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巫の血脈  作者: 櫟木 惺
第16章 逆説の虜囚
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第86話 高祖、降臨

 采希(さいき)は空を覆いつくす不気味な骸骨を見上げる。

 巨大な眼窩の奥に赤黒く揺れる炎のようなモノが、骸骨の瞳のように見えて背筋を悪寒が走った。

 隣に立った那岐(なぎ)が小さく唸る。


「あいつを攻撃するなら、一旦、結界を解かないと……。でも、どんな攻撃なら効くんだろう?」

「那岐でも思い付かないのか?」

(れい)さんこそ、何かいい手はないの?」

「…………これほどの悪意を持った土地神ってのは、俺の記憶にもない。俺は特に苦手な部類だしな。あきらなら……いや、ここまで酷いのは居なかったか……」


 黎と那岐の会話を聞きながら、采希は何気なく柊耶(とうや)を見た。

 自分の方を見ていた柊耶と視線がぶつかり、一瞬、その瞳の奥に引き込まれる。

 黎より幾分色素の濃いその虹彩は、瞳孔の周囲がさらに濃くなっている。


(……なるほど、『深淵』か。あきらの感じた通りみたいだな。 ……──? この感じ、どこかで……)


 采希の記憶が微かに揺り動かされる。



「たとえ邪の気を纏っていようが、神様は神様だからな……どんな攻撃なら効くんだ?」


 ぶつぶつと呟く黎の上に、龍神の宝珠がゆっくりと降りて来た。以前見た時よりも幾分光量が弱く、采希は龍神がまだ回復できていないのだろうと思った。


「ナーガ、お前ならどうする?」

《……神格を持つモノは、同等以上の神格を持つモノになら消滅させることも可能だろう……確実ではないが》


(神格……?)


 神格を持つと聞いて采希に心当たりといえば、お稲荷様や荼枳尼天(ダキニてん)、そして巫女の主神である大神さまだったが、采希には神様の神格のレベルは分からなかった。

 たとえ分かったとしても眼の前にいる凶悪な土地神にぶつけるなど、恐れ多すぎて采希には考えられなかった。


「消滅させる以外に方法は?」

《……出来る限り気を削り、封じ込めるか、だな》


 龍神の言葉に黎が『そうか……』と呟く。それでも黎の眉間にはまだ深い皺が寄っていた。

 気を削るためには攻撃しなくてはならない。攻撃するためには采希と那岐で展開した結界を解除する必要がある。

 結界がなければ土地神からの攻撃を防ぐ防御壁をそれぞれに展開する必要があり、その上で攻撃をすることが自分に可能だろうか、と采希は考えた。


(今の俺にはヴァイスがいない……)


 二人分の結界を張っていてさえ、さっきは土地神の攻撃で押し潰されそうな衝撃があった。

 采希が琉斗の身体の防御を受け持って、琉斗を攻撃に専念させたとしても、神様相手にどれだけ通用するか分からない。


(何か……方法はないのか? 考えろ)


 ぎゅっと眼を閉じる。




《要は、その土地神の力を削ればいいんだな?》


 采希の頭の中で声がする。


(……あきら? お前、今まで……)

《うん、寝ていた》

(…………)


