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第110話 地球最後の夜

 どうも、ユウタ(父)です。3日間は何事もなく、いつもの日常を過ごしました。


 毎日早めに仕事を切り上げて、夜には家族で翔太のお見舞いに行く日常を。


 まあ本当は中身はまだ自分の分体なんだけど…翔太の体を通していると思うと複雑な感じがして、なかなか打ち解けれないというか、昔話をしても中身が翔太じゃないから覚えていないだろうし…かといって分体は自分でもない。


 だから得体のしれない別の生き物のような気がして…自分から積極的には動けなかった。


 もちろん妻と娘はその事を知らない。翔太が目を覚ましたと思って接しているのを見て、また複雑な心境になる。


 あと、3日で翔太の魂を集める為に異世界へと飛び立ってしまう。その飛び立った後に翔太はどうなるのか? それは…魂が抜けるのだから、また目を覚まさない眠るだけの生活になってしまう。


 やっと5年もかけて翔太が目覚めたのだ。いくら次に完全な翔太になって…いや本当の翔太が戻ってくるとは分かってはいても、また目覚めなくなってしまえば、事情を知らない家族の落胆は大きいだろう事は想像につく。


 事情を知っている自分でさえ、また翔太が目を覚まさなくなると思うと心が締め付けられるように痛むのだ…事情を知らない家族にとってはもっと心が痛む事だろう。


 だけど自分はその事を家族には打ち明ける事が出来ない…そして、家族に打ち明けられぬまま3日目の最後の日を迎えた。


ーーーーーーーーーー


 俺たちは3日間幽体のままユウタに付き添って過ごした。


 何と幽体となった俺たちは病院の外へと出る事が出来たのだ。もちろん俺と魔王だけで寝ているユウタは病室でお留守番だったのだが…。


 見るもの全てが新鮮ではしゃぎ回っていた。もちろん実体ではないので食べたりする事はできない。だから今度異世界に戻ったらユウタに作ってもらうか、買ってきてもらおうと頭のメモに書き込む事に精を出した。


 しかしあまりにもはしゃぎ過ぎた為に2日目からレイに怒られて、行動範囲に制限をかけられてしまった。まあ狭いながらも珍しい物がいっぱい見れたので飽きはしなかったが。


 そして異世界へと戻る3日目を迎えた。


 ちなみにユウタにはユウタの成り立ちなどは一切話していない。俺、魔王、レイ、ユウタ(父)とで話し合った数々の文体の役割などはユウタには話さない事に決めた。


 なぜなら、異世界へ戻れば全て記憶が消去されるからだ。これはレイが意図的に記憶を消すというわけではなく、ユウタの分体ではここでの記憶を記録出来ないらしい。


 何か難しい事を言われたが…アカシックレコード的な記憶媒体のような魂の集合体にアクセスするほど上位の存在ではないとかなんとか。難しい話なのになぜか魔王は納得していたようだ。


 俺はよくわからんが、知ったかでうなづいてはおいたよ。


 だからユウタには今日異世界に帰る事は伝えていない。異世界へ帰れば今までのような日常が待っている。俺たちに食事を提供し、ミッションをクリアして翔太の魂を回収する日常が。


 俺は正直嬉しい。もちろん地球のいろいろな美味しい物を再び食べられる喜びもあるのだが、あの3人でわいわい楽しく過ごす平凡ながらも平和な日々を過ごす事が出来るようになるのだ。


 それぞれ生まれも育ちも全然違う他人なのに、血の繋がった家族のような存在。そのような2人と過ごすこれからの日々が楽しみでしょうがないのだ。


 魔王や、ユウタもそう思ってくれていれば嬉しいと思う。


 そして翔太が眠った深夜。レイが前のように何もない空間からふと現れた。

「待たせたか?」

「ああ、待った。待ちくたびれたぞ。」

 魔王はすぐに文句を言った。別に待ちくたびれてはいないだろうに。


「それじゃあ、今からお前らをまずはユウタの仮装空間へと送り出したいと思うが…その前にこれを。」

 そう言ってレイは黒い塊のような物を魔王につまんで手渡した。


「にゃ〜っ」

 黒い子猫だ。


「これは?」

「オレの異世界での依り代として使う。名前はそうだな…クロちゃんで頼むよ、くくく。」


 クロちゃん…という事は…


「やっぱりお前だったのか。夜な夜なユウタに語りかけてメンタルをどん底に落としていたのは!」

 魔王が察してレイに詰め寄った。


「夜な夜なとは人聞きが悪いな。しょうないだろうオレは創造神とはいえ、今はこの世界で留まっているからユウタとの接触方法はあんな形でとることしか出来なかったんだから。

 だから今度からはその依り代を通して連絡するから。あっでも常に依り代の中にいるわけじゃあないからな。偶に様子見に行くだけだからな。」


「様子見って…めっちゃ都合のいい女扱いだな、ユウタは。」

 俺も突っ込んでおいた。


「そのクロちゃんは今までずっと飼っていて最初っからいた設定にしておいたからユウタが疑問に思う事はないと思うから、お前らもオレだと思って存分に可愛がってやってくれよ。」

「ふん、粗相をすればすぐにつまみ出してやるぞ!」


 レイの可愛がってという発言に魔王は悪態をついたが、子猫の可愛さもあって満更ではないようだ。そして俺も動物は好きだから満更でもない。


 その後も俺たちはレイに悪態をつきながらも異世界に戻ってからの細々とした打ち合わせをした。そして全てが終わり後は帰るだけとなっった。


「最後に聞いて良いか? なぜお前は自分の世界から離れ、こんな遠くの惑星で、そのような仮初めの器に入ってまでここに留まっておるのだ?」

 魔王がレイに問いかけた。


 レイは無表情だった。何の感情もないような顔で魔王を見ていた。でもその顔は冷たいという感じではない、地球人を演じていた今までのようなレイという感じではなく…どことなくそれが素のように感じられた。


「…オレもお前らと一緒だ。待っているのだ。友人…家族…とは違う…なかなかこの世界ではいい言葉がないのだが、一番近しい言葉は“仲間”か。そのオレにとって唯一無二の仲間がこの世界に、いつかオレの前に現れるのを待っているのさ。」

 そう寂しそうな…嬉しそうな感情が混在した表情で答えた。


「そうか…創造神であってもそのような“仲間”がいると知って我も安心したぞ。」

 そう言って今まで不機嫌な顔を崩そうとしなかった魔王が初めていい笑顔で猫を撫でながら言ったのであった。


「にゃ〜っ」

 そして子猫は気持ちよさそうに目を閉じて鳴いたのだった。

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