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第102話 恥ずかしい呪文

 僕が目覚めてから困惑しつつもあっという間に10日が過ぎていた。毎日何かしらの検査をこなして夜の面会には、必ず家族揃ってお見舞いに来てくれた。


 その都度、母に昔の家族写真を見せてもらい、それにまつわる思い出話しをしてくれるのだが…僕は今だに過去の記憶を思い出せないでいる。


 見る事と聞く事しか出来ない今の僕は、表情に感情を出す事も出来ないので意思の確認はYESかNOの2択しかできない。


 YESなら瞬きを1回、NOなら瞬きをす早く2回という風に決めている。


 自分の意思を伝えられない事がこんなにももどかしとは思わなかった。

 自分の感情を伝えられない事がこんなにもくやしいととは思わなかった。


 母親が確認するために僕に聞く

「覚えてる?」


 僕は…瞬きをす早く2回する。


 その時に母が一瞬だけ見せる悲しい顔にいたたまれなくなる。だが、ここでYESと嘘をつけばこの先、僕の心が持たなくなると思うのだ。


 心の中で母親に謝る。


 父親はいつも笑顔だが、言葉は少なめだ。何かふとした瞬間に戸惑った表情を浮かべる事があるのだが…何か僕に言いたい事があるのだろうか?


 妹は今年小学6年生と大きくなった。僕が事故にあった時は小学1年生だったのだから当たり前か…覚えてないけど。最近では少し慣れてくれたのか、妹から学校であった事などとりとめもない話をしてくれるのが嬉しく感じるようになってきた。


 そういえば、あの時気になった銀色のメンズマッシュの男性はあれから見かけない。家族も誰も何も彼の事は話さない。一体誰だったのだろうかと今でも疑問に思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そうして短い面会時間を終えた後、僕は病室に1人残されてまた長い夜を過ごす事になる。


 僕の名前が翔太だった事、僕の家族の事がわからない事、過去の記憶を思い出ない事。いろいろと今だに自分の中でも消化出来ずにもやもやと胸の奥にわだかまりがあるの。


 そして、最近もう1つ僕の胸にもやもやが増えた…


 それは、この翔太の顔は僕がユウタとして過ごしていた時の顔とは違うのだ。僕の顔は母親が見せてくれた昔のアルバム写真で見る父親の若いころの写真に似ている。っていうか本人か?というぐらい父親と激似だった。


 ん~まあ、考えてもしかたがないかと今では割り切っている。



 僕がこちらで目覚めてから10日…夢での事を思わない日は1度たりとも無い。


 いや、本当に夢だったのか? あちらが本当の僕の現実ではないのだろうか? と今でも思っている。


 魔王であるカミラさん、勇者であるレインさんと一緒に過ごしたあのマンション…初めて会った時から大飯食らいの二人の為に、スーパーで食材を腕がパンパンになる量まで買って、嫌になるぐらい(実際嫌になったのだが)調理して、作っても作っても満たされない二人に料理を催促される恐怖…今思えばあまりいい思い出ではないな。


 でも何を作っても…素人の僕が作った家庭料理でも、おいしいおいしいと言って食べてくれたあの二人の笑顔があったから嫌々でも作り続けれたと思う。…そして二人のあの笑顔を今も一度たりとも忘れた事などない。


 僕の生活費がすぐに尽きて、三人でわいわい金策の事を話し合ったりもした事、謎のシステムでお金の問題は片付いたけどミッションという形でいろいろな問題を3人で片づけた事。


 まあ、ダンジョンでは二人はスパルタでしたけどね。正直死にそうになったのも1度や2度ではないし…あの時は本当〜にダンジョンも嫌で嫌でたまらなかったなー。


 そういえば、僕は不思議とあの夢の中の高校生生活で一人暮らしをしていたのだが…両親の事を思い出す事は一度もなかった。もちろん妹がいる事すら思い出さなかった。


 あと、不思議な事といえば…僕は五年前に交通事故で意識がなかったはずなのにスマホを知っていた。スマホは事故前からも普及してはいたが…僕は持っていなかったから触った事もないのに使い方や機能などを知っていたし、TV番組も知っていたし、ゲーム機なども最新機種などを知っていた。


 どういうことだ?