 そういえば、巫女はほとんど微睡んでいると黎が言っていた。

 呪に縛られた巫女の身体は、あの大きな樹の上で大神様の癒しを受けて生き永らえている。

 采希の様子に気付いた黎が顔を上げた。


「──采希、お前今、あきらと繋がってるのか?」

「はい」

「あきら、聞こえるか? 何か方法があるなら──」


 ……しゃん


 神楽鈴の音と共にうっすらとと巫女の姿が浮かび上がる。

 黎がゆっくりと息を吐き出した。


「……あきら……」

《まずは奴の動きを止める。その上で、一気に攻撃を仕掛けて気を削ぎ落とす。そうすれば多分、封じ込める事は可能だと思う》


 淡々と告げる巫女に、采希は思わず頭を抱えた。


「──確認させろ、あきら。一体、どうやって動きを止める?」

凱斗(かいと)だな》

「……え? 俺?」


 巫女の視線を受けて、凱斗が一瞬身を引いた。


《私がお前に天乙貴人を降ろす。覚悟を決めてくれ》


 凱斗の身体にぐっと力が入った。口元を引き締め、無言で頷く。


《攻撃は、黎さんと采希で。那岐には、最後に封じる役目をしてもらいたいから……》


 そう言いながら、なぜか巫女の視線が揺らいだ。

 その様子に、柊耶がふっと笑みを浮かべる。


「あきらちゃん、気遣わなくていいよ。……僕なら、あいつの気を大幅に削り取る事が出来る」

《……でも、柊耶さん……》


 采希は思わず柊耶の顔を見つめてしまった。


(なんだって? 柊耶さんが、どうやって?)


 黎が小さく溜息をつく。俯きながら首を横に振った。


「駄目だ。お前には確かに邪気を持つモノは近付かない。だが、邪気の念による攻撃を全て防げる訳じゃないと、婆様にも言われただろう。あれほどの土地神に悪意を持って強力な攻撃をされたら、視えないお前には避けきれない」

「黎さん? ちょっと待って。柊耶さんがあいつの気を削れるの?」


 柊耶を止めようとする黎に、采希は慌てて尋ねた。


「ああ、そうだ。柊耶は()()()()奴らの力を霧散させることができるんだ。だけど、能力者じゃない柊耶は防御壁を展開出来ない。一方向からの念なら吸収できるだろうし、こいつの身体能力と勘の良さで避けることも出来るだろう。でも、同時に多方向から攻撃されたら、防御できないこいつには危険すぎる」

「……霧散……?」


 采希が呆けたような声を上げる。

 自らに向けられた攻撃を霧散させるなど、出来るはずがない、と続けようとして気が付いた。

 以前、ニット帽の男の攻撃が琉斗の目の前で消えていた。柊耶はそれを意識して出来るのか、と思わず息を飲む。


「そうだね。僕なんかに好んで近付いて来て、話し掛けてくれたのは黎くんだけだったよ」

「……柊耶、そう言う話じゃなく……」


 黎の苦渋に満ちた声に、柊耶が笑いながら応える。


「危険なのは分かってる。あいつの攻撃がどれほどの威力なのかも不明だしね。──ま、さっきの一撃だけでもかなりヤバい感じではあるけど。こちらの攻撃がどれ位の効果があるかも分からない。……でも、僕なら確実に奴の気を削れるんじゃない? 触れられさえすれば」


 黎たちの会話が届いていたのか、離れた結界の中にいるカイの静かな声が黎に問い掛ける。


「黎、あのでっかいのの気を削るには遠距離からじゃダメなのか?」


 かなり小さな声で話していたはずなのに、と采希が不思議に思いながら振り返ると、シュウの姿が視界に入った。

 シュウのサトリの力でこちらの会話を中継していたのか、と理解した。


「結界を解除して遠距離から気を削るのは、時間も掛かるし危険だ。…………正直、柊耶がゼロ距離で削ることが出来れば、それがベストだ。俺たちが柊耶の周囲に防御の力を纏わせたとしても、あの高さまではこいつの身体能力をもってしても届かない。だから……」


 黎の逡巡は采希にもよく分かった。

 防御する術を持たない柊耶を危険に晒すことは出来ない。


(あきらが躊躇したのも、そういう理由か……)

《そうだな……どんな邪気を纏っていようが、神気には変わりない。その気を消すことができるのは恐らく柊耶さんだけだと思う》


 巫女の言葉に、那岐が即座に応える。


「僕が柊耶さんを護れば……」

《那岐、お前には結界を使って封じ込めてもらいたいと言っただろう? 邪神を封じるんだ、並大抵の結界では意味を成さない。防御しながらでは無理だ》


 悔しそうに俯いた那岐を安心させるように、采希はその肩に手を乗せた。

 黎の眼を正面から見つめる。


「俺が──琉斗の器を借りた今の俺なら、柊耶さんを護りながらあの高さまで跳べる。凱斗に降りた貴人がヤツを抑えてくれるなら、問題ない。黎さん、俺に、やらせて」

《……采希……》

「あきら、頼む。俺の封印を解いてくれ」


 唇を噛みしめながら、黎が小さく頷いた。



 * * * * * *



 大きく、深呼吸をする。那岐は視界を覆うような髑髏を見上げた。


(……大きいな。これを僕の結界で封じる……出来るかな? いや、僕は僕の役目をきちんと果たさなくちゃ)


