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第106話 レイという少年

 それで出会ったのがレイという少年だった。


 自分は教えられた二の宮駅の中心街にあるアーケード通りを歩いて、一番端っこにある5階建ての商業ビルのエレベータに乗った。

 

 4人乗りの少し窮屈なエレベーターに乗り《《6階》》のボタンを押す。気持ち悪い浮遊感を伴って上昇してエレベーターのドアが開いた。


 マンションの1室にまるで導かれる様に何の迷いもなく正面ドアをくぐると…


 目の前には10畳くらいの壁1面真っ白な部屋。窓、照明器具がないのにもかかわらずとても明るい。その真ん中に2人掛けのソファーが向かい合って2つ。その奥のソファーに少年が鎮座していた。


 見た目は16歳の男? 銀色のメンズマッシュで左目だけが髪で隠れている。全身真っ白。白シャツに白ネクタイの制服のようなスーツを着ていた。


「初めまして、どうぞお座りください。」


 そう言って彼が指し示したソファーの向かいに腰を下ろす。沈むほどの柔らかさではなく、程よいクッション性。丁度目線は彼と同じ高さだ。


 自分は彼の目をしっかりと見て話した。

「今日は会っていただきありがとうございます。早速ですが要件は…。」


「いえ、皆までしゃべらなくてもいいです。全て把握していますので。」

 彼は私の話し出しを遮ってそう言った。全て把握? 紹介者である近藤さんから聞いたのだろうか?


「子供さんが交通事故に合い、意識を失ったまま目を覚まさない。私に対価を払って息子を元の姿に戻したいという事ですね。」

「…はい、その通りです。近藤さんからすでに聞いていたのですね。」


「いや、近藤のジジイからは何も聞いていない。オレはあなたを通して見ただけです。」


 はぁーー。自分はため息を吐きたくなったが何とか心の中だけで口にださずにいられた。彼は霊視が出来ると言いたかったのだろうか? 翔太が事故にあってからはこういう手合いが言葉巧みに近寄ってきてうんざりしていたのだ。彼もまた…


「くくく、オレをそんな奴らとひとくくりにされるのは心外だが…まあ、今までの事を考えればしょうがないか。」


 自分は思わず息を飲んだ。まるで自分の考えを読まれたかのような発言に、ドキッとしてしまったのだ。


「まあいい、結論から言おう。息子さんは今のままでは回復は無理だ。」


 ああやっぱりなというのが感想だ。どこの病院に診てもらってもそう言われたのだから…もう何度も何度も“今のままでは…しかし将来的には”と気を持たせた言い方をする。


 いや、そう言うしかないのだろう…。だが医者はまだましな方だ、医者じゃないもの達はお金を出せば、このツボを買えば、この絵画を飾れば…などど随分と強欲な要求をしてくる。


「…わかりました。ありがとうございました、それでは失礼します。」

 ここにこれ以上いてもどうせ強欲な提案しかされないことだろう。それならば自分から早々に引き上げるしかない。そう思い腰を上げようとしたら…


「あれ? 最後まで聞かないんだな。詳しい症状と対処法、そして《《蘇生する可能性》》を。」

「………………。」


「まあ、オレとしては正直どっちでもいいが…近藤のジジイの紹介だから会ってやっただけだからな。」

 …確かに近藤さんの紹介だ。あの人が自分を騙す必然性はない…それよりも何より自分は近藤さんを尊敬している。そんな彼が推薦してくれた彼の提案を最後まで聞いてみようと思い、もう一度ソファーに腰を下ろした。


「すみません。その可能性をぜひ聞かせてください。」

「ああ、いいぜ。まず子供の状態だが、目を覚まさないの当然だ。肉体に魂が宿っていない、つまり今病院で寝ているあなたの子供は体に損傷が無くとも、抜け殻だからだ。」


「抜け殻…。それじゃあ、翔太の魂はどこに? 無いと言うのはもう死んでいるという事ですか?」

「この地球上には存在していなかった。これはものすごいイレギュラーな事なのだが…どこかの惑星に飛ばされたようだ。あと、かろうじて死んでいない状態という感じだ。魂の残りカスのような物が少しだけこびり付いているおかげでな。」


 は? 存在していない? 惑星に飛ばされた? 理解できない単語ばかりだ。


「理解できないという顔だな。まあ地球人にとってはそういう固定概念というものがあって当然だな。どうしてそんな事がお前なんかにわかるのだ? と思うのも当然だしな。」

 彼は自分の考えている事を当てて見せて、少し悩んだような仕草を見せる。


「まあ、この後の事も考えて言っておいてもいいか。実はオレはお前達の言葉で端的に表すとしたら、神だ。」

「えっ?」

 ちょっと何言っているかワカラナイ。


「まあ、信じられないのもしょうがないが…。厳密にはオレは異世界の神なのだが、この姿は仮初かりそめの姿で、訳あって地球で活動している。もちろんありとあらゆる制約でがんじがらめになっているので、何でもかんでも能力が使えるというわけではない。」

「…………………」

 ちょっと何言っているかワカラナイ。


「ん? 頭からこの話を否定しないのだな。普通ならこんな話を聞かされれば馬鹿馬鹿しいと吐き捨てて帰ってしまうものなのだろう? 地球人とやらは。」

「…いえ、ただ単に自分の頭が追いついていけないだけです。自分の脳に処理しきれない情報が入りすぎて…何がなんだか。」


「まあ、今はそれで良い。とりあえず全ての話を聞いて、後から情報の取捨選択をすれば良いのだから。」

 自分は分からないながらも、今の説明には納得が言ったのでとりあえず話の先を聞いて見る。


「お前の子供の体に入れるべき魂はここにはないのだ。そのうち体の中にある魂の破片も朽ちていき、やがて肉体の死も訪れるだろう。もって10年というところか。」


 10年…今翔太は12歳だから22歳までか。


「そこでお前の息子を蘇らせる選択肢は1つ。息子の魂を探し出して、元の体に収める事だ。」

「そ、そんな事が出来るのですか? その…信じられない事ですけど、翔太の魂は地球ではない他の惑星に行ったとか…。」


「それを可能にする為にお前に聞きたいんだ。お前の決心を聞きたい。」

 

 自分は真面目な顔でそう告げる真剣な眼差しにゴクリと唾を飲み込んだ。次に言われるであろう言葉が分かってしまったのだ。その言葉が目の前の少年から紡がれるのをじっと待った。


 まるでその言葉が自分にとっての最後通告のような心持ちで待った。


「お前の命を捧げられるか?」


 そう告げた彼は僕に満面の笑みを向けたのだった。


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