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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死ねない世界の処刑人

作者: 黒魔道士

それは虚。

偽りとも言えるだろう。


夢を見ていたんだ。

そして気づいていた。

僕は夢の世界にいる。


ここは恐ろしいくらいに現実らしくて、

でもしかし、身体は確かにここにある。

意識だってそう、今この場所にある。


だがしかし、夢の中。

そう、きっとこれは夢の中。


怖く、泣きそうなくらいに、くらいくらい夢。




置かれた鏡を覗くとそこには昨日の自分がいた。

映る僕にはどうやら顔と呼べるものがなかった。


間違いなく、鏡に写るのは絶対的なほどの僕なのだ。

でもしかし、たがしかし、顔がない。

発光していて瞳に映らない。


ふと、思い立ち記憶の棚を探る。

違和感のようなものを片隅に感じたから。


でもそこには何もなかった。

空っぽで真っ白で何もない。


僕は何者なのだろう。


名前も、正体も、なにもかも分からない。

頬をつねっても痛みすらない。


ここはきっとそんな狂った世界。




僕は待ち切れずにドアを開けた。

ガチャリと大きな音を立ててドアは開いた。


朝日の眩しさに目が眩む。

光がこれ以上なく鬱陶しい。

目は少しづつだけど適応していく。

霧が晴れるように、視野が広がる。


人がいた。

女の人だ。


でも顔は見えない。

僕と同じように真っ白だ。


女の人は僕を見かけると、

落ち着いた口調で話しかける。

その目は優しい瞳だった。

見えないくせに、そう感じた。


「ごきげんよう旅の方

お眠りですか?」


「ここは?」


僕は彼女にそう尋ねる。


「死ねない世界でございます」


「死ねない世界?」


「はい、死ぬことができない世界でございます」


女の人の声色がなぜか笑っている気がした。


「どういうことなの?」


でも僕には彼女を理解できなかった。


「ご自身の目で

ご覧になれば分かることもあるでしょう」


彼女はそう言い、霧のように掻き消えると。

僕は強い目眩のような感覚に襲われ、突如、

世界は広がった。




立ち並ぶそれらは街並みの様だった。


よくある西洋物語のような家々に、

ストリートには布で作られた等身大の服の群れがヒラヒラと揺れる。


ここには静けさと悲しみが溢れていた。


町にたった一人。

男の人が空を見上げて立っていた。


「何をしているんですか?」


僕はそう尋ねる。

彼は振り返ると笑顔で、


「帰りたいか?少年」


そう僕に問いかけた。


よく見ると男のその右手には木製のリバルバーが硬く握られていた。


いったい何に使うのだろう。

そんなものをここで。


そう、男に聞こうとした。

次の瞬間、男は自身の額にその銃口を突き当てると。


パァン。


と、一発の丸く白い鉄の塊が男の頭をゆうゆうと突き抜けた。


一筋の煙があがって、

骨が割れ、

肉が飛び散り、

脳漿が舞う。


けれども男はそこに立っていた。

依然として笑顔のまま、涙を流し、そこにいた。

割れた脳はそのままに、

砕けた頭はそのままに、

けれども確かに男は生きている。


いや、違う。

死ぬはずなのに死んでいないと言った方が正しいのかも知れない。


男は叫ぶ。


「ああ!

どれほどここで、どれだけを送ってきたのか!

あとどれだけを送らなければならないのか!

だれも殺したくない!送りたくない!

お願いだ、頼む!もう、殺してくれ…」


血の涙を流していた。

ただ単純に可哀想だと思った。

助けてあげたいと、そう願った。


僕はアスファルトに転がった、

血みどろのリバルバーを拾い上げる。


初めて触れた、鉄の銃。

想像よりもずっと重くて、冷たい命の形。


だから、僕は男の頭に狙いをすませて、

トリガーを引いた。


パァン。


男の頭に僕の放った銃弾が走る。

頭は破裂して鉄の塊が今一度突き抜ける。


ただ、以前と違うのは、

ボロボロと崩れ落ちる男の身体。


「ありがとう」


そう言い残すと、

男は砂の様に崩れ、

強い風に流されて消えていった。


世界に残るのは彼の纏ったひとひらの服と、

彼が作った服の群れ。


この手に握るリバルバーと、

そして僕。



僕は座り込み、時をまつ。


ここは死ねない世界。


誰かが残る町。



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