 口を引き結ぶ那岐に、巫女の声が届く。


《そうだ、那岐。お前の結界できっちり封じ込められれば、任務終了だ。……大役を任せてしまって、すまない。お前の結界が一番適任だと思うんだ》

「大丈夫だよ、あきらちゃん。今の僕なら、多分出来ると思う」


 さっき、采希の最後の鍵が解除された。同時に那岐の身体にも力が溢れ出したのがわかった。

 自分の力が采希と繋がっていると言われた意味を初めて実感した。

 巫女の手で正規の手順を踏んで解除された采希の封印は、荒ぶることなく琉斗(りゅうと)の身体の中で発現を待っていた。


 琉斗の身体が大きなオーラに包まれる。いつもの真っ白なオーラではなく、所々に虹のような煌めきが見えた。


 ──しゃらん。

 神楽鈴の音と共に、凱斗に貴人が降臨する。

 一瞬、身体を強張らせた凱斗が、ゆっくりと息を吐き出した。


「……凱斗兄さん」


 心配そうに声を掛ける那岐を見て、にやりと笑う。

 以前の様に身体が暴れ出すこともなく、凱斗からも銀色の気が立ち昇った。


「……うん、いけそうかな。炎駒、琥珀、サポートしてくれ。──っしゃ、行くぞ! 采希、那岐、結界を解け! 天乙貴人! 縛!!」


 采希と那岐の結界が消失したその刹那、凱斗の左手を添えた右腕から大砲のような念が放出される。

 その光はある一点で無数に分かれ、光の帯が巨大な骸骨を絡めとった。


「──効いてる……。采希、柊耶、いけるか?」


 黎が骸骨を見上げる。

 無言で采希が金剛杵を出現させると、金剛杵はするりと両端が伸びた。

 柊耶が采希の差し出した金剛杵を受け取ると、ぱきりと音がして、金剛杵は真ん中から二つに折れた。


「──あ!!」


 慌てる柊耶に、采希が笑ってみせる。


「これで、いいんです。柊耶さん、狙うのはあいつの両眼です」

「……両眼?」

「そう。あいつの眼窩に、赤黒い炎のようなモノが見えますか? そこを狙うようにと、うちの従兄弟(はるひ)が言ってるので」


 那岐と黎が同時に榛冴を振り返った。


「榛冴、そこが奴の【核】なのか?」


 小さく首を振りながら、榛冴が黎に答える。


「いいえ、違います。あれは、土地神が何体か集まっているもののようなんですよ。なので、【核】は複数存在するうえに、お互いがお互いを庇い合っているような状態です。……そういった状況を説明したところ、カイさんが『そいつらの結びついている部分を解き放ったらどうだ?』と提案してくださって。僕もそれが最善と判断しました。──その場所が、両眼の辺りです」


 腕組みをしたままカイが親指を立てて黎に笑ってみせた。


「そういう訳なんで、金剛杵は二つに分かれて正解なんです」


 薄く笑う采希に、黎と柊耶が頷いた。


「では──行きます、柊耶さん」



 * * * * * *



 ()()は目の前に浮かんだ気配を歯噛みする思いで見つめる。

 永くこの地にあった自身にとって、一方は己を滅する天の気に通ずる者、そしてもう一方は極上の餌の気配がした。

 ただ、その餌は現在、金剛石のごとき鎧に覆われているようだ。

 己の力を大きくし、この地に蔓延る邪魔者(人間)を排除するため、それは自分の身体を呪縛する気に抗おうともがく。



 巨大な骸骨は、凱斗が放った光の呪縛で苦しんでいるように見えた。

 だが、それもいつまで保てるか分からない。

 実際、凱斗の表情も辛そうに歪んでいる。

 采希は柊耶の腕を取って骸骨の眼窩の近くまで跳んだ。

 赤黒い炎は、眼窩のかなり奥で静かに揺らいでいる。

 不気味なその炎を見つめながら、柊耶は両手に持った金剛杵で眼窩を指し示す。


「……采希くん、これ、届く?」

「使い手の意思に従って伸びるはずなので、大丈夫です。金剛杵が柊耶さんに従わなくても、あの炎まで届くように俺が伸ばします。柊耶さんは絶対金剛杵を離さないでくださいね」


 采希が言い終わると同時に、骸骨の頭部がぎちぎちと音を立てて柊耶を正面に見据える。

 ここに、己にとって一番邪魔な気配がいる。そう理解しているのを感じさせる動きだった。


(……マズい!)