 5年間も寝ていたというのに…意識がなかったというのに一体その知識はどこから得ていたのか不思議すぎる。


 いたたたた…いけない、また頭が痛くなってきた。僕は目をつむった。


 目をつむっても浮かび上がるのは…パッと見た目は年上の落ち着いた美女で、髪はセミロングのブラウン寄りの赤色をした、ちょっとツリ目気味だけど瞳は宝石のアメシストのような濃い紫で、唇もぷりっとしているが、いつも油物や濃い味付けの物が好きなので、ベトベトギトギトにテカリまくっている。


 ナイスバディな持ち主だけど中身がちょっと残念なお姉さんな魔王、カミラ・カルロッツェ128歳(自称)。本当はもっと生きてる説もあるけど、さすがに何歳ですか? とまではいくら、親しくても聞けないな…怖くて。


 たまに初心な反応が面白くってつい、エッチなイタズラをして揶揄からかってしまうけど、カミラさんもやり過ぎない程度ならノリノリで付き合ってくれるから楽しかったな。


 そして勇者レイン・バークレン、まあ僕より年下なんだけど…頼れる兄貴的なポジションでシュークリームバカ、以上。


 ふふふふ、本人がいたら、俺はそれだけかよ!って突っ込まれそうだが。

 毎日そんな事を思い出しながら、心の中でため息を吐く。


 …本当に夢だったのかな。


 今思えば、僕にとってはあちらの世界こそ現実だったんじゃないかな。


 ふいに僕の頬をつつーっと涙が流れた。自分が意図しなくても体が悲しいという感情に反応してしまったようだ。


 結局あの明晰夢も真実はこれだったみたいだな。

 ははっ、正解したぞ! クロちゃん! 正解したら何か褒美をくれるんじゃなかったのか? なあ、出てこいよ! クロちゃん!


 …あれからクロちゃんは一度も僕の前に姿を現さない。あれも僕が生み出した夢だったのだろうか? 僕が目覚めた事で役割を終えて消えてしまったのだろうか。


 くううううう…泣きたい。声を上げて大声で泣きわめきたい。だけど…僕の表情は変わらずにつつーっと涙が頬を一筋に流れるだけだった。


 そんな時だった。僕はふと思い出した事がある。


 そういば…夢の中で

『ちゃんと覚えておくように。いいなユウタ、絶対に忘れるなよ。お前が困った時や辛い時、どんなに遠くにいても我らがお前を助けに駆けつける。それがどんな異世界だろうが、地球だろうがな。』


 って言ってくれた事があったな…

 たしかその呪文は…

 “ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー”

 だったな。あの時は口に出すのもはばかるような、恥ずかしい呪文だから絶対によほどの事が無い限り封印だなって思っっていたけど…。


 呪文は口で唱えなくても心の中で強く思うだけでいいって言ってたっけ。ふふふ…夢の中の話だっていうのに、ばかばかしい。


……………………………………………

……………………………………………

……………………………………………


 二人に会いたいよ。魔王のカミラさん、勇者のレインさん…あの頃の楽しかった3人でまた…夢でもいいからまた会ってみたい!



 “カミラさんとレインさん、だ〜い好き”


 僕はカミラさんに教えてもらった世にもバカバカしい、口に出すのもはばかるような、恥ずかしい呪文を唱えた。


 シーーーーーーーーーーーン


 真っ白な僕の病室は静寂に包まれて、何も起こった様子などなかった。



 …やっぱり夢だったんだな。あの出来事は。僕は目をつむるとまた自然と止めどもなく涙が溢れ出した。




ふっ



「あ〜あ〜、ユウタは泣き虫だな。」

「やっと唱えたな。我をこんなに待たせおって!」


 懐かしい声が聞こえたような気がした。


 僕はゆっくり目を開けるとそこには…


 淡く光る魔王カミラさんと勇者レインさんが僕の目の前に現れてくれた。

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