。


 その顔は穏やかな笑みを浮かべていた。病院で寝ていた表情がない顔ではなく、あの頃…家族全員揃っていた時によく見せてくれていた、日常の笑顔を見せてくれていた…ぐぅっ。


 自分は涙が止まらない。話しかけたいが嗚咽が声にならない声を上げる。40歳にもなってこんなに泣くだなんて…翔太が事故で動けなくなった時以来だ。


 たとえこの翔太がおばけで、自分を道連れにあの世へと誘いに来たのだとしても、自分はついていくだろう。残された家族のことを考えたら一緒に逝ってはいけないとわかってもいるのだけれども…


 今、この翔太を見てしまってはもう二度と離れたくないという感情が先走ってしまた。


「翔太、もうどこにも…いがないでくれ…ううううう。家族ともう一度一緒に過ごそう。」


 自分は淡く光、つかめない翔太を抱き寄せた。


「パパ、今の僕ではこれが精一杯なんだって。僕もみんなとまた一緒に暮らしたいよ。」

「ああ、一緒に過ごそうううっ…絶対にだ。」


「今日はほんのちょっと間のお別れを言いに来たよ。」

「…………ぐぐぅう。」


「僕が目覚めるまで待っていてね。」

「ああ、パパやママもそして薫も一緒に待ってる。いつまでも待ってるぞ翔太!」


 自分がそう告げたのを待って翔太は淡い光を徐々に足元からチラシながら消えていく。自分は慌ててその光を覆い尽くすよう翔太の頭から抱きかかえた。


「パパ、ママ、薫…大好き…だ……………よ」

 翔太は光の粒となって自分の体から消えていっ…


…………………………

…………………………

…………………………


「はっ」


 自分はベッドから起き上がった。時計を見ると3時を回ったところだった。


 夢…か?


 夢だったのか? それにしてはすごくリアルだったように思う。何気に自分の頬を触るとそこには自分の流した涙が…


「なぜ…」


 すると夜中だというのに隣の部屋で寝ている薫のドアが開く音がした。そして自分たちの寝室の扉が大きく音を立てて開かれる。


バン


「パパ、ママ! 翔太に会ったよ。私今翔太に会ったの。」

 そう娘は開口一番嬉しそうに興奮しながら自分に報告してくれるのだった。


 隣に寝ている妻を見ると…妻は泣いていた。そしてゆっくりと起き上がり、自分と娘に言ったのだった。


「私にも…ううう翔太が、翔太が挨拶に来てくれたわ…。」


 そして3人でお互いの翔太の夢について語り合った。おおむね自分と似たような内容だったが、それぞれに言葉を残してくれたらしい。


 例えばお母さんには、病院で話してくれた思い出話は全部覚えているよだとか、妹に対しては性格のダメ出しなんかをしたらしい。魂は飛ばされてしまっていたが、どこかで見ていてくれたのかもしれないな。


 そしてパパは何をしゃべったの?と聞かれたが…泣きじゃくってたからあまりしゃべれなかったと伝えたら二人には呆れた顔をされた。パパが家族の中で一番の泣き虫じゃんって言われてしまった。


 「これからまた一度眠りについてしまうけど…またすぐに目覚めるって、お兄ちゃん言ってた。そうしたらまた家族4人で過ごせるから嬉しいね、パパ、ママ。」


 そう言って無邪気に喜ぶ娘の姿を見て、俺と妻はまた嬉し涙を流すのであった。


 きっとそう遠くない日に再び翔太に会えるだろう…その日を信じて。家族4人で待つ! 頼んだぞユウタ!


 自分は部屋のカーテンを開け、明け方の空を澄み切った空気を吸い込んで異世界へと帰ったユウタに檄を飛ばした。


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