 かぱりと骸骨の下顎が下がり、剥き出しの口腔から無数の黒い球が飛び出してきた。

 柊耶の腕を抱えたまま、采希は自分たちの前に防護壁を作り出す。

 きっちりと防いだつもりだったが、思った以上に衝撃があった。少しずつ防護壁が押し戻される。


(腐っても、神……か)


 凱斗が放った光の呪縛が徐々に細くなっていくような気がした。


(時間がない。まずは攻撃を止めないと柊耶さんが近付けない)


 柊耶を抱えていた腕を、そっと離す。


「落ちないですから、安心してください。ちょっと、両手を使わせてもらいます」


 頬が引き攣った柊耶の周りにさらに防御の気を纏わせながら、采希は三郎を呼んだ。


「三郎さん、蛍丸に神気は斬れるのか? 多分まだ俺の身体の方にいると思うけど、呼んだらここまで来れるか?」

《お主の気を纏わせれば可能だ》


 采希の頭に声が響く。三郎単体では蛍丸を駆使しても神気は斬れないと言う事か、と思った。

 開いていた骸骨の下顎がゆっくりと閉じる。再び先刻の攻撃を喰らう前にと、采希は大きく息を吸い込んだ。


「蛍丸、来い! 三郎さん、手をお借りします!」


 采希の意図を酌んだ三郎が、琉斗の身体に重なるように同調する。


「黎さん、八咫烏の眼を貸して!」

「了解だ。采希、俺は凱斗の援護に回る。──柊耶を頼んだぞ」


 采希の視界が急激に広くなった。さすがは霊鳥、目指す相手の内部まで良く視える。

 攻撃を司る気が一点に集中しているのを、八咫烏の眼が捉えた。


(これなら……三郎さん、頚骨──喉仏の辺りだ)

《心得た》


 打ち刀より幾分長い太刀となって現れた蛍丸を構え、巨大骸骨の喉頭軟骨に狙いを付ける。

 再び、がくんと骸骨の下顎が落ちて攻撃の第二波が放たれ、喉元付近に移動しようとしていた采希の動きが一瞬止まった。

 しかも先程の黒い球に、炎を纏った槍のようなモノが混じっている。


(ヤバい……防ぎきれない!)


 球状の念に合わせて柊耶の前に防護壁を作っていたことが見抜かれている。瞬時に別の防護壁を構築するには時間がない。

 考えるより先に身体が動く。采希は柊耶の前で両手を拡げた。

 防護壁をすり抜けて襲い掛かる赤黒い槍が、琉斗の身体を掠めて無数の傷を付ける。

 采希は思わず舌打ちをして柊耶を振り返った。


「柊耶さん!」


 俯き気味の柊耶が、両手に持った金剛杵をくるりと逆手に持ち替える。

 そのまま目にも留まらぬ速さで振り回された二本の金剛杵は、采希の防護壁をすり抜けた赤黒い槍をいとも簡単に叩き落した。


(…………視えて、いないんだよな?)


 驚きに眼を見張った采希に、柊耶が真っすぐに眼を向ける。


「正面からの攻撃だけなら、僕には問題ない。采希くん、急いで」


 神業、という言葉が脳裏を過り、采希はごくりと唾を飲み込んだ。



 * * * * * *



《……黎さん、お願いがあるんだ》


 微かな神楽鈴の音と共に、姪の声が耳のごく近くで聞こえた。

 黎はふっと笑って声の方へと手を伸ばす。


「ああ。そろそろかなって思ってた。……貴人でも複数の神格相手じゃ完全には縛せないようだしな」


 凱斗の中の炎駒も、神様相手ではある程度、力が相殺されてしまっている。

 以前に見た時の炎駒の力はこんなもんじゃなかったはず、と黎は臍を噛む。


「俺は構わないぞ。こんな身体でよかったら、存分に利用してくれ」


 今はこの此岸(しがん)にいない巫女の、苦悩する気配が伝わって来る。

 それだけで黎は、自分の身体に誰が憑依するのかを察した。それが自分の身体にどれほどの負担が掛かるのかも分かっていた。


 それでも──たとえ自分が倒れても構わないと、そう思えた。

 自分一人ではないというのがこれほど安心できるとは思わなかった。

 いつも自分を影のように護ってくれていた片腕は、その身に白い炎の鎧を纏っている。

 その炎で自分の片腕の男を護っているのは、組織でただ一人の巫女が認めた力を持つ、白虎の主。


(あいつらなら、きっと大丈夫)


 中空に浮いたまま闘う姿から視線を逸らさずに、黎は巫女に呼び掛けた。


「いつでもいいぞ、あきら」



 * * * * * *



 左手で支えた凱斗の右腕が、絶え間なく痙攣を繰り返す。

 身体の中からの圧力が半端ない。このまま体内で爆発してしまうんじゃないかと思うほどだった。

 凱斗の身体の中には、今、神獣の炎駒と十二天将の天乙貴人が納まっている。そのせいで弾け飛びそうな力を、神社の御神刀の化身・琥珀が必死に制御しているのが分かる。


(こんなに凄い力なのに、あのがしゃ髑髏とやらを抑えきれていない……うまく力を使えていない俺のせいか?)


 じれったい気持ちで唇を噛みしめると、隣で結界の準備をしていた那岐が凱斗に小さく声を掛けた。


「違うよ、凱斗兄さんのせいじゃない。神様系同士は多分、相性が悪くて……良すぎて? とにかく、力がうまく伝わらないんじゃないかな」


 横目でちらりと那岐を見て、凱斗は口を開きかけ、半開きにしたまま那岐の肩越しに黎を見つめた。


 黎の身体が淡い金の光を放ちながらゆっくりと宙に浮かぶ。

 その姿は徐々に歪み、烏帽子を被った狩衣装束に変わる。顔を覆うように大きな白い布が掛けられていた。


「……那岐、あれ……何?」

「…………誰? 黎さんの気配が全くない。まるで誰かが憑依……あ!」


 那岐が何かに思い当たったように声を上げる。

 白い面布の人物がばさりと袖を払い、印を結ぶ。


 その瞬間、凱斗の身体から繋がっている光の帯の抵抗が軽くなった。

 巨大な骸骨を絡めとっている【力】が増し、同時に凱斗の右腕の痙攣も治まった。

 瞬時に状況を見極めたカイの声がすっと風に乗るように通る。


「采希! 今だ!」


 琉斗の身体が振るった刃が一閃し、巨大な骸骨の喉元を切り裂いた。



 * * * * * *



 振り抜いた太刀の軌跡が狙い通りだったことを確認し、采希は八咫烏の視界が捉えた人物を見た。


(……誰だ? 知らない気配だ)


 急いで柊耶の傍に戻り口を開きかけた采希を、柊耶が指先で制する。


「……采希くん、あれは……黎くんだよね?」

「……え?」

「黎くんがあの姿に変わっていくのが見えたんだ。でも僕が知っている黎くんの【気】じゃない。あれは、誰?」

「柊耶、詮索は後だ。那岐が待ちかねてるぞ」


 カイの声が届く。先程もそうだったが、この距離で普通に話している声が聞こえているらしい。

 しかもカイの声がしっかりと届いている。

 本当に能力者じゃないのか? と采希が訝しんでいると、柊耶が苦笑いしながら金剛杵を構えた。


 采希の力で浮いているはずの柊耶は、まるで地を蹴るように、とんっと前に飛び出す。

 一旦交差させた両腕が頭上に掲げられ、左右に広げられた金剛杵はその長い針先を髑髏の眼窩に向ける。采希の力を纏った金剛杵は、するりと剣先が伸びる。


 流れるような動作で眼窩に突き刺さった金剛杵は、一瞬で赤黒く揺らめく炎を消し去った。


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